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第187話
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元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第191話
今まで何事もなく過ごせてきたのは、すべて隼人の方から歩み寄ってくれたおかげだ。相手が誰であろうと関係ない。他の秘書でも同じだっただろう。人と人との関係は、どうしても相性が悪ければ、無理に付き合うことはない。月子が隼人の秘書でいるのは、一生ではないのだから、この関係を維持する必要があるかどうかは、よく考えるべきだ。隼人の身分や地位を考えれば、多くの人が彼に取り入ろうとするのは当然だ。世間一般の考えでは、月子にはこの関係を維持する十分な理由がある。ましてや、隼人は彼女によくしてくれる。月子だけでは解決できないなら、誰かに相談してみよう。修也は秘書、賢は副社長。どちらも適任ではない。いろいろ考えた結果、忍の顔が浮かんだ。彼はよく隼人と衝突しているから、何かいい考えがあるかもしれない。月子は彼に電話をかけた。J市にいた忍は、とても驚いた。「月子さんか？一体どうしたんだ？俺に電話なんて。もしかして、寂しくなったのか？それなら、今から飛行機で会いに行くぞ」「そんな大袈裟な。ちょっと相談したいことがあって」月子がどれほど頭が良いかを知っている忍は、好奇心を抑えきれなかった。「俺に相談？一体何事だ？俺の頭じゃ、あなたにかなうわけないし、所詮一般人なわけだけど、まあ、何でも言ってみろ」そうは言うものの、忍も決して彼がいうような一般人ってわけでもないのだ。「……鷹司社長を怒らせてしまって。どうしたら機嫌を直してもらえるかしら」ただ好奇心で聞いていただけの忍は、途端に興奮を抑えきれなくなった。「どういうことだ？一体何があったんだ？詳しく聞かせてみろ！」修也から、隼人は月子に恋愛感情を持っていないと聞かされて以来、忍は自分の気持ちを抑えていた。本当に好きではないのなら、諦めるしかない。そうでなければ、相手に迷惑をかけてしまうだけだ。月子は、瞳の件を簡単に説明した。「あなたがしていたことと同じことをしたのに」「待てよ、俺のせいじゃないぞ。俺は、彼の女関係を噂するにしても、相手を選ぶぞ。例えば、あなたみたいに」「……良く選んだね」「別に難しいことじゃないだろう。理由は一つだ。俺なら彼をからかえるが、あなたは彼をからかうべきじゃない」「分かっている」彼女は秘書だ。忍のような幼馴染ではない。「分かっているつもりだろう」
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第190話
隼人はさらに尋ねた。「示し合わせたのか？」月子は即座に否定した。「いいえ！」「いいえ？一緒に朝食を食べていたじゃないか。月子、本当に何もないのか？」月子は、隼人が自分を全く信じていないことを悟った。「彼とは月曜日に役所に行く約束をしています。その時に離婚届を出すはずです！その日は休みを取らなければなりません」隼人の表情は少し和らいだが、視線は依然として暗く沈んでいた。その鋭い視線に射抜かれ、月子は息苦しさを感じた。「もう二度と彼のところには戻らないと誓います！」月子は以前にも忠誠を誓ったのに、なぜまた同じことを言わされているのか分からなかった。しかも、自分から言い出すなんて。きっと、隼人から発せられる威圧感に、抗うことができなかったのだろう。G市で隼人に助けてもらった恩を、月子は決して忘れることはなかった。静真のことで隼人が怒っているなら、自分が彼を慰めるべきだと思ったのだ。「鷹司社長、静真のことで怒っているんですか？彼は、あなたのことを一度も話したことがありません。私もあなたたちの間に何があったのか分かりません。なぜそんなに彼を嫌っているのか、話してもらえませんか？」隼人は子供時代の記憶に苛まれ、吐き気がするほどの嫌悪感がこみ上げてきた。「あいつを嫌うのに理由なんて必要ない」「なるほど、ただ静真に会って不機嫌になったんですね」自分のせいじゃなくてよかった。隼人は黙り込んだ。「私も同じです。彼に会うとイライラするので、ホテルで罵ってやりました」「出て行けと言わずに、罵ったのか？」月子は驚いた。そして、さらにプレッシャーを感じながら答えた。「少しだけ、憂さ晴らしができたんです」「では、以前は彼に何も言えなかったのか？」月子は何も言えなかった。隼人の顔色は、先ほどよりもさらに悪くなった。月子は途方に暮れた。兄弟なのに、ここまで仲が悪いなんて、珍しい。顔を合わせただけで、吐き気がするほど嫌悪するなんて。しかし、隼人がなぜ静真を困らせることに賛同したのか、月子には理解できた。本当に嫌っているからだろう。しかし、このままでは埒が明かない。月子は意を決して言った。「鷹司社長、月曜日まで待ってください」隼人は数秒間沈黙した後、低い声で言った。「本当にもう決めたのか？」月子は
