Share

第866話

Author: おミカン
メディアの記者たちはまだ立ち去っておらず、彼らのその顔色を余すところなくカメラに収めている。

ネットユーザーたちは再びその表情から、ニュースの真偽を分析し始めている。

そのニュース画面を見つめている絵里は、満足げな表情で裕也に視線を向ける。

「今、ネット上ではあなたが重傷を負って意識不明だって噂で持ちきりよ。きっともうすぐ、あなたの言った通りになるわ」

裕也は静かに絵里を見つめ返す。その瞳には、どこか申し訳なさそうな色が浮かんでいる。

「本当に俺を恨んでないのか?前のウェディングフォトもトラブルで撮れなかったし、今回も邪魔が入った。お前には迷惑をかけてばかりだ」

絵里は彼をじっと見つめると、歩み寄って両手でその頬を軽くつねる。胸の奥には、彼が無事であることへの深い感謝が溢れている。

「私はただ、あなたが無事でいてくれさえすればそれでいいの。

写真なんて今回が駄目なら次回、それでも駄目ならまたその次に撮ればいいじゃない。でも、命を失ったら、すべて終わりなんだから」

ベッドに腰掛ける裕也の前に、絵里が立っている。

裕也がわずかに顎を上げて彼女を見上げる。絵里はそっと視線
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第900話

    裕也の口調は確信に満ちており、決して問いかけなどではない。洋二は顔を強張らせる。図星を突かれたのは明らかだった。「お前も言っただろう。俺はずっと、お前が奴の息子だと思っていたんだ。これだけ長い間、雪枝に裏切られ続けてきた俺が、恨んで何が悪い!」洋二は怒りを露わにし、悪びれる様子もなく言い放つ。その身体はまだ小刻みに震えている。半身不随でさえなければ、今すぐにでも俊介を捜し出し、この手で殺してやりたいほどだった。本来の計画であれば、すべてが終わった後、俊介も死ぬ運命にあったのだ。だが、まさか誰が自分の血筋かも見抜けず、実の息子まで手にかける寸前だったとは。裕也の眼差しがふと鋭さを増す。「百歩譲って復讐するにしても、狙うべきは張本人だろう。無実の人間を巻き込むべきじゃない。お前の実の息子が俺だろうと、和也だろうと関係ない。俺たちに、何の罪があったっていうんだ!」裕也は怒りを押し殺し、その瞳には抑え込まれた感情が渦巻いている。周囲の空気が重く沈み込み、病室の温度が急激に下がったかのような、骨の髄まで凍りつくような冷気が漂う。洋二は言葉を詰まらせ、ぐうの音も出ない。裕也は、そんな無様な父親を冷ややかに見下ろす。その表情には、肉親に対する情愛の欠片すら宿っていなかった。「すべて自分の思い通りに進んでいると思い込んでいたんだろうが、実際は、お前自身が利用されていたんだ」裕也は唇の端を吊り上げ、嘲笑する。「小針は最初から最後まで、和也が自分の実の息子だと知っていた。考えてもみろ。足を洗って何年も経つ奴が、どうしてたかだか十億円のために絵里を殺し、俺まで殺そうとしたのか?」洋二の目が大きく見開かれる。その瞬間、脳裏に一つの考えが閃いた。すべてが繋がった。自分は奴らに利用されていたのだ!「こんな結末を迎えたのも、すべては自業自得だ。お前と母さんは、実にお似合いの夫婦だよ」「裕也!」背を向けて立ち去ろうとする裕也を見て、洋二はサッと顔色を変えた。「待ってくれ、裕也……!」慌てて呼び止める声にも、裕也が立ち止まることはなく、一度たりとも振り返ることすらない。「裕也、父さんが悪かった。約束する、必ず償うから!裕也!」洋二がどれほど後悔と悲痛に満ちた声を上げようとも、裕也の足取

