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第2話

Penulis: 小円満
その向こうで、急に声が途絶えた。驚いたのか、喜びで言葉を失ったのか。

――結局、私が離婚すれば、彼女は正式にその座につけるのだから。

私は電話を切り、座ったまま、黙って時生の帰りを待った。

けれど一晩中待っても彼は帰らず、現れたのは彼の秘書・新藤理子(しんどう りこ)だった。

彼女が足を踏み入れた瞬間、私に向けられた敵意がすぐに伝わってきた。

彼女が三年間も時生のそばに仕えていれば、彼に対する感情が単なる仕事だけではないことくらい、なんとなく分かる。

徹夜で疲れきった私を見て、理子は勝ち誇ったように口を開いた。「時生様はあなたに四年近くも囲われてきたんです。なのに、これからは優子さんが奥様になります……今のあなた、さぞ惨めでしょうね?」

……囲われてきた?

「ふん!」と息が漏れた。

確かに私と時生の「隠れた結婚」は、外にはほとんど知られていない。

思い出した。四年前――黒澤家の誰もが、身分の低い私との結婚に猛反対した。

結局私は折れて、婚姻届だけを提出し、式を挙げないことを受け入れた。

ごく限られた人しか、私たちの結婚を知らなかったのだ。

あのとき時生は、目を潤ませて私の髪を撫でながら「君を苦しめてごめん」と言った。そして誓った――「必ず黒澤家を継いだら、盛大な結婚式を挙げて君を迎える」と。

けれど、彼が後継者になってからすでに何年も経ったのに、その約束は果たされなかった。

だから今や秘書でさえ、私をただの愛人だと勘違いしている。

理子は傲慢な笑みを浮かべ、さらに畳みかけた。「昨日の優子さんのスキャンダル、時生様に命じられて調べたんです。あれを流したのは、あなたの会社でした。芸能部の編集長なら、知らないわけがないでしょう?」

――罪を着せようと思えば、理由などいくらでも作れる。

彼は不倫の説明すらしないくせに、真っ先に私に濡れ衣を着せるのだ。

「私じゃない」私は表情を崩さず、ただ一言そう返した。

理子は鼻で笑った。「証拠はそろってるんです。素直に認めてきれいに別れた方がいいですよ。そうしないと追い出されるだけですから」

その言葉が終わるか終わらないうちに、私は立ち上がり、思い切り彼女の頬を打った。

理子は呆然とし、顔を押さえたまま信じられないように私を見つめる。

私は離婚協議書を投げつけ、冷ややかに背を向けた。「時生とのことに口を挟む資格は、あんたにはない。出て行きなさい」

協議書を見た瞬間、理子の瞳が大きく揺れた。

「あなた……時生様と結婚していたんですか?」

だが、時生がすでに優子と関係を持っていることを思い出すと、理子はすぐに歯を食いしばり、冷笑を浮かべた。「ですが、今の時生様は、すべて私に任せるとおっしゃいました。あなたが情報を漏らしたことを認めないなら……しばらく仏間でひざまずいて反省してもらいます。反省が終わったら、立ち上がっても構いません。優子さんは、今でも泣いているんですから」

思わず笑いが込み上げそうになった。

――不倫したのは彼なのに。

私が反省する?

理子はさらに言葉を重ねた。

「反省したくないならそれでもいいです。ただ……忘れないでください。あなたのお母さんの心肺サポート装置、あれは黒澤グループの新製品です。発売は一か月後。時生様の一言で、すぐに止められるんですよ。そうなれば……お母さんは助かりませんね」

……時生は、私が思っていた以上に残酷だった。

私の母が、この世で唯一の肉親であることを、知っているのに。

結局私は膝を折り、冷たい床に跪いた。

仏間に漂うお香の香りは、時生の身に纏った香りと似ていて、気がつくと私の周りにすっかり広がっていた。

この瞬間ほど、はっきり悟ったことはない。私は必ず、時生と離婚する。

家政婦の三浦春代(みうら はるよ)は私の様子を見て、慌てて声を上げた。「理子さん、奥様をこんなふうに跪かせるなんて!奥様の膝は元々悪いんです、絶対に駄目です!」

三年前、子を失ったあと、時生は数日慰めの言葉をかけただけで、すぐに仕事を理由に世界中を飛び回っていた。

その頃の私は、深夜になるたび仏前に跪き、子を返してほしいと泣き続けていた。

本来なら産後の養生をすべきときに、ろくに食べもせず祈りにすがるばかり。

そのせいで体を壊し、雨続きの日に医者から「リウマチ性関節炎」と診断された。

若い私がどうしてそんな病を、と医者は不思議がった。

治ることはなく、雨の日は薬で痛みを抑えるしかないと。

それを知っているのは春代だけで、時生には伝えていない。

春代が理子に頼んでも聞き入れられず、ついに私へ訴えた。「旦那様にお電話します!」

私は膝から這い上がるような痛みを堪え、歯を食いしばった。「春代……時生に電話はしないで」

以前、彼に病気を隠したのは、一緒に苦しませたくなかったから。

でも今は違う。

彼は私の痛みに心を寄せるはずなどないのだ。

それでも春代は聞かず、通話ボタンを押した。

だが、出たのは彼ではなく――幼い少女の声。「誰?パパはママとお洋服を買いに行ってるの」

……私は乾いた笑いを漏らした。

いつからだろう。時生はスマホの暗証番号を変え、私には触れさせなくなった。

私は彼がプライバシーを大事にしているのだと思っていた。

でも本当は違う。

彼の愛人や娘は自由にスマホを触れるのに、私だけが締め出されていたのだ。

春代は青ざめ、番号を確認した。間違っていない。

そして私の顔を見た瞬間、すべてを悟ったのか、慌てて電話を切った。

私は唇を引きつらせ、笑みを作った。

やがて膝から血がにじんだころ、理子はようやく鼻で笑い、背を向けた。

「ちゃんと反省してくれたので、時生様には黙っておきます」そう吐き捨て、出て行った。

彼らが去ると、春代が飛びつくように私を抱き起こし、部屋へ連れていった。

歩くたびに、膝が焼けるように痛む。

春代は涙声で訴えた。「旦那様はひどすぎます!奥様に何時間も跪かせておいて、自分は別の女と買い物だなんて。しかも、あの子は……」

言葉を詰まらせ、ただ心配そうに私を見つめる。

私は弱々しく笑った。「春代、薬箱を持ってきて」

まもなく、廊下に聞き慣れた足音が響いた。

時生が、帰ってきた。

彼と春代の会話が耳に届いた。

「薬箱?何に使うんだ??」

「奥様が一晩中、仏間で跪かされて、膝がもう……」

「そんなに弱い女だったか?」

――その言葉は、私と春代が芝居で同情を買おうとしているとでも言いたげだった。

春代は必死に主張した。「理子さんがわざと座布団を取り上げたんです!奥様は何時間も、床で直接跪いていたんです!」

その声に、時生の口調がほんの少しだけ冷たくなった。「……誰がそんなことをさせた?」
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