LOGIN隼人は海が大好きだから、月子は彼の誕生日はやはり海の近くで過ごすのがいいと思った。そこで、彩花から、おすすめのプライベートビーチ付きリゾートホテルを教えてもらった。そして、彼女が送ってくれた海の写真を見た月子は、その美しさにうっとりして、隼人もきっと気に入るだろうな、と思った。今はもう十一月。寒くなってきたから、暖かい海辺で二、三日過ごすのがちょうどいいのだ。誕生日だし、みんなでワイワイする方が楽しいだろう。それに隼人はもともと親しい友人が少ないから、全員呼んでも一つのヴィラで十分だった。月子は自分も知っている人を中心に、何人にも電話をかけて旅行の手はずを整えた。それから、友達何人かでグループラインも作った。忍は、海辺のリゾートで隼人の誕生日を祝うと聞いて、とても張り切っていた。彼はすぐに段取りを決めてくれた。月子と隼人は現地集合で、他の友人たちはまず自分のところに集まる。そこからプライベートジェットでみんなを連れていき、午後六時ごろにリゾートホテルに到着する、という計画だった。別の場所にいる亮太も、同じくらいの時間に到着する予定だ。月子と隼人は、夜の食事の準備をするため、半日早く向かうことにした。ついでに、二人きりの時間も過ごせるしね。この「二人きりの時間」は忍の提案だった。彼は、気を利かせたつもりで得意げだった。でも実は、忍が言わなくても、二人は仕事の都合で一日早く到着する必要があったのだ。しかし、リゾートホテルに着いたのはもう夜中の三時だった。荷物を片付けてお風呂に入ったら、四時になっていた。二人とも疲れていたから、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。何かしたくても、できる状態じゃなかった。初めて隼人の誕生日を祝うからだろうか。それともスーツケースに隠した黒い背中の開いたネグリジェや、これから起こることへの興奮と緊張のせいだろうか。とにかく、月子は珍しく昔の夢を見た。それは数ヶ月前の、彼女の24歳の誕生日の夢だった。月子は誕生日に、静真に妊娠したことを伝えようと思っていた。静真は一緒に過ごすと言ってくれたのに、友達と飲みに行って約束をすっかり忘れていた。彼がそのことに気づいたのは、次の日だった。なんて、嫌な夢だろう。でも不思議と、夢の中の月子は、ただ静かにその出来事を見
隼人は月子に嘘をつきたくなかった。でも、なぜか今は言葉にできなかった。性格のせいかもしれない。彼が完全に安心できるとき、例えば月子が本当に自分と結婚したいと思って、二人の関係がしっかり固まったとき、そのときに初めて話すつもりだった。月子は本気で気になった。「本当に、教えてくれないの?」隼人は聞き返した。「お前は、いつから俺のことが好きなんだ?」月子はすぐに答えた。「あなたと知り合ったら、誰だって好きになるわ。ごく自然なことよ」隼人は心の中でため息をついた。これはつまり、三年前にもし自分が月子を助けていたら、彼女は運命的に自分を好きになっていたということだろうか?月子、ずっと好きでいてくれよ。隼人はそう願いながら、彼女の耳元にキスを落とした。「おやすみ」月子はその答えが気になって仕方なかった。でも、彼が話してくれる日までこの気持ちを持ち続けるのも、なんだかロマンチックだと思った。……計画通り、月子と彩乃は、Lugi-Xのアップグレード版であるLugi-Mの開発で、目の回るような忙しさだった。月子は以前、千里エンターテインメントにいることが多かった。でも今ではSYテクノロジーの社員はみんな知っている。この会社には社長が二人いることを。一人は表に立つ彩乃で、もう一人が中核技術を担う月子だということを。技術開発部全体が、月子のチームだった。そんな月子は毎日仕事や勉強に追われた。そしてようやく遅れていた専門知識も取り戻し、業界の最先端までたどり着いたのだ。そのうえ恋愛までして、副業に芸能プロダクションまで経営しているなんて……まさにタイムマネジメントの達人といった多忙な生活を送っていたのだ。月子は、技術部で研究に没頭していると、いつも母親の翠を思い出した。翠は仕事に情熱を燃やす女性だったから、自分はますます彼女に似てきたなと感じていた。あんなに自分自身に厳しくて、理性的で強い母親が、本当に夫の浮気くらいで鬱になって、精神的に参ってしまったりするんだろうか。月子にも、自分の母親を理解できないときはあった。でも、二十年以上も騙され続けてきたんだ。きっと受け入れられなかったんだろうな。とはいえ、そんな考えがよぎるのは時々だ。月子は、翠が大好きだった。厳しくも優しい母親。今、彼女のようになれていること