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第899話

    「お前らしくもないな、父さん」裕也の声には微塵の抑揚もなかった。その瞳には、嘲りとも哀れみともつかない色が浮かんでいる。洋二は今すぐ死んでしまいたいほどの後悔に苛まれている。「すべては雪枝のせいだ。あいつが長年お前を蔑ろにしてきたから、俺は……俺は勘違いしてしまったんだ。お前はあいつが過去に犯した過ちの恥辱だから、幼い頃から少しも愛情を注がなかったのだと思い込んでいた。まさか、俺がここまで愚かだったとは!」あの頃、雪枝は彼に対して上品で淑やかに振る舞い、てっきり心から自分を選んでくれたのだとばかり思っていた。洋二は有頂天になり、彼女を一生大切にすると誓ったものだ。結婚前、雪枝は家出をしてまで、そのいわゆる「恋人」と一緒になろうとしていた。当時、彼は雪枝の恋人が誰なのか知らなかった。だがその頃、雪枝の実家は破産の危機に瀕していた。名門であるがゆえに、どこの馬の骨とも知れない男と一緒になることなど許されるはずもなく、藤原家との政略結婚を目論んだのだ。当初、洋二は乗り気ではなかったが、雪枝を一目見た瞬間に恋に落ちた。しかし雪枝は彼に見向きもせず、極めて冷淡な態度を取り続けた。それから二ヶ月後、雪枝の恋人が罪を犯して逃亡したという噂を耳にした。悲嘆に暮れた雪枝から酒に誘われ、その夜、二人は一線を越えた。やがて妊娠が発覚し、二人は当然のように結婚した。だが洋二の心の底には、常に疑念が渦巻いていた。たった一夜の過ちで、そう簡単に身籠るはずがない。この子は自分の子ではない、と。今になってよく考えれば、雪枝が身籠っていたのは間違いなく俺の子だったのだ。しかし裕也が生まれた当時、雪枝は裕也にまったく関心を示さなかった。しばらくの間は、抱き上げようとすらしないほどだった。だからこそ俺は、雪枝が自分を捨てて逃げた恋人を憎むあまり、その男との子である裕也にも冷たく当たっているのだと思い込んでいた。だが真実は違った。雪枝が裕也を愛さなかったのは、ただ単に、裕也が俺と彼女との間にできた子どもだったからだ!考えれば考えるほど馬鹿げている。洋二の胸の内に底知れぬ悲哀が広がっていく。深い罪悪感に苛まれながら、じっと裕也を見つめている。「裕也、俺が間違っていた」だが、裕也の表情はピクリとも動かない。その冷え

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第898話

    護衛が素早く動き、和也を引き剥がす。「正気じゃないわ!私が裕也の妻だということを抜きにしても、あなたとやり直すなんて絶対にあり得ない!」絵里は一歩も引かず、冷ややかな目で和也を見据える。その一言で、和也が抱いていた最後の望みは、あっけなく消えた。絶望のあまり膝をつき、彼は絵里を見上げる。「俺たちのほうが先に付き合ってたのに、どうして今はあいつを選んで、俺を捨てるんだよ!」「そもそも私がどうしてあなたと付き合ったか、自分でもよく分かっているはずよ。盗んだものはいつか返さなきゃいけないの。あの時、私を助けたと嘘をつかなければ、私たちが結ばれることなんて絶対にあり得なかった」絵里の表情は冷ややかで、そこには激しい怒りさえ滲んでいる。五年間も無駄にされ、騙され続け、挙げ句の果てには父まで死に追いやられた。この恨み、まだ完全に晴らしたわけじゃない!和也の表情が凍りつく。「まさか、全部知っていたのか?」いや、あり得ない!あの時、彼女を助けたのは芳昭だとすでに伝えてある。たとえ彼女が信じなかったとしても、それ以上調べようがないはずだ。それとも、裕也が話したのか?だが、ここ何年も裕也はそのことに一切触れていない。もしかしたら、とっくに忘れているかもしれない。絵里は訝しげに目を細める。「知ってるって、何を?まだ私に何か嘘をついてるの?」和也は激しく首を横に振り、彼女がまだ真相を知らないことを確信する。彼女が知らない限り、まだ望みは残っている。でなければ、本当にすべてを失ってしまう!すでに藤原家の次男という身分を失った今、絵里まで完全に失うわけにはいかないのだ。「あの時騙したのは俺が悪かった。絵里、許してくれよ。俺と一緒に来てくれ。誓うよ、これからは絶対にお前を大切にするから……」和也は膝をついたまま這い寄り、絵里の前まで来ると、彼女の手を握ろうとする。だが絵里は冷淡に一歩後ずさる。まるで赤の他人を見るような、冷たい視線だった。「反吐が出るわ。昔の私が、どうしてあなたなんかを好きだったのか……今でも恥ずかしい」和也は頭の中で激しい耳鳴りがし、世界がぐるぐると反転するような感覚に襲われる。絵里は踵を返し、冷ややかな背中だけを残して歩き出す。「絵里、行かないでくれ……」和也は

