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第6話

Autor: 匿名
私のあまりの落ち着きぶりに、陸斗はますます焦りを見せ始めた。

「でも紬希、俺の彼女はお前だけだ!俺だって、お前にもう少し大人になって、理解してほしいだけなんだよ。この忙しい時期さえ過ぎれば……」

「陸斗」

これまでに何百回と聞かされてきた、中身のない薄っぺらい弁明。もうこれ以上の御託を並べられるのはうんざりだった。

「私たち、とっくの昔に別れてるから。あなたの責任なんて、もう私には一切関係ない」

それだけを言い捨て、私は彼を避けるようにして廊下を歩き出す。

背を向けて少し離れた後も、美紅の甘ったるい愚痴と、陸斗のどこか上の空な宥め声が微かに聞こえてきた。

後日、共通の友人から聞いた話によると、陸斗は自分のSNSに【どうしてこんなに話し合いが通じないんだ】と愚痴めいた投稿をしていたらしい。

おまけに、男友達と飲みに行った席でも、相変わらず自信満々にこう吹聴していたという。

「あいつはただ意地を張ってるだけだ。大学院の内部進学試験さえ終われば、ケロっと元通りになるさ」

彼はいつまでも自分に都合のいいシナリオに酔いしれ、現実から目を背け続けているのだ。

……

翌日、私は大学の学生課へ向かった。ビザの面接に備えて、成績証明書と在学証明書を発行してもらうためだ。

その道中、共通の友人とばったり出くわした。

彼女は少し言いにくそうに口を開き、「陸斗が今もあちこちで紬希の近況を探り回っている」と教えてくれた。

どうやら彼は、私がこれほど長期間にわたって彼を拒絶し続けている理由が理解できず、苛立っているらしい。

その話を聞いて、私の心にさざ波一つ立たなかったと言えば嘘になる。

3年間という月日は、風が吹けば綺麗さっぱり消え去るような砂埃ではない。

ほんの少しだけ、「きちんと言葉を尽くして、最後に正式な別れを告げるべきだろうか」と迷う気持ちが芽生えてしまった。

しかし、その小さな揺らぎは、その日の午後には見事に打ち砕かれることになる。

以前、あの自習室での隠し撮り動画を送ってくれた友人が、今度はあるSNSのスクリーンショットを送ってきたのだ。

それは、美紅が先ほど更新したばかりの投稿だった。

そこには何枚もの写真がまとめられていた。

一枚目は、徹夜で選挙演説の原稿をチェックしているらしい陸斗の横顔。

キャプションには【陸斗くん、お手伝いお疲れ様!】。

二枚目は、ショッピングモールで帽子を試着して笑う美紅と、その横に立つ陸斗のツーショット。

キャプションには【気晴らしのお出かけ、大成功!】。

そして三枚目は、両家の家族ぐるみで行われたらしい食事会の写真。

そこにはこんな文章が添えられていた。

【陸斗くんのお母さんから「陸斗が大学院の試験勉強をサボらないように、美紅ちゃんがしっかり見張っててやってね」って頼まれちゃった。

プレッシャーやばい~!でもおばさん、安心してください、バッチリ任務完了してみせますっ😜】

さらにコメント欄では、知人がからかうようにこう書き込んでいた。

【美紅、ぶっちゃけお前と陸斗ってどういう関係なん?幼馴染ってやっぱ特別だよなー!】

それに対し、美紅は口元を隠して笑う絵文字とともに、わざとらしく意味深な返信をしている。

【さあ?ご想像にお任せしまーす♪】

これらの写真と見え透いたアピールの数々、そして嫌な顔一つせず彼女の「息抜き」に付き従う陸斗の姿を見た瞬間。

不思議なことに、私は苛立つどころか、ひどくホッとしてしまったのだ。

わざわざ最後にさよならを言う手間が省けて、ちょうどよかった。

私は送られてきたスクリーンショットを即座に削除した。

この日を境に、彼に関する一切の情報を完全にシャットアウトし、私は留学という新しい未来への準備だけに全力を注ぐようになった。

……

留学ビザの申請に必要な書類の準備が、ようやくひと段落ついた頃のことだ。

ある夜、図書館での作業を終えて女子寮へ戻ると、エントランスの前で陸斗が待ち伏せしているのが見えた。

夜の闇に紛れて表情までははっきりと見えなかったが、その声には隠しきれない苛立ちが滲んでいた。

「紬希。ちょっと話がある」

彼は私の行く手を塞ぐように前に立った。

「もうその辺にしておけよ。いい加減意地を張るのはやめて、大人しく大学院の試験勉強に戻れ。自分の将来を遊び半分に考えるな」

彼は未だに、私がただの痴話喧嘩で拗ねて、「内部進学をやめる」と脅しているだけだと固く信じ込んでいるらしい。

私の中に残っていた僅かな忍耐も、完全に底を突いた。

「これが最後だからよく聞いて。陸斗、私たちはもう別れたの。自分の進路には自分で責任を持つから、あなたに心配してもらう筋合いは一切ないわ」

「自分で責任を持つだと?そんなのどうやって取るつもりだよ!」

私の取り付く島もない態度に、彼はついに声を荒らげた。

「俺への当てつけのために、一番大事なことまで投げ出す気か!?今の院試がどれだけ競争率が高くて厳しいか、わかってないわけじゃないだろ。

少しは物分かりのいい大人になって、これ以上わがまま言うのをやめてくれ!

俺だって最近、試験勉強とか色々と負担が大きくてストレス溜まってるんだよ……!」

「色々と負担って?」

私は氷のように冷ややかな声で刺した。

「美紅のご機嫌取りのこと?」

陸斗は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに開き直って自己弁護を始めた。

「俺にはあいつの面倒を見る責任があるって、ずっと言ってるだろ!親同士の繋がりもあるし、そういう義理を簡単に無下になんてできるわけないじゃないか。

なあ紬希、どうして俺の苦しい立場を少しでも分かってくれないんだ?

お前は俺の一番の理解者だと思ってたのに、どうしてそんな風になっちゃったんだよ。……俺も、流石に疲れちまったよ」

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