Share

第11話

Auteur:
電話をかけてきたのは藤堂陽介(とうどう ようすけ)、綾辻洵(あやつじ まこと)の大学の同級生だ。

洵は月子の弟で、今日大学を卒業したばかりだ。

大学時代から陽介と一緒にゲーム会社「無限次元」を立ち上げた。

叔父が海外移住する際、20億円と家一軒を残していったのだが、洵は20億円の方を選んだ。

この20億円が会社の元金になったのだ。

月子は知らせを聞いてすぐに言った。「わかった、すぐ行くわ」

彩乃が車で彼女を送ってくれた。

病院に着くと、月子は彩乃に車の中で待つように言って、急いで病室に向かった。

扉の前まで来ると、洵の冷たい声が聞こえた。「何で彼女に電話したんだ?」

彼女は足を止め、ドアを開けなかった。

月子はドアの隙間から、病室のベッドにいる洵を見た。

洵は20代前半だが、ここ数年の起業経験で随分と大人びていて、少年と大人の間の雰囲気を漂わせていた。

顔色は少し青白いものの、元気そうだった。

月子は少し安心した。

陽介は、洵の冷淡な表情を見て、理解できなかった。「お前の姉さんだろ?具合が悪くなったことを誰に言えばいいんだ?」

洵の声は酷く冷たかった。「俺のことは彼女に関係ない」

そんな彼を陽介は宥めようとして、「いや、一体なんでそんなに彼女のことが嫌いなんだ?いい人だと思うけど」と言った。

洵は過去の話をしたくなかったようだ。「黙らないと、出て行け」

「わかったよ、ゆっくり休んでくれ。俺は出て行く」

陽介は歩きながら呟いた。「俺ならこんな良い姉がいたらなぁ……」

月子は陽介が病室のドアに向かってくるのを見て、素早く身を隠した。

陽介はドアを開けると、彼女を見つけた。

月子は彼に目配せした。

陽介はすぐに気づき、見ていないふりをしてドアを閉めた。

病院の廊下の入り口。

月子はバッグからカードを取り出し、単刀直入に言った。「これには20億円入ってる。緊急用に使って。洵には私からだって言わないで」

当時、Lugi-Xを開発した後、彩乃は40億円で買い取った。

このお金は彼女の個人資産だ。

月子は浪費家でなく、Sグループの秘書の給料だけで日常生活の支出は十分に賄えるため、この40億円にはほとんど手を付けていなかった。

陽介は月子からいきなり大金を出されて驚いた。「月子さん、俺はただ洵の様子を見に来てほしくて連絡した
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé
Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
辛子明太子
月子みたいな女嫌いで〜す(笑)
VOIR TOUS LES COMMENTAIRES

Latest chapter

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第100話

    「……それじゃあ、幸せを祈ってあげよう」ネット上の世論は現実と変わらない。月子は別に驚きはしなかった。彩乃はしばらく絶句した。そして月子が気にしていない様子にホッとする反面、最低男にムカムカした。なにはどうあれ、とにかく今月子が一番大事なんだ。彼女が関わりたくないなら、それでいい。最低男への嫌悪感を抑え、それ以上は何も言わなかった。その後、もう少し話をしてから、二人は電話を切った。月子は静真と霞には本当に興味がなくなっていたが、それでもトレンドニュースを開いた。でもあえて二人の名前は無視した。上から下までスクロールしても、隼人の名前は見当たらなかった。慈善プロジェクトは露出が多ければ多いほどいい。紫藤家はきっと大々的に宣伝するだろう。隼人なら、ちょっと写真が出回っただけでトレンド入りするはずだ。なのに、一枚もない。さっきの晩餐会にはたくさんのメディアが来ていたけど、公開される写真や動画はすべて紫藤家がチェックするはずだ。隼人本人が、目立つのが好きじゃないんだろう。そうでなければ、紫藤家がこんなに大きな話題性を捨てる理由がない。つまり、静真と霞がトレンド入りしたのは、静真が許可したってことだ。彼は、自分が霞を愛していることを、みんなに知ってほしいんだ。うん、ご自由にって感じだね。月子はスマホの電源を切り、メイクを落とそうと洗顔に向かった。天音に汚されたワンピースはすでに捨ててある。新しいワンピースを脱いで洗濯機に放り込み、浴室へと入った。30分後、部屋着に着替え、仕事をするために書斎に入った。……忍との約束は午後3時から5時までだ。月子はテニスをするのは久しぶりで、道具も持っていない。テニスコートの近くで、ラケットとウェアを買いに行った。ライムグリーンのラケットと白いワンピースを選んで、ヘアバンドを選ぼうとした時、聞き覚えのある声がした。「月子、奇遇だね」振り返ると、なんと一樹だった。白いテニスウェアを着た彼は、忍と同じ切れ長の瞳に笑みを浮かべて、ハンサムな顔立ちに深みと魅力を加えている。どこか不良っぽい雰囲気もあって、店内の多くの人がつい彼に見とれていた。「月子もテニスしに来たの?」一樹は彼女に尋ねた。「も」という言葉から、彼もテニスをしに来たことがわかる。偶然の