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第897話

    絵里は出された菓子を口に運びながら、裕也の戻りが随分と遅いことを気に掛けている。そこへ、裕也が足早にリビングから出てきて、彼女の前にやって来る。「少し厄介事が起きてね。これから片付けに行ってくる。お前は先に護衛に送らせるよ」絵里は彼の険しい表情を見て、ただ事ではないと察し、心配そうに念を押す。「ええ、早く行って。どうか、気をつけてね」「ああ」裕也は愛おしそうに彼女の頬を撫でると、身を翻して足早に立ち去る。すれ違いざま、扉の外に控えていた護衛に、彼女を送り届けるよう命じる。絵里は焦燥に駆られたような彼の後ろ姿を見送りながら、健にLINEを送り、どうか裕也を守ってほしいと頼んだ。メッセージを見た健は、裕也のために密かに胸を撫で下ろしていた。社長はこれまで、数え切れないほどの苦労を重ねてきた。だが、奥様が現れてくれたおかげで、ようやくその心に温もりがもたらされたのだ。奥様から見れば、社長は冷酷な人間に映るかもしれない。だが、実際はまったくの逆だ。社長は誰よりも愛に飢えており、同時に誰よりも情の深い人なのだから……護衛に付き添われ、清苑に戻ってきた絵里が、まさに中へ入ろうとしたその時。背後から、ひどく掠れた和也の声が響く。「絵里……」絵里は足を止め、ゆっくりと振り返る。そこには、青ざめた顔で虚ろに立ち尽くす和也がいた。彼はふらつく足取りで、彼女の前まで歩いてくる。その姿は、まるで抜け殻だった。どうしてこんな姿に?絵里は眉を寄せ、内心ひどく驚いている。「何をしに来たの?」驚きはしたものの、その声色は相変わらず冷ややかだった。和也は彼女の冷淡な態度に傷ついたように、狂ったように髪を掻きむしる。「どうして……どうしてお前まで俺にそんな態度をとるんだ!」絵里はさらに眉をひそめる。護衛が警戒した目を向け、絵里の前に立ちはだかって和也の接近を阻む。和也の目は血走り、極度のショックを受けたかのようだった。「絵里、俺はもう何もかも失ってしまった。お願いだ、俺のそばに戻ってきてくれないか?抱きしめてくれ……苦しいんだ」髪を振り乱し、苦痛に顔を歪めながら、和也は絵里には到底理解できない言葉を口走る。絵里は、彼がグループの実権を握れなかったことと関係しているのだろうと思い、微塵も同

