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第40話:国家からの密命

Auteur: 秦江湖
last update Date de publication: 2026-09-28 17:27:58

合同コレクションでの『白夜の翼』発表から三日が過ぎても、クロハ・グランドシアターの熱気は冷めやらぬまま、連日メディアを賑わせていた。

毒石の罠を仕掛けた白河結衣は、現行犯逮捕ののち、殺人未遂および建造物侵入の容疑で東京地検へ身柄を完全に送検された。警察の取調べに対し、結衣は取り乱して喚き散らすばかりで、もはやかつての傲慢な令嬢の面影は微塵も残っていないという。

だが、南青山の『BLANC』本店アトリエの奥。

真白は世間の喧騒から切り離されたように、作業台に散らばった工具や研磨剤の拭き掃除に没頭していた。

キュッ、キュッと、布巾を動かすたびに無垢材の机が艶を帯びる。

「……相変わらず、祝勝会のシャンパンより雑巾の絞り汁の方が性に合っているようだな」

低く澄んだ声が落ちてきた。

顔を上げると、仕立ての良い漆黒のスーツを隙なく着こなした黒羽蓮が、扉の脇に立っていた。

鋭利な彫刻を思わせる冷淡な美貌。だが、その漆黒の瞳の奥には、真白だけに向ける微かな熱が宿っている。

「黒羽さん。もうお仕事は一段落したんですか?」

「結衣の件と、背後にいたオフィディアンの残党への法的手続きは、顧問弁護士団が完
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    南青山の『BLANC』本店アトリエ。 受話器から返ってきた冷たい電子音は、真白の耳の奥に鉛のように重く沈殿した。 都内の貴金属問屋、宝石の輸入商社、地金の精錬所――片っ端から掛け直した電話は、ことごとく同じ返答だった。 『申し訳ありません、組合の通達で……』 『黒羽副総裁のお名前が出ている以上、うちのような規模では逆らえません』 『頼むから、もう電話をかけてこないでくれ!』 最後には、受話器越しに怯えと拒絶をぶつけられ、ガチャリと切られた。 「……電話で頭を下げて回れば、石が転がり込んでくるとでも思っているのか」 振り返ると、重厚な革靴の足音とともに蓮が姿を現していた。 長身を包むスリーピースのスーツには乱れ一つなく、その眼光は冬の刃のように鋭利だった。高杉が控える背後から、冷ややかな空気がアトリエへ流れ込んでくる。 「黒羽さん……」 「征四郎の差し金だ。国内宝飾貴金属組合の理事長は、叔父の長年の飼い犬だからな。都内の流通ルートは完全に塞がれた。期日までに特級プラチナも、極上のダイヤモンドも、国内正規ルートからお前の手元に届くことはない」 「そんな……コンペまで、もう一ヶ月もないのに……!」 真白は唇を噛み締めた。 国家式典で用いられるティアラには、最高純度のプラチナと、傷一つない特級の宝石が不可欠だ。どれほど崇高な設計図を描こうと、形にするための金属も石もなければ、ただの机上の空論で終わってしまう。 「泣き言を言うな」 蓮は無駄のない足取りで真白の前に立つと、冷ややかに見下ろした。 「相手は貴族ぶったお嬢様ではない。生き残りのために泥水を啜ってきた老獪なハイエナだ。正攻法で来るはずがないことくらい、最初から織り込み済みで挑むのが戦場だぞ」 厳しい言葉だったが、真白を突き放す調子ではなかった。 蓮は内ポケットから万年筆を抜き、手帳に流麗な文字でいくつかのサインを走らせると、破り取って真白の作業台に置いた。 「黒羽グループのプライベートルートを動かす。アントワープのシンジケートとチューリッヒの精錬所へ直通で手配をかければ、四十八時間以内に最高純度のスイスプラチナと五カラット級のダイヤが手に入る。それで戦え」 破格の支援だった。 財閥総帥の権力を使えば、征四郎の敷いた国内の包囲

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  • 冷酷総帥の身代わり花嫁 〜植物状態のはずの億万長者に溺愛され、私を見捨てた偽りの家族を地獄に落とします〜   第38話:侵入者と毒石の罠

    クロハ・グランドシアターの照明が落とされ、夜間警備の静寂が館内を包んでいた。舞台裏の最奥、特別保管室の電子ロックが赤く点滅している。指紋認証と二重暗証番号で厳重に封鎖された扉の前に、青い清掃員の作業着を纏った人影が音もなく忍び寄った。深く被った帽子の下から覗く目は、血走り、病的な光を放っている。白河結衣だった。「ふふ……黒羽蓮、いくら警備を固めたって無駄よ」結衣はポケットから、裏シンジケート『オフィディアン』から渡された特殊なハッキング端末を取り出した。端末の端子を電子錠の配線パネルに差し込むと、微小なパルス音が鳴り、わずか数秒で表示が緑へと変わる。――カチリ。防音扉がゆっくりと開いた。部屋の中央、強化防弾ガラスのケースの中に飾られていたのは、明日の合同コレクションのトリを飾る真白の最高傑作――『白夜の翼』だった。一条麗華との競演のために創り上げられた、プラチナと極上ホワイトダイヤモンド、そして透き通るようなパライバトルマリンが織りなす圧倒的な造形美。暗闇の中でも自ら発光するかのような清廉な輝きに、結衣は激しい吐き気を覚えた。「憎らしい……! こんな綺麗なものを作って、世界中から拍手を浴びて……あんただけが光の中にいるなんて、絶対に許さない!」結衣は震える指先で、懐からアルミケースを取り出した。中から取り出したのは、鈍い黒紫色の光を放つ変異トパーズ。人工的な放射線処理で内部の結晶構造を破壊された、触れる金属を腐食させる毒石。結衣はピンセットで毒石を掴むと、『白夜の翼』のメインフレーム――真白の首元に直接触れる留め具の裏側へ、毒石の鋭利な角を強く擦り付けた。目に見えないほどの微細な亀裂がプラチナの接合部に刻まれ、毒石の微粉末が金属の隙間へと染み込んでいく。「これで終わりよ、真白。明日のランウェイで、スポットライトの熱を浴びた瞬間……このフレームは砕け散り、あんたの首筋をズタズタに引き裂くわ」醜い歓喜の笑みを漏らしながら、結衣は毒石を隠し持ち、足早に保管室を後にした。◇翌朝、合同コレクション当日。グランドシアターの客席は、世界各国のVIP、ファッション誌の編集長、そして一流ジュエラーたちで超満員となっていた。開演一時間前の控室。真白は純白のシルクドレスに身を包み、ドレッサーの前で深く息を吸い込んでいた。手元には、保管庫から

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