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第683話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
彩は信じられない思いだった。まさか真夕がこんなにも大胆で、世界一の富豪である岩崎家にまで乗り込んでくるとは思ってもみなかった。

彩「私たちの関係はうちに遊びに来られるほど親しくないでしょ。あなたを歓迎しないわ、すぐに出て行って!」

彩は早くも追い出しにかかった。

真夕は眉を軽く上げた。岩崎家に来られた以上、真夕はこのまま帰るつもりはないのだ。

真夕は謙に視線を向けた。「ちょっと、私が岩崎家に来るのは岩崎社長の承知の上だ。岩崎社長、まさかここで手のひらを返して、私を追い出すなんてことはしないよね?」

真夕は謙の人柄を信じている。謙のような男が、自分を追い出すようなことは絶対にしないだろう。

案の定、謙は彩を見やって言った。「彩、池本さんは今回が初めて栄市に来たんだ。ここでゆっくりしてもらおう。彼女は俺が空港から連れてきたんだ」

彩は抗議した。「……お父さん!」

謙「誰か、お茶をお出ししろ」

謙はリビングへと入っていった。明らかに彼の決定は揺るぎないものだった。

彩は怒りを込めて真夕を睨みつけた。「あなたって図々しいわね、うちに遊びに来るなんて」

真夕は彩の目の前に歩み寄った。「今やあなたは世界一の富豪のご令嬢じゃん。聞くところによると、この数年、栄市でかなり活躍されてるとか。その姿を一度拝見したいと思ったのさ」

彩は冷笑した。「岩崎家に来た目的は、それじゃないでしょ」

真夕は逆に問い返した。「では、私が来た目的は何だと思ってるの?」

彩は黙ったままだった。

真夕は声を低めた。「私の娘と司の母親が拉致されたこと、知ってるよね?」

彩「知ってたらどうだというの?知らなかったらどうだというの?とにかく私がやったことじゃないわ。まさか私を疑ってるんじゃないでしょうね?いい?物を言うときは証拠が必要よ。もし無責任なことを言ったら、今すぐ弁護士から訴状を送らせるわ!」

真夕の澄んだ瞳に冷たい光が宿った。「私は何も言ってないよ。そんなにムキになる必要ある?」

彩は鼻を鳴らすと、踵を返して歩き出した。「お父さん、私は部屋に戻るね」

謙はうなずいた。「ああ」

真夕はリビングに入り、ソファに腰を下ろした。謙は真夕を見つめながら言った。「さあ、池本さん。俺について来て岩崎家に来たのは何のためなんだ?」

真夕「岩崎社長、私の娘と堀田社長の母親が拉致さ
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