Share

第26話

Author: おミカン
絵里の頭がカッと熱くなり、頬が瞬く間に赤に染まる。

「そ、そういえば、会社に原稿送ってなかったの思い出して……先に行くわね……」

彼女は慌てて立ち上がると、逃げるように階段を駆け上がっていった。

裕也の口元が、自然と綻んだ。

だが、先ほどの電話で彼女が口にした離婚という言葉を思い出し、瞳の奥の笑みはふっと消え、陰りが差した。

絵里は寝室に戻った。

携帯を手に取った直後、賢治から着信があった。

「絵里ちゃん、久しぶりだね。お爺ちゃん、会いたくてたまらないよ。

明日は誕生日だろう?あなたの好物を用意させるから、和也と一緒に食事においで」

賢治は声を弾ませ、慈愛に満ちた口調で続ける。

「この子は本当に、和也のことばかりなんだから。しばらく顔を見せに来ないじゃないか。明日は必ず帰っておいで。お爺ちゃん、顔が見たいよ」

本来なら、記念日に入籍することは両家とも承知していたはずだ。

賢治はてっきり、二人が無事に入籍を済ませたものと思い込んでいるのだ。

藤原家の中で、賢治は誰よりも絵里を可愛がってくれていた。

もう、向き合うべき時が来たのかもしれない、絵里はそう覚悟を決め
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (2)
goodnovel comment avatar
貴代惠
裕也さん心底ぞっこんですね
goodnovel comment avatar
Kayoko
藤原家のお爺さんに合うの楽しみ
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第772話

    彼は防犯カメラを指差し、ゆっくりと語尾を伸ばす。脅迫めいた言葉ではないが、それ以上に凄みがある。「警察に行きますか、それとも消えますか」泰樹は拳を握りしめる。人に脅されるのが何よりも嫌いなのだ。だが、自分の立場を考えれば、ここで騒ぎを起こせばすぐに大事になる。章を相手にするのはやめ、梨乃の耳元に顔を近づけると、いやらしく笑いかける。「また機会があったら遊ぼうぜ」梨乃は不快感に眉をひそめる。いちいち顔を近づけないと喋れないわけ!章の目が、ほんのわずかに細められる。泰樹が足早に立ち去ると、梨乃はつまらなそうに息を吐く。「松渕さんがわざわざ出てきたのって、イケメンを追い払うため?」章は彼女の前に立っている。影に覆われたその顔には微塵の感情も浮かんでおらず、瞳はどこまでも澄み切って静かだ。「送る。行くぞ」きびすを返して歩き出す。その口調は穏やかだったが、有無を言わせない響きがある。梨乃は、そのあまりにも冷淡な態度に呆れて笑ってしまう。そんなに私のことが気に入らないなら、どうしてわざわざ出てきたのよ。小走りで追いかけ、章の前に回り込んでその行く手を遮る。「自分でタクシー拾うから。私たち、そんなに親しいわけでもないし、わざわざ絵里の顔を立てて送ってくれなくても結構よ」言い捨てて、彼女は踵を返す。章の横を通り過ぎようとした瞬間、手首を強く掴まれる。淡々と彼女を一瞥する。「分かっているならいい」そして、半ば強引に梨乃を連れ去り、自分の車に押し込んでその場を後にする。一方。隆は一人残され、すっかり退屈しきっている。二人帰ってしまったなんて。スマホを取り出してLINEをスクロールすると、仕事のグループチャットが動いているのが目に入る。監督が霞の新しい脚本を絶賛している。数日前に配信されて大ヒットしたドラマと合わせてのベタ褒めだ。その光景は、かつて絵里が脚本を書いていた頃を彷彿とさせる。ほんの数ヶ月前のことなのに、ずいぶん昔のことのように思える。彼はチャットでさらに霞を褒めちぎる。「年末は全員ボーナス倍増だな。特に古賀先生、やはり俺の目に狂いはなかった」霞は隆の称賛の言葉を何度も読み返し、心の中で有頂天になっている。褒められた。嬉しい。これからもリード・ナウ

