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第505話

Author: こふまる
氷のような声音で続ける。「藤宮夕月、あなたに残された時間はもう二ヶ月しかないのよ。私が何とか量子科学を今回の実験で成功させようとしたのに、あなたが全て台無しにした。まさか二ヶ月後に、プリズムシステムを搭載した無人トラックが高速道路を完璧に走行できるとでも思ってるの?」

冬真からの確約を得た綾子は、一気に強気になっていた。

夕月が彼女の言葉を逆手に取る。「あら、毎回の実験でズルをしていた無人トラックが、実際に運用開始されれば高速道路を完璧に走行できるとでも思ってるの?」

そこまで言って、夕月自身も可笑しくなってきた。「一体どちらが夢物語を語ってるのかしら?」

綾子の顔色が変わった。夕月は口論に時間を費やすつもりはない。淡々と告げる。「引責辞職を選択するなら、法務部に責任追及の書類を作成させるわ。今回の実験において、あなたには重大な責任がある。たとえ良い転職先があったとしても……」

夕月の視線が冬真に向けられる。これほど多くの視線が注がれる中で綾子を受け入れるという冬真の判断は、夕月には愚の骨頂としか思えなかった。

量子科学の試験車両での不正が白日の下に晒される一部始終を、これだけの人間が目撃している。その状況で冬真は衆人環視の中、綾子という爆弾を抱え込もうとしているのだ。

綾子が橘グループに入社すれば、確実に世論の批判が巻き起こるだろう。

「あなたへの責任追及訴状も、一緒に橘グループに送らせてもらうわ」

夕月の瞳が綾子を捉え、静かな声音で告げる。「新しい職場で、新しい仕事と古い裁判のバランスを上手く取れるといいわね」

「あなたって人は……」

綾子が口を開きかけた時、涼の声が春風のように響いた。

「関係者への責任追及書類なら、もう持参してますよ。コピーも多めに用意しました。橘社長、ご覧になりますか?」

涼がアシスタントに視線を送ると、アシスタントがアタッシェケースから分厚い書類の束を取り出し、綾子と冬真に配り始める。

綾子は信じられないといった表情で、その重厚な書類を受け取った。

慌ただしくページをめくり始める。

冬真はアシスタントが差し出した書類に手を伸ばそうとしない。氷のような眼差しを涼に向けている。

これほど迅速に訴訟書類を準備できるということは、涼と夕月は以前から不正の存在を把握していたのだ。夕月は二手三手先を読んで行動していた
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