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第3話

Author: 広羽
私の名前は如月美桜。現役の女子高生をやってる。

なぜわざわざ「現役」なんて言うのかといえば、今の時代、この魔法少女がいる素晴らしい時代において、少女たちには勉強や受験以外にもう一つ、選べる道があるからだ。

それは、「魔法少女」という特別な道。

魔法少女は、この世界で最も尊く、美しい存在だ!

この世で一番可憐なドレスを身にまとい、輝く宝石を身につけ、色とりどりの長い髪をキュートなリボンで結い上げる。手には夢のようなステッキを持ち、心に愛と正義を抱いて、社会の平和と美しさを守るのだ。

テレビやネットで魔法少女の写真やスレッドを見かけるたび、私は居ても立ってもいられずクリックし、その一文字一文字を食い入るように読んでしまう。

この沼にハマって以来、魔法少女のグッズやポスターは欠かしたことがない。自分の部屋も様々な魔法少女のフィギュアや抱き枕で埋め尽くされている。決して安いものではないけれど、お小遣いを計画的にやりくりすれば、十分に手が届く範囲だ。

魔法少女オタクだと言われることもあるけれど、否定はしない。人には誰だって趣味が必要だ。勉強と生きていくための生理的欲求を除けば、魔法少女はすでに私の生活に欠かせない一部なのだから。

私がいつ魔法少女を好きになったのか……

正確な時期やきっかけはもう思い出せない。たぶん、兄との関係が崩れ始めた頃だったと思う。幼い頃は影のように寄り添っていた二人が、今では背を向け合い、どんどん離れていってしまった。

何があったのかはわからない。ただ、昔の記憶を辿ると、兄が意図的に私を遠ざけ、冷たくあしらうようになったことだけはぼんやりと感じ取れる。

「兄妹なら以心伝心で通じ合うものだ」なんて言う人もいるけれど、そんな不確かなものが本当に存在するのだろうか?もし本当に兄と妹の心が通じ合っているのなら、どうして兄が理由もなく私を冷たくするのか、そしてどうして私がその理由をこれっぽっちも理解できないのか、説明がつかないじゃないか。

今の家の中は、空気の一粒一粒まで冷え切っている。家で顔を合わせても、あるのは沈黙と、気まずい視線の回避だけ。私はこの沈黙という名の暴力が嫌いだ。そして、まるで感情を失い、別人のようになってしまった兄のことも……

もし本当に徹底的に嫌われているのなら、いっそその方がいい。かつての情など断ち切ってくれれば、私も忘れられる。これからは兄妹ではなく赤の他人として、互いに干渉せずに生きていけばいい。

けれど、私と兄の関係は、へし折られたレンコンのようだ。会話は途絶え、関係は断絶の縁にあるように見えて、よく目を凝らせば、光の加減で見え隠れする糸のような繋がりが残っていることに気づく。

毎朝テーブルに置かれる、湯気の立つパンと牛乳。これだけは、幼い頃から変わらない兄の習慣だ。彼が家にいさえすれば、朝起きると必ず朝食が用意されている。

本当は、兄と一度ゆっくり話がしたい。普通の家族のように椅子に座り、心穏やかに語り合いたいのだ。でも、彼はその機会をくれない。

テーブルの朝食からはまだ湯気が立っているのに、玄関の靴はもう消えている。まるで私を避けるように、彼は決して「おはよう」の一言を交わす隙さえ与えてくれないのだ。

あるいは、そんな寂しさがあったからこそ、私は魔法少女に惹かれたのかもしれない。魔法少女の笑顔。その瞳に宿る明るさ、温もり、前向きな力は、本当に私を癒やしてくれる。家の冷え切った空気から私を救い出し、人生への情熱と愛を取り戻させてくれるのだ。