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第771話

    梨乃は呆然と立ち尽くす。隣にいたイケメンが彼女に声をかけ、遊びに誘ってきたのだ。そこへ章が梨乃の前に姿を現す。「行くのか?」梨乃は彼を見て一瞬驚いたものの、すぐに嫌悪感を露わにし、彼を突き飛ばす。「もちろん。行こっか」梨乃はイケメンに向かって微笑み、ウインクを一つ投げかけると、彼のベルトに指を引っ掛け、そのままエントランスの方へと歩き出す。その仕草は、この上なく妖艶だった。見ているだけで、男たちの血を沸き立たせる。周囲の男たちは羨望の眼差しを向けている。今夜のあいつは、とびきり運がいい。絵里が裕也に連れ去られたのを見ても、梨乃は少しも心配していなかった。むしろ、二人が腹を割って話し合えることを願っているくらいだ。バーを出て少し歩いたところで、梨乃はパッと手を離す。男の方を見向きもせず、タクシーを拾って帰ろうとする。「お嬢さん、すげぇ色っぽいし、なんか見覚えあるんだけど。で、この後どこ行く?」木付泰樹(きつき たいき)が下心丸出しで身体をすり寄せてくるが、梨乃はその胸に手を当てて押し返し、二歩下がって安全な距離を保つ。梨乃は目の前に立つ長身の男を値踏みするように見つめる。赤いレザージャケットに黒のインナー、首元にはゴツいシルバーアクセサリーをじゃらつかせている。いかにも不良っぽいが、顔立ちは悪くない。梨乃は赤い唇の端を吊り上げる。「あなた、顔立ちは悪くないのに……精気が足りないんじゃない?そのクマ、メイクかと思ったわ」「はあ?」泰樹は鼻で笑い、彼女の顎を指でつまんで睨みつける。「口先だけなら何とでも言えるよな。本番で試してみる度胸はあるのか?」梨乃をまじまじと見つめる。見れば見るほど、どこかで会った気がする。確かに、見覚えがある。先ほどバーで彼女に声をかけたのは、そもそも友人との罰ゲームに負けたからだった。でなければ、こんな場所で女を引っかけようなどとは思わない。いつもの遊び仲間の中から探した方がよっぽど手っ取り早い。だが、認めざるを得ない。この女は息を呑むほど美しい。派手なメイクが、その洗練された艶やかさを一層引き立てている。「試してみるか?」泰樹は喉仏を上下させ、彼女の耳元に顔を寄せて生温かい息を吹きかける。梨乃は心の中で盛大に舌打ちする。男

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第770話

    絵里は笑っているが、心臓は締め付けられるように痛む。あんなに努力してこの結婚生活を守ろうとしてきたのに、一体何を間違えたというのだろう。結局、こんな結末を迎えることになってしまった。きらびやかな照明が絵里の顔をかすめ、瞳の奥で揺れる涙の光を容赦なく照らし出す。梨乃はテーブルを叩く。「あいつから離婚を切り出したって?どういうつもりよ!」絵里は微笑んでいるが、胸の内は苦しさでいっぱいだった。「洋二が一生障害を背負うことになったのは、間接的には私のせいだし。雪枝は父を死に追いやったし……」絵里の声がふいに詰まる。鼻の奥がツンと痛くなり、危うく言葉を続けられなくなるところだった。それでも彼女は無理やり感情を押し殺し、涙を引っ込めると、梨乃に向かってにっこりと笑いかける。「本当に、私たちお互い苦しすぎたの。梨乃、もう疲れたよ」これまでの数々の出来事を思えば、こうするしか、お互いの苦しみを和らげる方法はないのだ。無理して気丈に振る舞う彼女の姿に、梨乃の目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。胸が張り裂けそうになり、絵里を強く抱きしめる。「だったら別れな。その関係があなたを苦しめるなら、捨てちゃえばいいのよ」梨乃は彼女の肩に顎を乗せ、ゆっくりと顔を上げて涙をこらえる。そして絵里の背中をポンポンと叩いて慰める。「今のあなたなら、どんな自由な生活だって手に入るじゃない。とにかく、楽しく生きるのが一番大事。わかった?」そう。自分が幸せでいることが一番大事。絵里は目を真っ赤にしながら、彼女の肩で頷く。「うん、楽しく生きるのが一番大事。ちゃんと覚えてるよ」かつて両親はこう言ってくれた。絵里は優秀になんてならなくていい、私たちの娘なんだから、と。ただこの一生を、楽しく、何の悩みもなく生きていってほしい、と。両親はきっと天国から見てくれている。自分が彼らの仇を討ったことを、きっと喜んでくれているはずだ。絶対に幸せになって、美しく生きる姿を両親に見せなければ……梨乃は絵里の酒に付き合い、二人ともかなりの量を飲んだ。絵里は相変わらず酒に弱かった。梨乃は絵里の手を引いて立ち上がり、ダンスフロアへ向かう。二人とも元々顔立ちが美しく、スタイルも抜群だ。フロアに立ち、軽く身体を揺らすだけで、人を惑わす

