第19話

「言ったでしょ、奏の子供だって」

凪は深呼吸をし、嘘をついて言い訳をした。「3年前、彼は酒に酔って見知らぬ女と関係を持った。まさかその女が妊娠するとは思わなかったんだ。奏のことは知ってるでしょ？誰にでも優しい、女たらしの男だし、特定の女のために結婚するような男じゃない。だから、その子供を引き取って、後継者として育てることにしたんだ……」

礼治は彼女の言葉を半信半疑に思った。「そんな話は聞いたことがない」

「それはあなたはそんな噂を気にする人じゃないからよ。ましてや奏のこととなると、なおさらね」

凪は冷静な口調で言った。「それに、私生児がいるなんて、自慢できることじゃないし。世間で噂にならないのも当然よ」

彼女の言葉は完璧で、隙がなかった。

礼治は彼女の顔をじっと見つめた。彼女は嘘をつくとき、自分の目を見ることができず、全身が緊張して硬直する――

しかし、今は、彼女はまっすぐ自分を見て、緊張した様子もなく、穏やかな表情で、ゆっくりと話していた。

彼は彼女の頬を強く撫でながら言った。「今回は信じよう。俺は嘘をつかれるのが一番嫌いなんだ」

凪は軽く返事をして、それ以上何も言わなかった。

しばらくして、礼治の低い声が聞こえた。「彼はモテるって言ったな？お前も彼のことが好きなのか？」

凪は訳が分からず、眉をひそめた。「そんな変なことを気にしないでくれる？」

礼治は言った。「話をはぐらかすな」

「私が彼のことを好きかどうかなんて、あなたに関係ある？」

男の声は冷たかった。「俺には関係ない。だが、お前は今も俺の妻だ。その立場を自覚しろと言っているだけだ」

凪は冷笑した。「あなたの妻？私はただのあなたの子供を産む道具じゃない」

彼女の言葉はますます辛辣になり、彼を傷つけた。

礼治は突然彼女を抱きしめ、唇を塞いだ。

凪が何が起きたのか理解する前に、彼女もう彼に抱かれて腕の中にいた。

通りかかった看護師はノックしようとしたが、何かが聞こえて顔が赤くなり、慌てて引き返した。そして、後から来た人に「しばらく入らないで。邪魔しちゃダメよ……」と注意した。

それを言われた他の人たちは意味を理解し、顔を赤らめながら自分の仕事に戻った。

部屋の中は息苦しい空気に満ちていた。凪の髪は汗で濡れ、目はうつろで、目尻は赤くなっていた。

彼はいつもこうだ。飴と鞭を