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第189話
亮太は修也と打ち合わせを終え、顔を上げると、隼人が自分の方を見ていることに気づいた。その冷徹な視線に、亮太は背筋が凍る思いがした。まさか、聞かれてないよな……隼人は月子に気があるわけでもないし、聞いていようがいまいが関係ないはずだ。ただ、隼人という男は独占欲が異常に強い。秘書やアシスタントなど、自分の周りの人間には誰も手を出させない主義なのだ。そろそろ時間になったので、月子はスーツケースを持って階下に降りた。彼女は遠くから静真をちらりと見た。視線を感じたのか、静真は顔を上げ、冷ややかにこちらを見返してきた。結婚3周年記念日。こんな風に過ぎていくなんて。月子は視線を戻し、隼人の方へと歩み寄った。隼人は何も言わず、立ち上がり、外へ歩き出した。G市からK市へは、隼人のプライベートジェットで戻った。静真は二人の後ろ姿を見送りながら、奥歯を噛み締め、嘲るような視線を向けていた。彼は、さっきの隼人の視線の意味を考えていた。隼人は昔から人を見下すようなところがあり、入江家の人間を眼中にも入れていなかった。子供の頃は、会うたびに「入江家の落とし子」と罵倒されたものだ。しかし、隼人は我慢強く、そんなことは一度も正雄に告げ口しなかった。だからこそ、静真は隼人を心底憎んでいた。彼はどんな侮辱にもまるで無関心だった。――生まれてこのかた、隼人にまともに相手にされたことなど一度もなかったのだ。だから、さっきの隼人の視線には驚かされた。そして、静真はようやくあることに気づいた。隼人は本当は気にしていたのだ。自分が彼を嫌悪しているように、彼もまた自分を嫌悪していたのだ、と。そう考えると、月子の豹変にも説明がつく。自分の妻であり、彼の秘書でもある月子を使って、自分を愚弄しようとしていたのだ。この3年間、月子は従順で、自分の意見など何もなかったのに、たった1ヶ月でこれほど変わるとは、何か他に理由があるはずだ。そして、その原因は隼人にある。――月子自身が心変わりしたわけではないのなら、まだ受け入れられる。今の月子は気に入らない。今日、静真がG市まで追いかけてきたのは、普段では考えられない行動だった。しかし、3年間も連れ添った月子が突然変われば、驚きもするだろう。取り乱したのではなく、
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第188話
隼人は月子の目を見つめ、何も答えず、彼女のそばを通り過ぎ、遠くに静真を見た。その視線は、恐ろしいほど冷たかった。まるで、自分の縄張りを侵害されたかのように、相手を八つ裂きにしてしまいたいほど殺気立てていた。ほんの数秒後、隼人は視線を戻し、再び月子を見た。目にはもう特別な感情は読み取れなかった。彼はいつもと同じ落ち着いた声で、冷淡に言った。「K市へ」月子は今日一日をどう過ごそうか考えていたが、もう考える必要はなくなった。隼人は、彼女が荷物をまとめる間、ロビーのソファで待っていた。最初の視線以外、静真には目もくれなかった。静真もその場を離れず、レストランの席に座って、暗い表情をしていた。周りの客たちは二人を避けるように遠巻きにしていた。亮太は隼人と静真を交互に何度も見て、二人の間の張り詰めた空気に耐えられなかった。しかし、隼人に何かを尋ねる勇気はなく、火に油を注ぐことになりそうで怖かった。だから、亮太は修也の隣へ移動し、小声で尋ねた。「彼らは、いつもあんな感じなのか？」修也は「いいえ」と答えた。「どうして？」「滅多に顔を合わせないんです」「じゃあ、今日のこの騒ぎは、綾辻さんのせいなのか？」「違います」隼人は月子に恋愛感情なんて持っていない。月子のためというより、静真が何かするんじゃないかと心配しているだけだ。月子はSグループの社員だ。社員を守ることは、隼人にとっては当然のことだ。亮太は困惑した。海斗が自分のクルーザーで復讐しようとしてきたのは、明らかに隼人が自分を巻き込もうとした結果なのだ。だけど友達として、自分が彼に協力をするのは当然だ。だが、隼人はあんな騒がしいクルーザーでのパーティーは好きじゃないはずだ。それでも来たのは、月子のためだろう。好意がなければ、わざわざ連れてくるか？隼人が月子を好きじゃなければ、あんな大騒ぎするわけがない。ただの秘書だからって、そこまで面倒を見るか？隼人は滅多に他人を気にかけない。もし自分に少しでも気遣ってくれるものなら、自分はきっと感動して泣く自信がある。まさか、自分が秘書にも劣る存在なのか？すっかり混乱した亮太は、修也の肩に手を置き、耳元で囁いた。「隼人は綾辻さんのことを好きなのかどうか、正直に言ってくれないか？それによって俺