月子は驚いた。「ちょっと、なに自慢げに言ってるの?」「じゃあ、できるだけ我慢するよ」隼人は彼女の耳元で囁いた。「一秒でも長くもつように、頑張るから」月子は驚きの表情を浮かべた。この人、何を言ってるの?今の隼人が、月子にはまるで別人のように思えた。付き合い始めた頃もキスやハグはしたけど、彼はもっと自分を抑えていた。こういう話はあまりしなかった。でも、年上ぶるのをやめてからは、だんだん恥ずかしげもなくストレートな言葉を口にするようになった。最初は淡泊で、そういうことに興味がない人だと思っていたけど、とんでもない勘違いだった。ちょっと触れただけでこんなに反応するのに、体の関係を持ったら、隼人がセーブできるとはとても思えない。普段は何でも自分の言うことを聞いてくれる。でも、キスやハグになると途端に積極的で強引になる。キスなんて、いつも息ができなくなるくらい激しい。こういう時、もし嫌がろうとするものなら彼は切なそうな顔をするのだ。すると、月子はつい折れてしまって、もう、いいかっとキスでもなんでも受け入れてしまうのだ。どうせ生理中だし大したこともできないんだから、結局彼があとになって自分で後始末をしなきゃいけないだろうから。しかしもし自分が本当に折れて、例えば、誕生日に関係を持ってしまったら、それでこそ完全に相手のペースに飲み込まれてしまわないのだろうか?そう思うと月子はそれ以上考えるのが怖くなった。隼人は何事にも徹底的にこだわるタイプだ。まさか、欲望に歯止めが利かない人……なんてことは、ないよね?そう自分に問いかけてみたけど、そういう確信は確かにないようにも思えた。そう思いつつ、月子は思わず笑えてきた。目の前には大きな罠が仕掛けられていて、自分は知らず知らずのうちに落ちていたんだ。だって、最初はこんなに早く関係を持つなんて考えてもいなかったのに。どうして、いつのまにか誕生日にって決まってるんだろう。絶対に彼の仕業に違いない。むしゃくしゃしてきた月子は、隼人を押しつぶすのも構わずに体の上に覆いかぶさった。そして、彼の耳をつまんで、顔をぐっと近づけた。「あなたが辛くなっても、自業自得だからね!」隼人は、彼女の服の裾から背中に手を滑り込ませ、体をきつく抱きしめた。そして、とても素直なふりをして言った。「はいはい、全部
心に空いた穴は、外の何かで埋めたくなるものだ。隼人は今でこそ落ち着いて見えるが、彼もまた自由を好む。それは生きとし生けるものが共通して求めるものだ。質問を投げかけた月子をじっと見つめながら、隼人は口を開いた。「昔、現実から逃げ出したくなったとき、速さだけが俺の味方のように思えた時期があったんだ。どこへでも、好きな場所へ連れ出してもらえそうな気がしたから」彼は少し考えるふりをして、別の言い方をしてみせた。「あるいは、スピードとスリルってやつは、生まれつき人を惹きつける魅力があるんだろ。波長が合えば、一目見ただけで好きになる。理屈じゃないんだよ」確かに、誰もが退屈な日常から逃げ出したくなる瞬間はある。彼のこの言い方を聞くと、どこかロマンチックにも感じられた。月子は眉を上げて微笑んだ。「血の繋がりって不思議ね。天音がレースを好きな理由も、あなたと似てる。彼女もエンジンの音を聞いただけで夢中になったの。やっぱり理屈じゃないみたい」天音のプライドの高いところは、静真にそっくりだ。でも、スリルとスピードを求めるところは、隼人と同じ。思いがけない共通点に、月子は少し驚いた。今まで、天音と隼人を結びつけて考えたことなんて、ほとんどなかったからだ。結局、天音が「兄」と呼ぶのは静真だけで、彼女自身、隼人のことは全く兄として意識をしていないのだろう。月子は、ついでに天音がどうして彼をあんなに怖がるのか聞いてみようかと思った。でもその時、隼人が深い眼差しで彼女を見つめ、不意に言った。「だけど、天音がお前を好きなのには、きっとなにか理由があったんだろう」月子はきょとんとした。隼人を見つめるうちに、彼女はゆっくりと目を見開き、信じられないという表情を浮かべた。「もしかして、あなたは私が……ってことを知ってたの?」「ああ、知ってたよ」月子は心底驚いて言った。「どうして?」レースは彼女の日常とはかけ離れたものだし、普段そんな素振りは見せていなかったはずだ。「どうして気づいたの?今夜、私のこと尾行してた?いや、違うわね。あなたが私を尾行する理由がないもの」月子は目を細め、今度こそ本気で知りたくなった。「早く教えて!」「お前が泣いてた日、覚えてるか?」隼人は尋ねた。隼人の前で泣いたことは何度かある。でも、レースに関係があるとし
