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第3話

Author: 涼木
せめて、実の親に命を助けてほしかった。

けれど今、その血縁照合登録票は父の手にある。

「朝葉、お前には本当に失望した」

父はシートにもたれたまま、怒りではなく、見下すような冷たい目を向けてきた。

「久留島家は19年もお前を育ててきた。食べるものも着るものも与えてきた。それなのに、これが恩返しか?

家族に黙って血縁照合に登録して実の親探しか。そんなにこの家が嫌で、さっさと次の居場所を探したかったのか?」

登録票を見つめる。

喉の奥に、血を含んだ綿でも詰まっているように苦しかった。

実の親を探したのは、生きるためだった。

父の目には、育ててもらった恩も忘れた恩知らずにしか見えていない。

「違うよ」

静かに書類を茶封筒へ戻した。

「自分がどこから来たのか、知りたかっただけ」

父は鼻で笑い、ハンドルを切った。

「そこまで知りたいなら、望みどおりにしてやる。家に戻るぞ」

車は勢いよく走り出し、久留島邸の前で止まった。

リビングでは、母と紗月がソファに座っていた。

その向かいには、くたびれた服を着た中年の男女が、落ち着かない様子で腰を下ろしている。

男は日に焼け、手はごつごつと荒れていた。

女は乱れた髪のまま、部屋の中をきょろきょろと見回していた。

父は中へ入ると、2人を指した。

「朝葉、こっちへ来い」

言われるままローテーブルのそばまで行く。

「実の親を探してたんだろ?」

父は、どうでもいい話でもするような口調だった。

「人に頼んで調べてもらった。この2人がお前の実の両親だ。樫尾勝治(かしお かつじ)さんと、樫尾久美子(かしお くみこ)さんだ」

久美子はすぐに立ち上がると、私の手をつかみ、無理やり涙を浮かべた。

「朝葉ちゃん、やっと会えた。お母さん、ずっと会いたかったのよ。

昔は本当にお金がなくて、どうしても育てられなくてね。それで仕方なく道端に置いていったの。恨んでないわよね?」

近づいた瞬間、安いタバコのにおいと、すえた汗のにおいが混じって鼻についた。

私は冷たく手を引いた。

父と母を見る。

あまりにも芝居が見え透いていた。

昨夜、真実を聞いていなければ、本当に信じていたかもしれない。

自分はこんな家の生まれだったんだ、と。

でも、私はもう知っている。

私は久留島家の実の娘だ。

目の前の2人は、父と母がどこかの田舎から連れてきて、親のふりをさせている赤の他人にすぎない。

母はティッシュを取り、目元をそっと押さえた。

「朝葉、私たちを冷たいなんて思わないでね。

そこまで実のご両親に会いたかったなら、私たちだって親孝行を邪魔するわけにはいかないでしょう。

荷物をまとめて、しばらく2人のところで暮らしてきなさい」

紗月は母の腕にそっと寄り添い、やさしい声を出した。

「お姉ちゃん、大丈夫だよ。田舎だから少し大変かもしれないけど、本当の家族なんでしょ?

向こうで少し暮らしてみたら、きっとお父さんとお母さんがどれだけ大事にしてくれてたか分かると思う」

私はその場に立ったまま、この茶番を演じる3人を見ていた。

少し苦労させれば、久留島家がどれだけ恵まれていたか分かる。

そんな理由で、父と母は重い病気を抱えた実の娘を、見ず知らずの他人に預けようとしている。

急に、何もかもどうでもよくなった。

もう言い返す気力さえ残っていない。

どうせ、長くは生きられない。

この家で死んだら、また高価なカーペットを汚してしまうだけだ。

田舎で死ぬのも、悪くない。

「分かった」

小さくうなずいた。

「荷物、まとめてくる」

母は一瞬、言葉を失った。

こんなに素直に従うとは思っていなかったのだろう。

言おうとしていた小言が、すべて喉につかえたようだった。

私は2階へ上がり、窓もない狭い使用人部屋に戻ると、持っている数少ない古着をバッグへ詰めた。

下へ戻ったころには、勝治はもう待ちくたびれた顔をしていた。

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