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第3話

Author: 匿名
彼が言い終えて書斎に入った時、わざとドンと大きな音を立てた。

花音が帰ってきてからのこの一年、私たちは終わらない喧嘩に落ちていった。

毎回激しく言い合いになると、望月は自分だけ書斎にこもって、私に一人で冷静になれと言わんばかりだった。

私はずっとこの関係に期待と未練を持っていて、いつか望月が私の良さに気づいてくれると思っていた。

だからどんなに怒っていても、自分の気持ちを落ち着かせてから、牛乳を持って行ってあげたり、マッサージしてあげたりしていた。

それが私なりの折れ方で、彼への機嫌取りだった。

だが今回は、黙って自分の荷物をまとめて、ドアを閉めて出て行った。

私はスーツケースを引きずり、一人で道を歩いた。

目の前からじゃれ合うカップルがやってきた。

女の子が虫を見つけたのか、悲鳴をあげて男の子の胸に飛び込んだ。

男の子は片腕で彼女をしっかり抱きしめ、もう片方の手で背中をあやしながら、ずっと優しく女の子を慰めている。

その光景にぼんやりしながら、私は望月との初めての出会いを思い出した。

あの時、私は夜勤のバイトを終えて寮に帰るところで、酔っ払いたちに道を塞がれた。

周りには人影がなく、スマホも奪われて通報すらできなかった。

私は後ずさりしながら、誰か助けに来てくれと必死に祈っていた。

たぶんその祈りが天に届いたのだろう。望月はまるで守り神のように現れた。

彼は私の手をつかむと、そのまま全力で走った。

その瞬間、彼は私の心に消えない痕を残した。

それから私は無意識に彼を目で追うようになった。

彼に幼馴染がいることは知っていたし、学校中がその二人をお似合いだと言っていた。

私は自分の気持ちを心の奥にしまい込んだ。

だが私は忘れていた。好きという感情は、目に出てしまうのだ。

それがたぶん、花音が海外に行った後で望月が私にプロポーズした理由だろう。彼はとっくに私の気持ちに気づいていた。

実際、理性は、このプロポーズがおそらく望月の一時的な衝動に過ぎないだろうと言っていた。

それでも私はまだ幻想を抱いていた。もしかしたら、望月が私に感動してくれたのかもしれないと思い込んでいた。

三年間片想いしてきた相手との、手に入るかもしれない幸せを、私は拒否できなかった。

プロポーズの後、私と望月には確かに幸せな時間があった。

望月は責任感のある人だと言える。自分からスケジュールを私に教えてくれたし、記念日には必ずプレゼントを用意してくれた。そして、私が病気の時はそばにいてくれた……

二年間の幸せな時間は、次第に私に花音の存在を忘れさせ、望月が本当に私を好きになったのだと感じさせた。

しかし一年前、花音が帰国したことで、その幻想は全部壊された。

花音と比べれば、私はいつでも捨てられる存在だ。

彼女から電話が一本あるだけで、望月はどんな時でもすぐに彼女のところへ駆けつけた。

彼が何度も約束を破り、何度も私を放置する態度が、ついに私に現実をはっきりと突きつけてきた。

彼は一度も私を愛していなかった。

私たちの関係はもう終わりを迎えている。

だが、私が離れようとした時、私は妊娠していることに気づいた。

私は思った。子どもができれば、望月と本当の家族になり、本物の江口夫人になれる。そして、彼も花音を手放し、私を受け入れてくれるかもしれないと思った。

しかし現実は容赦なく私に一発のビンタを与え、私を目覚めさせた。

彼は子どものことなんて全く気にもしていなかった。

さもないと、妊娠三ヶ月の私を家に置いていくことはあり得ないし、花音が私の助けを求める電話を切るなんて、到底許すわけがない。

その後も私がなぜ電話をしたか、一度も聞いてこなかった。

片想いというものは、自分で選んだ以上、その結果を受け入れるしかない。

幸い、今のうちに身を引けば、まだ遅くはない。

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