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第3話

Autor: 匿名
陸斗の視線が箱に落ちる。

彼は一瞬だけポカンとした後、すぐに「ああ、なるほどね」と言わんばかりの、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

「なんだよ紬希、そこまでやるか?まさか本気で別れるってアピールしてるつもりかよ?」

彼の声には、微塵の疑いもない、息が詰まるほどの自信が満ち溢れていた。

「はいはい、もういい加減にしろって。その荷物、お前がそのまま持ってな。

今ここで意地張って俺に突き返したって、どうせ機嫌が直ったら尻尾振って『やっぱり返して』ってすり寄ってくるんだろ?

二度手間になるようなことすんなよ。ほら、大人しく部屋に戻れって」

まるで、私のすべての行動が、彼の思い描いたくだらない脚本通りであるかのように言い放った。

私が口を開くより早く、美紅が一歩前に出た。彼女は親しげに陸斗の腕をペチッと叩き、わざとらしく口を尖らせる。

「もぉ、陸斗くんたら!そんな言い方ないでしょ!」

そして私の方へ向き直ると、いかにも困り果てたような、無実の被害者といった顔を作ってみせた。

「紬希さん、そんなに怒らないであげてください。全部私が悪いんです。

私がいつも講義の席取りをお願いしたり、課題のノートを見せてもらったり……それに、しつこいナンパ避けに彼氏のフリを頼んだりしたから、変に誤解させちゃったんですよね?」

彼女の声音は、本気で申し訳なく思っているように聞こえて、その実、ひどく白々しかった。

「私たち、本当に昔から実の兄妹みたいな感じで、他意は全然ないんですよ。

これからは気をつけますから、ね?だからもう、陸斗くんを困らせるのはやめてあげてください」

そのいかにも計算高い三文芝居と、横で「ほら見ろ、美紅はこんなにも聞き分けがいいじゃないか」とでも言いたげな陸斗の満足そうな顔。

それらを交互に見た瞬間――ここ数日、私の胸の奥でくすぶっていた怒りが、ついに限界点を突破した。

私は美紅の言葉を完全に無視し、ただ真っ直ぐに陸斗の目だけを射抜いた。

自分でも驚くほど、私の声は底冷えしていた。

「陸斗、よく聞きなさい。私は、あなたのご機嫌取りの茶番に付き合ってるわけじゃない」

そう言い捨てると同時に、腕の中にある重い段ボール箱をわずかに持ち上げる。

「ここに入ってるもの、もう全部いらないから。あとはそっちで好きに処分して」

言うが早いか、私はその箱を陸斗の足元へ向けて無造作に投げ落とした。

ドスンッ――!

鈍い音を立てて地面に叩きつけられた衝撃で、ガムテープが剥がれ、箱の角が大きく裂けた。

中から参考書や彼の手書きノート、プレゼントされた文房具などが無惨に飛び出し、二人の足元に散乱する。

私は、その光景に呆然と立ち尽くし、みるみるうちに羞恥と驚愕で顔を引きつらせていく陸斗を一瞥もしなかった。

「きゃっ!?」という美紅のわざとらしい悲鳴も無視して、踵を返し、一切の迷いなく女子寮のエントランスへと歩き出した。

背後から、プライドをズタズタにされた陸斗の激昂する声と、八つ当たりのように段ボール箱を乱暴に蹴り飛ばす音が響いてくる。

「紬希っ!お前、いい加減にしろよ!!」

……

寮の自室に戻るなり、私はベッドに倒れ込み、泥のように深く重い眠りに落ちた。

夢の中に現れたのは、陸斗と過ごした過去の記憶ばかりだった。

大学1年の春、学生寮への入居日。爽やかな白いTシャツを着た彼は、私の重いスーツケースをひょいと持ち上げて笑いかけてくれた。

「君、何号室?俺、ちょうど自分の荷解きが終わったところだから手伝うよ」

退屈な一般教養の講義を隣同士で受けたり、サークル活動で息の合った連携を見せたり。バスケをしている彼にスポーツドリンクを差し出すと、彼がくしゃっと笑って私の頭を撫でてきたり……

互いに惹かれ合い、壊れ物でも扱うようにそっと手を繋ぎ、やがて恋人同士になった。

かつての私は、彼こそが一緒に未来を歩いていく運命の人なのだと本気で信じていた。

彼は「紬希の真面目なところが好きだ」と言ってくれたし、「これからもずっと一緒に前へ進んでいこう」と約束してくれたのだ。

――それが狂い始めたのは、いつからだったか。

たぶん、大学2年の春に、幼馴染である美紅がこの大学に入学してきてからだ。

家族ぐるみの付き合いだという彼女は明るく派手で、遊ぶのが大好きな性格。大人しくて一つのことにのめり込む私とは、まさに正反対のタイプだった。

彼女が現れてからというもの、陸斗の中では、「美紅のSOS」に駆けつけることが何よりも優先される絶対事項になってしまった。

美紅がテストで単位を落としそうになれば、陸斗は徹夜で予想問題を作ってやり、彼女がサークルの人間関係で揉めれば、彼が間に入って解決してやった。

美紅が彼氏と別れて落ち込んでいると言えば、私とのデートを平気でドタキャンして慰めに行く始末。

私が不満を漏らし、泣きながら訴えたこともあった。

けれど陸斗はいつも、決まってこう弁明するのだ。

「美紅の両親から、あいつの面倒を見てやってくれって頼まれてるんだよ。

俺にとっては実の妹みたいなもんなんだ。紬希も物分かりのいい大人になって、少しは理解してくれよ」

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