……

「美桜、美桜……美桜!」

耳元の呼びかけと肩を揺さぶられる感覚に、意識が現実に引き戻された。

視界のピントが合い、景色が鮮明になる。

まだ少し呆っとしていた美桜は、隣で肩を揺すっている少女の方を振り向いた。

「何を考えてるの?呼んでも全然反応しないんだもん!」

親友がようやく自分に意識を向けたのを見て、丸顔で愛らしい少女は安堵したように頬を膨らませて文句を言った。

「ご、ごめん。ちょっと考えごとしてて……」

美桜は申し訳なさそうに答え、耳元の後れ毛を指で払った。

十六、七歳という年齢は、青春の最も美しい時期だ。思春期の成長によって少女たちには女性らしい艶やかさが備わり始めるが、美桜の容姿はその中でも群を抜いている。

濡れ羽色の長い髪は腰まで届き、澄んだ黒曜石の瞳、潤いのある唇、カールしたまつ毛に、すっと通った鼻筋。身体のラインはまだ成熟しきっていないものの、清楚で俗世離れした美しさを放つ美人といえる。

美しい女の子はどこへ行っても歓迎されるもので、学校も例外ではない。

美桜の性格は決して悪くはないが、家庭環境の影響もあり、学校で真に心を許せる友人は、隣にいる小泉莉奈(こいずみ りな)という可愛らしい少女だけだ。

「何をそんなに真剣に考えてたの?」

莉奈は持ち前の野次馬根性を発揮して美桜の隣に詰め寄り、興味津々といった様子で尋ねてくる。

「もしかして、学校のかっこいい男子に見惚れてたとか?いや〜ん、教えてよ〜。わかるよわかる、この年頃の乙女は恋に焦がれるもんだし〜」

「変な勘繰りはやめてよ。色恋沙汰なんかじゃないから」

美桜は恥ずかしがる素振りもなく首を振り、淡々と否定する。

「ただ、放課後に学校の斜め向かいの『ラビットハウス』で魔法少女の新作グッズが出るから、無事に買えるかなって考えてただけ。

天海市に新しく魔法少女が現れたっていう噂、知ってる?確かコードネームは『ライラック』。紫の髪のすごく可愛い子なんだけど……そういえば、なんだか莉奈に似てる気がするね」

美桜は親友の顔をじっと観察する。どう見ても、莉奈と「ライラック」の目鼻立ちはそっくりだ。

「やだぁ、私が可愛いなんて。照れちゃうじゃな〜い」

莉奈は両手で自分の頬を包み込み、恥じらうようなポーズをとる。

「席に戻りなさいよ。このナルシスト!」

美桜はふざけて彼女を睨みつけ、机の上の教科書を次の授業のものに入れ替えた。

学校生活は、朝の木漏れ日を浴びているかのように穏やかだ。心地よい微睡みの中で、つい目を閉じて眠りたくなるような平和な時間。

その時だった。校内放送から、長く尾を引く防空警報のサイレンが突然鳴り響いた。

生徒たちは最初、呆然と窓の外を眺めていたが、教師が教室に飛び込んできて避難を促すと、ようやく事態を飲み込んだ。我先にと教室を飛び出し、最寄りの防空シェルターへの退避ルートへと殺到する。

美桜にとって、これほど耳をつんざくような警報を聞くのは久しぶりのことだ。天海市は国の南西部に位置し、大都市でもない。典型的な地方都市であり、襲撃の事例は極めて稀だ。

意識が追いつかないまま、体は一番近くにいた莉奈に引っ張られ、無意識に足が動き出していた。

「急いで!侵蝕種が来るわ!」

莉奈は美桜の片腕を掴み、驚くほど落ち着いた口調で、人が殺到する中央階段を避け、人影のまばらな非常階段へと走った。

腕が痛くなるほど強く引かれている。突然の警報に美桜の心臓は早鐘を打ち、混乱していたが、それ以上に莉奈の様子に驚いていた。

普段は天然で噂好きな親友が、常人離れした冷静さと沈着さを見せている。いつものキャラとは大違いだ。それに、今の莉奈が発揮している力は、あの小柄で華奢な体格からは想像もできないほど強い。

身長150センチそこそこの大柄な小学生のような莉奈が、自分より頭一つ分背の高い少女を引っ張り、飛ぶように走る光景なんて想像できるだろうか?

美桜の心には疑問が渦巻くが、今は逃げるのに精一杯で、問いかける余裕などない。シェルターに着いたら、じっくり問い詰めよう!