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第99話

    これは仮説よ。現実には全くありえない仮説。だから、実際の状況を持ち出して反論しないで。ただ、あなたの考えが聞きたいだけなの。そうだ、彼と静真の関係も除外して、二人が血縁関係にないと仮定して、鷹司社長が月子を好きだったら、どうする?」現実離れした想像は、ただの空想だ。月子は仮定が好きじゃない。でも、友達とのおしゃべりなら、別に構わない。彼女は真剣に考えてみた。「まず、鷹司社長が私を好き。次に、彼と静真に血縁関係がない。この二つの仮定を前提としたら、断る人は少ないんじゃないかな。だって鷹司社長はイケメンでお金持ち、スタイルもいい。女性を喜ばせるには十分すぎるメリットでしょ」彩乃は尋ねった。「じゃあ、月子の答えは?」「人の考えは、自分の経験によって変わるものよ。彩乃、私、静真との結婚生活が破綻したけど、一番変わったことは何だと思う?」「恋愛観?」「そう、恋愛観が変わったの。友達とは普通に付き合うけど、相手が私に良くしてくれたら、私も良くする。お互いに心を開いてね。でも、恋愛に関して、私はすごくエゴイストになるの。たとえ今後、恋愛をしたとしても、相手には私を愛し、甘やかし、大切にしてもらわないとダメ。全てにおいて私を優先してくれないと、考えられない。だから、二つの仮定を前提に鷹司社長と付き合うかどうか聞かれても、答えは簡単。付き合わない。まだそんなに付き合いが長くないけど、今の私の判断では、鷹司社長が私を好きだったとしても、彼が全てにおいて私を優先し、私を一番に考えてくれるとは思えない」彩乃の脳内に、隼人の冷たい視線がよぎった。「……想像もできないわ」「でしょ?彼が私の望むことをしてくれないなら、たとえどんなに良くても、私にとっては意味がない。だから、彼を選ばない。以前は静真に夢中で、たくさん尽くしたのに、傷ついた。今は自分自身をしっかり守ろうと決めたの。もう誰にも傷つけられたくない」彩乃は思わずため息をついた。「月子、すごいわ。自分を愛することは一番大切よ」月子は言った。「そう、人を愛する前に自分を愛すること。実際、私のこの要求を満たせる男なんてほとんどいないわ。たとえ私が相手を好きでも、相手が私の望むことをしてくれないなら、もう妥協はしない。だから、恋愛にはもう何も期待してないの」実は月子は