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第769話

    裕也は全身から怒気を漂わせ、きびすを返してエレベーターに乗り込み、階下へと向かう。先ほどからずっとエレベーター内で足止めを食らっていた健は、何が起きたのか全く状況を掴めていない。ただ、何の前触れもなく、またしても社長が不機嫌になったことだけは分かった。しかも、今朝よりもはるかに機嫌が悪い。絵里は数秒呆然とした後、力任せに修司を突き飛ばし、彼を睨みつける。「いい加減にして、少しはわきまえて」修司が足を引っ込め、何か口を開こうとするより早く。バタンッ!絵里は容赦なく、勢いよくドアを閉める。これほど冷たい態度を取られたというのに、修司は微塵も腹を立てる様子はなく、むしろ口角を吊り上げ、その瞳の奥に得意げな光を走らせる。ここまで見せつければ。さすがの裕也も、離婚に踏み切るだろう。……翌日。洋二が目を覚ましたという知らせを受けた絵里は、目の前にある離婚協議書を見つめながら、深い思索に沈んでいた。そこにはすでに裕也のサインがあり、協議の内容によれば、あの20パーセントの株式はすべて自分に譲渡されることになっている。理解できなかった。20パーセントの株式。それはつまり、私がその気になりさえすれば、後先を考えずいつでも藤原グループの実権を握れることを意味している。だが、現状における筆頭株主は賢治だ。彼女は頭を振り、離婚協議書をしまって仕事に戻る。昼時になり、寿樹と一緒に食事をしながら、システム開発の進捗について言葉を交わす。寿樹が直近の業務報告をする。システム開発はすでに大詰めを迎えていた。すべては絵里の想定通りに進んでいる。バッテリーシステムなどの調整が完了すれば、新たな生産ラインを稼働させることができる。だが、寿樹は絵里があまり嬉しそうではないことに気づき、気遣うように尋ねる。「洋二は自分のしでかしたことの代償を払い、残りの人生を車椅子で過ごすことになった。雪枝たちも裁きを受ける。なのに、どうしてそんなに浮かない顔をしてるんだ?」絵里は彼に対して隠し立てをしたことがない。ボイスレコーダーのこと、そしてあの年、自分が水に落ちた本当の理由を寿樹に打ち明けた。「雪枝のやつ、ずっと前からお前を狙ってたのか。和也と結婚しなくて本当に良かった」寿樹はギリッと拳を握りしめ、骨を鳴らす。

