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第13話

Auteur: 小貝あい
薫の目元がふいに赤く染まった。込み上げてくる感情を必死に押さえ込みながら、小さく息を吸い込む。

「……私が離れるのが、松崎家にとっても、会社にとっても、一番いい選択なのかもしれない」

その言葉を聞いた直後だった。

尚弥は手にしていた退職届を、ためらいなく真っ二つに引き裂いた。さらにもう一度破り、無造作にゴミ箱へ投げ入れる。

「言ったはずだ。お前は守ると」低く、揺るぎのない声だった。「海外へ行くなんて認めない。その考えは捨ててくれ」

「……尚弥」薫の声が震える。

「辞職も認めない」

そこでようやく尚弥は顔を上げた。その視線の先で、薫の目から涙がこぼれ落ちる。

尚弥は机の上のティッシュを一枚取り、彼女の前まで歩み寄ると――自然な仕草で涙を拭った。「泣かないでくれ。本当、昔から変わってないな。少しでも嫌なことがあると、すぐ泣く」

「私は……」薫は唇を噛む。「松崎家を離れるのも、会社を離れるのも嫌。それにあなたからも……」

そのとき、ドアを叩く音が響いた。

続きかけた「あなたからも離れたくない」という言葉を、薫は飲み込んだ。

「もう子供じゃないんだから、拗ねないでくれ」
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