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第98話

    月子はすっかり安心した。鷹司社長は筋が通っている。自分の金じゃないものは、一銭も受け取らない。自分のものなら、必ずもらう。夜食の後、月子は持ち帰り用の容器を片付けようとした。隼人は言った。「放っておいていい。お前がやる仕事じゃない。誰かが片付ける」彼には潔癖症があると知っていた月子は、既に半分ほど片付けてしまっていた。そのまま全部きれいに片付けた後、ゴミ袋と彼の上着を持って「おやすみなさい」と言い、部屋を出て行った。隼人はソファに座った。忍から送られてきたメッセージを見た。【さっき月子さんを家まで送ると言った途端、もう夜食を注文した後なのに急に退屈だなんて。この『急に』はちょっと『突然』すぎるんじゃないか?白状しろよ。本当はお前が月子さんを送りたかったんだろ!】隼人は【そうだ】と返信した。【やっぱりな、あざとい奴め!】忍は尋ねった。【どういうつもりだよ。月子さんは俺たちの前でお前にお礼を言ったのに、お前はだんまりだっただろ?俺が代わりに返事したんだぞ――そんなそっけない態度じゃ、独身なのも当然だ!なのに、急に親切にするなんて、一体何がしたいんだ?】隼人は返信した。【何も考えていない】月子は隣に住んでいるんだから、ついでに送ってやるのは当然だ。【しらばっくれるつもりか?いいだろう。月子さんはテニスはやったことがないと言っていたな。初心者には難しいってことも分かってるだろう。明日は俺が教えてやる。お前は見てるといい】隼人は【……】と返信した。【言葉も出ないか?】隼人はメッセージを返した。【好きにしろ。俺には関係ない】忍は返信した。【……強がってるのか?いいさ、ずっとそのままの態度をキープいろよ!】忍は隼人にメッセージを送ると、この件を賢と修也に愚痴った。修也は、もしこの目で見ていなかったら、忍の味方をして、鷹司社長が月子に対して他の人とは違う対応をしていると考えたかもしれない。今はそうは思わない。鷹司社長のような条件の良い男は引く手あまたなのに、今まで独身なのは珍しい。理由があるとすれば、彼自身が心を閉ざしているからだ。生い立ちか性格のせいで、古くからの友人以外には、隼人は無関心だ。そんな冷徹な男が、急に心を開くはずがない。忍がどんなに口説いても、鷹司社長は動じないだ

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第97話

    隼人は靴を履き替えなかったので、月子は靴カバーを取りに戻るのをやめた。彼女はここに来るのはこれで二度目だが、来るたびに部屋はきちんと片付いていた。毎日誰かが掃除をしているんだろう。ただ、以前は自分一人だったが、今日は隼人も一緒だ。少しだけ慣れない。でも、まあ大丈夫だ。月子はまず彼のスーツが入った袋を置き、夜食をダイニングテーブルに運び、いつものように自然に袋から取り出して開けた。隼人は手を洗った後、テーブルについた。月子は「鷹司社長、どうぞごゆっくり。おやすみなさい」と言った。そう言って彼女は立ち去ろうとしたが、彼は冷淡な声で「こんなにたくさん、一人で食べきれない」と言った。夜食の量は、月子は半分に減らして注文した。しかし、隼人が以前に注文したのは4人分だったので、半分でも食べきれない量だった。月子は家に帰って休みたいと思い、断ろうか迷っていたが、彼はすでに箸を持ち、視線も彼女から逸らしていた。月子は断るのをやめた――一度や二度なら断れるが、何度も断ると失礼にあたる。ただの夜食だし。月子は隼人の向かい側に座り、黙って割り箸を手に取った。夕食前に軽く食べて、その後は仕事に集中していたので、月子は本当にお腹が空いていた。栄養があってヘルシーな夜食をゆっくりと食べていると、会話はなくても気まずさは感じず、むしろリラックスできた。向かい側の隼人は、好き嫌いが多いようで、多くのものを残していた。彼の口に合わないのだろうか?月子の記憶力は良かった。ほとんどが隼人が注文したものだったので、自分の記憶違いではないと確信していた。彼が食べていないものは、忍たちの好みに合わせたものだろう。隼人は意外と気配りがある人なのかな?出前を頼むときも、友達のことを考えている。月子は沈黙が続くと思っていたが、隼人は突然「天音になぜ絡まれたんだ?」と尋ねた。「彼女を怒らせてしまったんです」明らかに隼人はこの答えを聞きたくなかったようだ。天音はすぐにカッとなる性格で、すぐ怒ってしまうのだ。もしかしたら太陽が少し強いだけでも、機嫌を損ねるかもしれない。「静真から、私に一日以内に退職するように言われたと、彼女が私に言ったんです。月曜日は出社しなくていいですって」静真と隼人は仲が悪い。この要求は、彼にとっては