隼人は月子の目をじっと見つめて言った。「今住んでいるマンションに、別のタイプの部屋があってな。210坪以上あるんだが、そこの内装を新しくしようと思ってるんだ。お前さえ良ければ、将来そっちに引っ越さないか」実は、彼が二人の新居として用意したものだった。そして彼は、疲れたときにゆっくり休めるよう、そことは別に景色のいい緑豊かな別荘も用意した。とはいえ通勤には、フリーリ・レジデンスの方が便利だろう。新しい部屋はもっと広いから、隼人が撮りためた海の写真を飾る専用の部屋も作れる。「お前の好みに合わせて内装を決めたい」隼人は彼女を見つめて言った。「ちょうど今夜、お前にその話をしようと思ってたんだ」月子はきょとんとした。「私たちの部屋って、二つ合わせたらもう210坪近くあるじゃない。どうしてまた新しいのがいるの?」「将来の俺たちのための部屋さ。お前の書斎も、俺の書斎も、たっぷり広く取れる」現に今でも、隼人は時々隣の自分の部屋に戻って仕事をしなければならないこともあった。それを聞いて、月子はぱちくりと瞬きをした。今の生活でも何の不便もないのに、これからのためだなんて……まるで結婚後の新居を用意しているみたいだ。隼人は以前にも、それとなく探りを入れてきたことがあった。でも、彼女がその話に乗らなかったから、今回もはっきりとは口にしていない。だけどこれは、これからもずっと一緒にいたいという、彼の遠回しなメッセージなのだろう。本当に、彼は抜かりのない人だ。こっちが隙を見せるとすぐに押しが強く、容赦なく迫ってくるのだ。そう思いつつも、月子はわざと気づかないふりをした。「あなたの家なんだから、あなたの好きにすればいいじゃない」隼人は言った。「一緒に住むんだから、お前の好みも大事にしたい。デザイン案がいくつかあるから、後で送るよ。好きなのを選んで教えてほしい。お前の要望も聞いて、もっといいプランにしたいんだ……面倒だと思わないでくれよな。きっと住み心地のいい家になるから」彼は彼女に反論させまいと、その頬に手を添えて優しく撫でた。「今日はお酒も飲んだだろ。先に休んでて。シャワーを浴びたら、すぐに行くから」月子は何か言おうとしたが、そのタイミングを逃してしまった。彼女はネグリジェに着替えたが、すぐには寝なかった。ベッドの足元にあるソファに腰
月子はシャチが写った写真を手にとって、裏に書かれた日付と場所を読み上げた。「どうしてこんなにたくさん撮ったの?」隼人は月子の服を一瞥し、彼女のそばに歩み寄った。そして自分も一枚写真を手に取り、裏に書かれた日付と場所を見る。すると、あの日のことを思い出せるのだ。「海を眺めるのが好きなんだ。海辺に行くと、写真を撮ってしまう。日付と場所はそのついでに書き留めていただけなんだ。なんでそうするのかなんて、考えたこともなかったよ。でも最初に書き留めてから、それが習慣になってしまったんだ」「海に何か特別な思い入れでもあるの?」「ある出来事がきっかけで、海が好きになったんだ」隼人は月子を振り返ってそう言った。海を見ると、かつて海辺をさまよっていた月子のことを思い出す。だから彼が撮る一枚一枚の写真は、彼女を思い出した証でもあった。当時、隼人は自分の気持ちに気づいていなかった。何か印象深い出来事に関連するものを見ると思い出してしまう、ただそれだけのことだと思っていた。そうやって月子を思い出す回数が増えるたびに、写真に収めてきたのだ。今になって振り返ってみれば、そのどれもが特別な思い出として記憶に残った。月子はうなずいて写真を置くと、振り返って彼の手を取り、その手のひらをなでた。「こんな遅くまで、何をしてたの?」隼人が顔を近づけると、月子はとっさに身を引き、瞳にかすかな動揺が走った。しかし、もう風呂にも入り髪も整えたのだから大丈夫だと自分に言い聞かせ、平静を装って彼に抱きしめられるのを待った。見た目はクールな鷹司社長なのに、彼女を抱きしめるのが大好きだ。もしかして、すごく寂しがり屋なのかもしれない。しかし、彼は月子を抱きしめず、髪の匂いを嗅いで頬にキスをした。そしてすっと体を起こすと、彼女の前に立ちはだかった。そして、月子のあごをくいっと持ち上げ、危険な眼差しで言った。「シャンプーも、ボディソープも、服も……うちの匂いじゃない。どこに行ってたんだ?」月子はめったに「悪いこと」をしないのに、会ってすぐに見破られてしまった。隼人の強引な性格はよく知っている。今言わなくても、どうせ問い詰められて白状させられるだけだ。彼女は半分本当で半分嘘の話を始めた。「彩乃の家で遊んでたの。そしたら味の濃いものを食べて汗をかいちゃって……気持ち悪かったから、