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第896話

    まったく、なんという愚かさだ!裕也は洋二にはあまり似ていないが、わしとはまるで生き写しではないか。血が繋がっていなくて、ここまで似るわけがないだろうに!さらに賢治を驚かせたのは、和也が藤原の血を引いていないという事実だった。あの雪枝め、藤原家の顔に泥を塗りおって……「ええ。父がなぜあんな行動に出たのか、俺も最近になってようやく知った」だが、裕也にとっても不可解な点があった。最初から自分を藤原の人間ではないと思い込んでいたのなら、なぜあの時、グループの全権を自分に委ねたのか。「父が何度もグループへの復帰を企て、和也を本社に送り込み、さらには殺し屋を放って俺を殺そうとしたのも、すべては今日のためだった。グループを一気に掌握するためだったんだ」「あいつはまだ老いぼれるような歳でもないのに、すっかり焼きが回ったか!そんなことをしても、グループの衰退を早めるだけだ。和也の奴に、たとえ本当に藤原の血が流れていたとしても、グループをまとめ上げる器などない」賢治は怒りに顔を歪ませ、全身をわなわなと震わせる。並の精神力なら、怒りのあまり卒倒していてもおかしくないほどだった。裕也は黙っている。洋二から幾度となく罠を仕掛けられた今となっては、実の親子であるかどうかなど、もはやどうでもいいことだった。賢治は荒い息を整えると、再び裕也を見据える。「和也が藤原の血を引いていないとすれば、あやつの本当の父親は誰なんだ?」裕也は目を細め、数秒の沈黙の後に答える。「小針俊介だ」まさか、あの男か!その名を聞いて、賢治には思い当たる節があった。俊介といえば、かつてG市で名を馳せた裏社会の顔役だ。その後、海外へ渡ってからは消息を絶っていた。一部では、敵対組織に追われて命を落としたという噂すら流れていたほどだ。それが数年前、海外で自らの会社を立ち上げ、一時期はビジネス界でも大いに名を轟かせていた。だが、やっていることは相変わらず裏の仕事ばかりで、賢治は昔からその手の輩を毛嫌いしていた。少し前に俊介が帰国したという話も耳にはしていたが、あえて関心を払わずにいただけだった。――まさか、雪枝があんな男と密通し、和也などというふしだらな子を孕んでいたとは!「雪枝は狂っているとしか思えん!長年、藤原家はあやつに

  • 入籍しないなら…兄嫁になります!~冷徹社長に溺愛される日々~   第895話

    その頃、絵里は裕也と共に、賢治を本邸へ送り届けていた。賢治は無類の茶好きで、普段から数多くの名茶を秘蔵している。渡辺が淹れた茶を口にし、ようやく顔色が和らぐと、全身から漂っていた張り詰めた空気も随分と和らいだ。「裕也、自分がどこで間違えたか分かっているか」賢治は湯呑みを置き、厳しい眼差しを彼に向ける。その瞳には鋭い光が宿り、周囲の空気さえ押し潰すような強烈な威圧感を放っていた。その気迫は、まさに裕也が纏うものと瓜二つだった。祖父と孫の二人は、容貌だけでなく、その纏う空気までもがよく似ている。裕也は頭を垂れる。「悪かった、爺さん。父さんが負傷したことを、ずっと黙っておくべきじゃなかった」裕也は深く頭を下げた。絵里がこれまで一度も見たことのないほど、素直な姿だった。普段の裕也は冷徹で気高く、誰もが彼を前にすれば自然と畏れを抱く。そんな裕也をここまで素直にさせられるのは、おそらくこの賢治だけなのだろう。賢治は怒りを収め、軽く手を挙げる。「もうよい。洋二の奴が、まさかここまで愚かだったとはな。今日の結末は、奴の自業自得だ」息子も嫁もこれほどまでに冷酷で、あろうことか孫の妻にまで毒牙を向けるとは。賢治は目眩すら覚え、ようやく鎮めた感情が再び激しく込み上げてくるのを感じていた。「この件では我が藤原家がお前に済まないことをした。あいつらを許してやってくれとは言わん。ただ、お前と裕也がこれからも仲良く暮らし、こんなことに振り回されずに生きていってくれることだけを願っているよ」絵里は優しく頷く。「心配しないで。お爺さんと裕也が私を本当に大切にしてくれてること、ちゃんと分かってるから」「それならよい。絵里は本当に聞き分けの良い子になったな。その言葉が聞けただけで十分だ」賢治が杖をついてゆっくりと立ち上がると、絵里と裕也は慌てて歩み寄り、その身体を支える。「少し疲れた。先に休ませてもらうよ」「部屋まで送るよ」絵里は心配そうな表情を浮かべる。これほどの大事件が起きたのだから、賢治の心中が穏やかであるはずがない。賢治は軽く笑って手を振る。「いや、裕也に付き添わせればいい。そうだ、お前の好きな菓子を作らせておいたから、少し食べてから帰りなさい」絵里は胸を熱くする。賢治が裕

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status