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第96話

    隼人は既に女性から視線を外し、テーブルいっぱいに並んだ豪華な出前に指差して言った。「食べよう」忍は月子を誘った。月子は隼人の顔色を窺っていた。彼は表情を変えず、何を考えているのか分からなかったが、それ以上何も言わなかったので、多分大丈夫だろうと思った。彼女はテーブルの上の料理を見て、「じゃあ、私はお先に失礼いたします。皆さん、ゆっくりどうぞ」と言った。忍は驚いて「そんなに急いで、何か用事があるのか?」と尋ねた。月子は頷いた。忍は隼人を小突いた。「引き留めろよ」彼は月子が隼人の権威に押されて、このあのあざといヤツの言うことしか聞かないことをわかっていた。隼人は無関心な表情をしていた。月子は立ち上がり、丁寧ながらも距離を置いて言った。「鷹司社長、どうぞごゆっくりなさってください。私はこれで失礼します。今夜はありがとうございました」忍も立ち上がり、「そんなに改まることないだろう。大したことじゃないんだ。隼人の方が、あの悪ガキを懲らしめるのに適任だったから頼んだだけで、そうでなければ俺が手伝っていたさ。とりあえず、何か食べてから帰れよ!」と言った。月子は言った。「いいえ、また明日お会いしましょう」忍は明日のテニスの約束を思い出して、それ以上は勧めなかった。「それじゃあ、送っていく」彼はいつも紳士的だった。「いえ、大丈夫。すぐに配車アプリで車を呼ぶから」忍は「こんな夜遅くに、配車アプリを使うのは危ないだろ。送っていく」と言った。月子は言葉に詰まった。あまりに熱心すぎるのも困る。月子がどう断ろうか考えていると、隼人が突然立ち上がり、外へ歩き出した。忍の注意はすぐに隼人に向いた。「どうしたんだ?」「退屈だ。帰る」忍は絶句した。おいおい、この御曹司はどうしたんだ?さっき出前を取ったばかりじゃないか?隼人が個室を出ていくと、月子も二人に手を振って出て行った。もちろん隼人と一緒に帰るわけにはいかない。ビジネス会員制クラブの外にはタクシーがたくさん停まっていたので、月子は1台を捕まえればいいだけだった。見慣れたベントレーが彼女の前に停まった。月子が見ると、運転していたのはなんと隼人だった。運転手はもう退勤したのだろうか?この状況では、もう何も言う必要はなかった。社長のように後部座席に座る勇

  • 元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった   第95話

    「本当だよ。この前麻雀した時、お前の上司が勝ってたのに、俺たちが一人ずつ大物手を上がって、苦労して稼いだ金を全部巻き上げたんだ。最後には持ち出しまでさせてな」忍は嬉しそうに言った。月子は隼人を見た。彼は何も言わない。ということは本当のことだ。「続けよう」賢は「手加減はしないぞ」と言った。修也も頷いた。「今日は俺たち男三人、格好つけずにやるぞ」忍は面白がって煽る。隼人が珍しく月子に目標を設定したのに、勝ってしまっては面白くない。ずっと負けてもらわないと遊べないじゃない。三人の「挑発」に対し、月子は「大丈夫、どうぞ」と笑った。忍は急にテンションが上がった。「おいおいおい、隼人、お前の秘書が俺たちに挑戦状を叩きつけてるぞ。お前は俺たちの勝ちに賭けるか、それともお前の秘書の勝ちに賭けるか!」隼人は相変わらず面倒くさそうに何も言わない。ロボットのように冷淡な月子が、まさかここまでハッキリと応戦するとは。賢の闘争心に火が付いた。「月子さん、あなたには勝たせない」修也は月子と築き始めたばかりの友情を一時的に「断絶」することに決めた。「俺も」月子はかつて、エクストリームスポーツでしかアドレナリンが急上昇する刺激を感じ、その刺激をずっと忘れることができなかった。だから今、彼女も同じように勝ちたいという衝動に駆られた。この瞬間、彼女の頭の中には他に何もなく、ただ勝ちたいという思いだけだった。この感覚は本当にいい。月子は回転するサイコロを見ながら、口角を上げた。「大丈夫、かかってこい」結果、この一局の後、月子はまた8万円負けた。皆が引き続きからかっている中、月子は全く気にする様子がなかった。「いい手札を待ってるの」彼女は自信満々に断言した。隼人は麻雀卓を見ている。彼の位置は賢の後ろで、賢の向かいが月子だ。彼はさりげなく彼女を一瞥した。彼女はとても集中していて、勝ちたい気持ちが強く、話す口調と同じくらい断言している。まるで勝つと分かっているかのようだ。これまで何度も負けてきたからだろう、隼人は全く期待していなかった。視線は賢が持っている手札に戻った。手札はとても良く、月子のような初心者ではない彼は、ベテランなのだ。この局も予想通り月子は負けるだろう。隼人は結果を事前に予測していたので、上の空

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status