街はすでにパニック状態だった。逃げ惑う人々、道路に乗り捨てられた車。危険を前にして、交通網は麻痺している。

幸い、二人は学生であり、学校周辺の地理には詳しい。学校のすぐ近くには避難用施設が設置されている。距離にして約500メートル。足を速めれば、安全圏に逃げ込めるはずだ。

心臓はバクバクしているが、莉奈の手の温もりが、自分は一人ではないと教えてくれる。友人の体温が、パニックになりそうな心を繋ぎ止めていた。

ウゥゥゥゥゥ――!!

上空から強烈な高周波の振動音が響き、猛烈な風圧が襲いかかる。砂埃が舞い上がり、少年少女たちの悲鳴が上がる。

走っていた美桜は突風に煽られてバランスを崩し、その場で転びそうになった。間一髪のところで莉奈が手を差し伸べて支え、体勢を立て直させてくれる。

美桜はめくれ上がったスカートを押さえ、親友に感謝の眼差しを向けた。

「走って!ここはもう危険よ。今回の侵蝕種は……空を飛ぶタイプだわ!」

莉奈は上空の黒い残像を見上げ、その愛らしい顔に似つかわしくない深刻な表情を浮かべた。

二人は全速力で走り、ついにシェルターの入り口へとたどり着いた。

入り口はすでに人でごった返していたが、莉奈は誘導を行う治安維持隊員の姿を確認すると、安堵したように美桜の手を離した。

「ここまで来れば大丈夫。さあ、中へ」

「うん、一緒に……待って、どこ行くの?シェルターはこっちよ!」

美桜が頷いて一緒に入ろうとした瞬間、莉奈は手を離すなり、踵を返して来た道を戻ろうとした。

「先に入ってて!ちょっと用事があるの、すぐ戻るから!」

莉奈は振り返りもせず、学校の方角へと走り出した。

「ちょっと、莉奈!」

「そこの学生さん、早くシェルターへ避難してください!」

「でも、友達が……」

「お友達なら大丈夫です。今は急いでください!」

追いかけようとした美桜だが、いつの間にか現れたスタッフに制止される。

なすすべもなく、彼女は莉奈の背中がどんどん小さくなり、視界から完全に消えるのを見送るしかなかった。

人混みを避け、再び学校へと戻った莉奈は、空を見上げた。

そこでは巨大な蜂の形をした侵蝕種が、校舎を破壊の限りを尽くして蹂躙していた。ドリルのような毒針が、進路上のすべてを粉砕していく。

ピピッ!

唐突に電子音が二回鳴り響く。少女はスカートのポケットから小型の戦術ヘッドセットを取り出し、手慣れた動作で耳に装着した。

「チャンネル接続。ID認証……認証完了。魔法少女『ライラック』。戦時情報課とのリンクを確立しました。これより、あなたの会話はすべてリアルタイムで保護されます」

聞き慣れた女性の電子音声が耳元で響く。

「ライラック、聞こえるか?」

「聞こえます」

少女の声は沈着冷静で、その幼い声質とは裏腹に歴戦の戦士のような響きを持っていた。

「スカイネットを突破した危険度Bクラスの侵蝕種を検知。突破原因は現在のところ不明。魔力レーダーによると、コアエリアに最も近い魔法少女は君だ。周囲の状況は変身条件を満たしているか?」

「満たしています」

「承認。戦闘リストに登録完了。ライラック、今回のターゲットは危険だ。十分なデータがないため、この蜂型侵蝕種の危険度は暫定Bクラスとする。未知の敵だ。君の任務はあくまで敵の注意を引きつけ、時間を稼ぐことにある。自身の安全を最優先し、他隊員の到着を待て」

通信が一時途切れる。少女はヘッドセットから指を離し、深呼吸をした。そして懐から、掌ほどの大きさの淡い紫色の宝石を取り出した。

宝石を胸元に当てる。小泉莉奈は息を吸い込み、澄んだ瞳の奥で紫色の光が流星のように走った。

「魔法少女、IDナンバー11305。コードネーム『ライラック』。非殲滅任務を開始します。

変身!」

少女の凛とした歌うような声が響き渡る。

光が炸裂した。淡い紫の魔力が宝石から噴き出し、紫の奔流となって彼女の全身を包み込む。迸る光の柱が天を衝き、天と地を繋いだ。

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