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第768話

    そう考えると、あの時本当に自分を救ってくれた恩人は、すでに誰かの手に掛かってしまったのだろうか?絵里の表情がスッと冷え込む。本当の命の恩人が誰なのか、一刻も早く突き止めたいという思いがさらに強くなる。だが、どこを探せばいいというのか。手がかりは、ほぼすべて途絶えてしまっている。眉間を揉みほぐしていた絵里は、ふとある人物を思い出し、ハッと瞳に光を宿す。この人物を捕まえて、きっちり問い詰めなければ。清苑に戻った絵里は、雨に濡れた身体の不快感に顔をしかめる。すぐにシャワーを浴びて、部屋着のパジャマに着替える。その後、修復できなかったボイスレコーダーを取り出す。自力で直そうと試みたものの、中のチップがすでに破損しており、データの復元は不可能だった。絵里は両手をデスクにつき、額を押さえる。気分は最悪のどん底だ。神様は、私の行く手をすべて塞ごうとしているかのようだ。だが、だからこそ諦めきれない。絶対に調べてやる!その時、インターホンが鳴る。玄関へ向かい、モニターを覗き込むと、ドアの向こうには修司が立っている。ちょうどいい。彼には聞きたいことがあったのだ。ドアを開け、不機嫌な顔のまま言い放つ。「何しに来たの」修司は面白がるように眉を上げる。「水原さんって、情熱的だったり冷たかったり、本当に同一人物なのか疑いたくなるよ」「私がいつ、あなたに情熱的になったっていうの?」絵里は鼻で笑う。「そうかな?危険に直面した時、秘書に頼んで俺に助けを求めたじゃないか。あれは情熱的とは言わないのか?」修司はわざとらしく残念そうな顔をする。「もしかして、俺がすぐに駆けつけられなかったから、また冷たくし始めたとか?これでも一応、水原さんの命を救った恩人なんだけどな。そんな態度はひどいんじゃないか」修司はじりじりと距離を詰め、強引に玄関へ入り込んでくる。絵里がドアを閉めようとした時には、すでに遅かった。冷ややかな視線で彼を睨みつけ、外を指差す。「出て行って」修司は手に持っていた紙袋を掲げる。漆黒の瞳に意味深な光を走らせ、からかうような視線を向けてくる。「服を届けに来たんだ。昨日、ホテルに忘れていっただろう」絵里は袋をひったくるように受け取り、中身を確認する。確かに昨日着ていた服だ

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第767話

    母を亡くして以来、絵里は心に深い傷を負い、こういう場所に来るたびにトラウマが呼び起こされ、パニックに陥ってしまう。父が亡くなった年には、和也の腕の中で泣き崩れ、そのまま気を失ってしまったほどだ。最愛の家族を失ったからこそ、今そばにいる人を大切にしなければならないと、誰よりも痛感している。「絵里様、ご気分は大丈夫ですか」顔面を蒼白にしている彼女に気づき、丈裕が心配そうに耳元で囁く。絵里は首を横に振る。今は何よりも、亡き人を弔うことが最優先だ。何度か深呼吸を繰り返し、どうにか心を落ち着かせる。気力を振り絞って儀式を終える頃には、絵里の顔色も少しだけ血の気を取り戻していた。連れ立って墓地を後にし、駐車場のそばに立ったところで、絵里はようやく南に向かって正式に声をかける。「浅見さん、この度はご愁傷様でした」「ありがとうございます」南は裕子の手をしっかりと握りしめている。裕子はもう泣き止んでいたが、髪には霧雨の滴がまとわりつき、泣き腫らした両目は見ていて痛々しいほどだった。絵里の髪も湿り気を帯び、服にも冷たい水気が染み込んでいる。雨のせいで肌寒かったため、絵里は丈裕に命じて裕子を車へ連れて行かせ、髪を拭いて体を温めるよう指示する。「浅見さん、これからはどうされるおつもりですか」今回の件に関して、絵里は彼女たち一家に対して強い罪悪感を抱いていた。もし自分がボイスレコーダーの件を調べ続けていなければ、こんな悲劇は起きなかったかもしれないのだ。南の顔には深い疲労が刻まれ、何日もまともに眠れていないのか、目の下にはくっきりと隈ができていた。まだ三十歳にも満たず、普段は洗練された身なりをしている彼女だが、今はまるで数年分も老け込んでしまったように見える。彼女は気力を失ったような声で呟く。「仕事を続けて、この子をちゃんと育てていきます。裕子の父親は本当にどうしようもない人で、不倫して離婚した後、その相手と一緒になってしまって……今度は母までいなくなって、私は……」南は言葉を詰まらせ、それ以上は声にならない。絵里はそんな悲痛な言葉を聞いていられず、鼻の奥がツンと痛んだ。温かかったはずの家庭が、こうもあっさりと壊れてしまうなんて。絵里はポケットから、あらかじめ用意していた小切手を取り出す。「こ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status