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第187話
もし静真がそれに気づいたら、きっとわざと彼女の目の前に現れて、嫌がらせをするだろう。静真は、月子にとって既に過去の人。彼の存在は、もはや彼女に何のダメージも与えられないのだ。本当に気にしないということは、完全に無関心でいるということだ。「本当に私と一日一緒にいるつもりなの？」彼女は冷たく尋ねた。「記念日は一日中だ」月子は冷ややかに笑った。「何を記念するのよ？」静真も冷笑し、嘲るような声で言った。「お前が、どれほど俺を愛していたかを記念するんだよ」「私のことを思い出してくれたのね」月子は唇を歪めた。「静真、だったら私は、あなたがどれだけ私をひどい目に遭わせたかを記念しないとね。今後あなたのことを思い出すたびに、嫌気以外に何も思い出せないかもね」静真は月子のことを一度も愛したことがなかった。だから、月子が離婚を決意したところで、彼にとっては何も変わらない。しかし、彼女の冷淡な言葉、その軽蔑するような態度は、静真には耐え難かった。彼は言った。「月子、言葉遣いに気をつけろ」月子は腕を組んだ。「帰ってって言ってるのにあなたは自分で結婚記念日とかくだらないこと言って居座ってるからでしょ？さっきも言ったけど、今の私を受け入れられないならさっさと帰って。そして、二度と私を変えようなんて思わないで。それに、あなたが私にしてきた仕打ちに比べたら、今私が言ってることなんて、まだ優しい方よ。それくらいで耐えられないなら、とっとと諦めればいいのに」静真は言葉を失った。「このまま惨めな思いをするか、今すぐ私の前から消えるか。どっちかにして、後は月曜日に役所で会えばいいだけの話よ」それを言われ、静真は何も言えなかった。月子は彼の考えなど気にせず、今日一日をどう過ごそうかと考えていた。静真と結婚記念日を過ごすなんてそんなわけがないのだ。その時、静真が再び口を開いた。「本当は俺に会いたくないんだろう？だったら、どうして追い出さないんだ？」月子は再び彼を見た。「あなたは今、私にとってはどうでもいい笑い話みたいなもの。出て行きたいなら止めない。出て行かないなら、暇つぶしに罵倒してストレス発散できるから、私にとって損はないからよ。わざわざあなたと揉める必要もないし、貴重な時間をあなたに使いたくないの」ここまで聞いて、静真は完全に言葉を
元夫の初恋の人が帰国した日、私は彼の兄嫁になった 第186話
月子は亮太を見つめた。彼は冗談めかして言っているようだが、実際は隼人の肩を持っていた。静真がここにいたからだ。亮太にとって、自分は隼人の秘書で、しかも隼人が自分をかばっている様子から、二人の関係は普通ではないと見て取った。それもあって、そこにいる静真を見ると、気に入らなかった。さらに、亮太は静真の素性を知っているからこそ、なおさら友達の味方をしようとしたのだ。月子にとっては、こういう行為は嫌いではないにしても、好ましくはなかった。この話題を避けようとしたその時、静真の冷たい声が耳元で響いた。「月子、昨日の夜、一体何があったんだ？」「あなたには関係ない」亮太は言った。「綾辻さんが話したくないなら、これ以上はやめておくよ。静真、彼女を困らせるなよ。隼人が機嫌を損ねるぞ」静真は亮太を冷たく見て言った。「余計なお世話だ」「綾辻さんは俺の大切なゲストだ。余計なお世話なんかじゃない」亮太はあっけらかんと笑った。ここまで聞いて、月子は静真が夫婦の話を持ち出すつもりだと察した。どうせ言うことになるなら、自分から言った方がましだ。「木村さん、静真は私の元夫です」静真は言おうとした言葉を飲み込み、ただ月子を暗い目で見つめた。「元夫」という言葉は、耳障りだった。亮太は呆気に取られた。ずっとお飾りだった瞳が突然口を押さえて叫んだ。「ええっ！綾辻さん、まだお若いのに、結婚してたんですか？」月子は頷いた。「若気の至りです」瞳は静真を見た。面識はないものの、見た目も雰囲気も、そして高級そうな仕立てのスーツ姿からも、相手がかなりの身なりであることが伺えた。若気の至りだったとしても、こんなにも優秀な男性なら、別に損することでもないだろう。結局、分かれても相手がイケメンでお金持ちだっていうことが後に、月子にとっても華麗なる恋愛遍歴の一つで、人に言えないような醜聞にはならないはず。瞳は心から言った。「綾辻さん、色々経験されてるんですね」亮太は、静真が隼人の弟だと知っていたからこそ、瞳ほどすんなりとは受け入れられなかった。当初は、友達のために恋のライバルとして牽制するつもりだったが、すっかりそのことを忘れてしまった。亮太は月子を見て、それから静真を見て、最後にまた月子を見た。月子への感嘆の気持ちがどんどん増していった。亮太
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