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第7話

Auteur: 詩音
「夢奈……」

昇の喉仏が上下した。さらに何かを言い募ろうとした時、しゃくり上げる宏を抱き寄せながら、佳澄が再び声をあげて泣き出した。

「昇さん、もういいの……この間、私たち親子を助けてくれて本当にありがとう。

前の家では、元夫に殴られてばかりだった……あなたみたいに、私たちに優しくしてくれた人は一人もいなかったわ。

でも、これ以上人の家庭を壊す悪者にはなれない。これ以上、あなたたちの邪魔はしたくないの」

彼女は夢奈に向き直り、深く頭を下げた。頬にはまだ涙の跡が光っている。

「夢奈、ごめんなさい。本当に申し訳ないと思ってるわ……最高の親友だった私たちが、こんな結末を迎えるなんて。

でも、宏くんは……あの子はただの子供なの。あの日のことは本当に事故だった。恨みがあるなら私にぶつけて。子供を巻き込まないで。

今すぐこの子を連れて出て行くわ。二度と、あなたの前には現れない」

言い終えると、佳澄は宏の手を引き、今にも歩き出しそうな素振りを見せた。

「出て行く?」

夢奈がふいに失笑した。

「どこへ行くつもり?昇が中央区に買い与えた、あの別荘にでも行くの?」

昇の顔色が、一瞬にして土色に変わった。

佳澄の瞳にも狼狽が走ったが、すぐに俯いて涙を拭う動作でそれを隠した。

二人のあまりにも分かりやすい硬直ぶりを見て、夢奈は猛烈な虚脱感に襲われた。

もう、この連中と関わり続けるのが、たまらなくいやになった。

夢奈は誰の目も見ることなく、背を向けて二階へ上がった。

かつて二人で過ごした寝室に戻り、荷物をまとめ始める。

昇の持ち物には、指一本触れなかった。

その代わり、自分が昇に買い与えたもの、一緒に旅行して持ち帰った記念品、三日三晩並んで手に入れた限定モデルの腕時計――愛が注がれた品々のすべてを……

それらを一つずつ取り出し、床へ叩きつけた。

腕時計の風防が砕け、記念品が四散した。それはまるで、粉々に壊れた自分たちの婚姻そのものだった。

それから、夢奈は牧子から受け取った金庫の鍵を取り出した。

寝室の隠し場所にある金庫を開け、中から厚い帳簿の束と、暗号化された数本のUSBメモリを取り出した。

それを無人島の権利書と一緒に、小さなスーツケースに詰め込んだ。

ケースを引きながら一階へ降りると、佳澄と宏はまだリビングの真ん中に立ち尽くしていた。二階から響く破壊音に怯えていたようだった。

階段の降り口に立っていた昇は、夢奈とスーツケースを目にした瞬間、眉を深く寄せ、その瞳にようやく焦りの色が浮かんだ。

「夢奈、どこへ行くつもりだ?」

彼は一歩詰め寄り、夢奈を遮ろうとした。

夢奈は昇を見ようともせず、冷徹に一言だけ吐き捨てた。

「どいて」

だが昇は、猛烈な勢いで夢奈を抱きしめた。彼女の体を自分の体の中に埋め込まんばかりの力で。

「言ったはずだ!たとえ君が産めなくなったとしても、時山家の妻は君一人だけだと!

これ以上、俺にどうしろと言うんだ!?君を時山家に留めておくために、俺がどれだけの圧力を跳ね除けてきたか分かっているのか!?」

彼の腕の中で、夢奈は石のように硬直していた。

彼女は冷たく言った。

「放して」

「放さない!行かせるものか!」

昇はさらに力を込め、その声には哀願さえ混じり始めた。

「夢奈……行かないでくれ。やり直そう、いいだろう?今度は、今度こそ、必ず君を幸せにすると誓うから……」

夢奈は目を閉じた。

再び目を開けた時、そこには荒涼とした静寂だけが宿っていた。

「出て行くわけじゃないわ」

彼女の声には、何の抑揚もなかった。

「……お義母さんのところへ行くのよ」

昇の身体が、目に見えて強張った。彼女を抱きしめる力が、無意識のうちに緩む。

夢奈はその隙を感じながら、淡々とした口調を続けた。

「お義母さんのところへ行って……そうね、少し諭してもらおうと思って」

昇の瞳が何度か泳いだ。夢奈の言葉が真実かどうかを判断しようとしているようだった。

やがて、彼は自分に都合のいい解釈を見つけたのか、あるいは藁にもすがる思いだったのか、ゆっくりと手を離した。

昇は掠れた声で言った。

「そうか……母さんは経験も豊富だし、君の力になってくれるかもしれない。行ってくるといい、早く帰ってくるんだぞ」

彼はもう、引き止めなかった。

夢奈はスーツケースを引き、一度も振り返ることなく玄関へ向かった。

ドアノブに手をかけた時、彼女は立ち止まった。振り向くことはせず、ただ静かに問いかけた。

「昇、本当に佳澄を追い出してくれるの?あの別荘も取り返してくれる?」

背後で、数秒の冷ややかな沈黙が流れた。

昇の声が響いた。迷いを含みながらも、彼は約束を口にした。

「……ああ。宏の学校の、一ヶ月後のオープンデーが終わったらだ。これが本当に最後だ。約束する」

夢奈は二度と口を開かなかった。

扉を開け、外に広がる果てしない夜の闇の中へと踏み出した。

分かっていた。彼は、やらない。

長年連れ添った夢奈には、手に取るようにこの男を分かっている。

約束する時の微かな躊躇、佳澄親子に向ける複雑で名残惜しそうな視線――それがすべてを物語っている。

そもそも、本当にあの親子を追い出す気があるのなら、昇は考え至るはずなのだ。

牧子との仲は、昔から水と油――一度も自分に良い顔をしたことのない牧子の元へ、自ら相談に行くはずなどないということに。

自分がやろうとしていること――それは、宏の学校のオープンデーに、昇と佳澄へ最高の「贈り物」を届けること。

あの連中を社会的地位もろとも叩き潰し、二度と這い上がれないようにするための、地獄への招待状だ。

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