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初恋に溺れた夫
初恋に溺れた夫
Autor: 狸花

第1話

Autor: 狸花
結婚五周年の日、私・水瀬澪(みなせ みお)は夫・水瀬蒼介(みなせ そうすけ)の金庫の中で、古い携帯を見つけた。

パスワードは彼の初恋の叶田遥(かなだ はるか)の誕生日だった。

中には彼らの過去の全ての甘い思い出が記録されていた。

でも彼の今のアルバムには、私の写真が一枚もなかった。

「澪、他人のプライバシーを覗くのは楽しいか?」

私は扉の外の男を振り返り、騒ぎもしなければ泣きもしなかった。

ただ平静に言った。「離婚しましょう」

蒼介は私の目の前で携帯を初期化し、表情は淡々として感情が読み取れなかった。

「これでいいか?」彼は私に聞いた。「まだ離婚するつもりか?」

私は真剣に頷いた。「ええ」

……

「いい加減にしろよ。もうやめろ」

蒼介は眉をひそめ、少し苛立った様子だった。

「いい子にしてくれ。年末にプロジェクトが終わったら、時間作って北国に雪見に連れて行ってやる、な?」

私が長い間反応しないのを見て。

蒼介は口角を上げ、いつもの無頓着さで、指先で私の額を軽く叩いた。

「今回は嘘じゃない。本当だ」

私は少し笑いたくなった。

今回は嘘じゃない。

つまり彼も知っていたのだ。これまで何度も私に嘘をついてきたことを。

とっくに約束した北国の雪見は、彼が一年また一年と延期してきた。

普段のデートで映画を見る時も、いつも私一人が映画館の前で黙って開演まで待っていても彼は来なかった。

迎えに来ると言ったのに、暴風雨に打たれても彼の車の影すら見えなかった。

私に約束したことを、蒼介はいつも守らなかった。

だから今この言葉を口にして、彼は恩恵を与えたと思っている。ご褒美だと。

「いらないわ」私は深呼吸して、断固として繰り返した。「蒼介、私は離婚したい」

瞬時に男の表情が冷たくなり、完全に我慢の限界を超えた。

「澪、お前は物分かりの悪いやつだ。

北国なんか行きたくなければ行くな。俺はもう機会を与えた。

後で泣きついてきて、約束を守らなかったとか言うなよ」

そう言って、彼はソファの上の上着を取って、すぐに出て行った。

彼の好みに合わせて心を込めて準備した夕食にも、一口も手をつけなかった。

私も黙っていた。

初めて、過去のように彼を引き留めることをしなかった。たとえ一分でも長く留まってもらうために。

蒼介はドアまで歩いて、足を止め、振り返って私を一瞥した。

私は既に自分で座って、箸を取り、静かに食事を始めていた。

彼はドアを叩きつけるようにして出ていった。

まるで何かの怒りを発散するかのように。

心はとっくに痛まなくなっていた。そこにはただ一面の荒野が残るだけだった。

以前、私はずっと思っていた。

蒼介のような男は高嶺の花で、庶民の暮らしに興味を持つはずがないと思っていた。

でも彼も愛する女の子のために料理を作れるのだと分かった。

たった一言彼女から褒められるために。

手についた切り傷や、火傷の水ぶくれまでもが、愛の勲章になるようだった。

彼はこんなにも幼稚な甘い言葉まで言っていた。

「好きな人のために料理するって、本当に幸せな気持ちになる。

遥のために一生料理を作って、太らせたら、そしたら誰にも取られないだろう」

それらの記録を見て終わってから、初めてはっきりと認識した。

自分がどれほど滑稽な立ち位置にいるのかが。

翌日、私はカフェで弁護士の親友・神谷真帆(かみや まほ)と会い、離婚協議書を作ってもらった。

「どうしたの?今回はそんなに深刻なの?」

真帆は驚きを隠せない様子だった。

彼女は私がどれほど蒼介を愛しているか、誰よりもよく知っている。

これまで喧嘩をしても、せいぜい冷戦をする程度だった。

「本当に疲れたの」私は窓の外の車の往来を見つめた。「あのね、彼女が帰国したの」

そう言っただけで、真帆は理解した。

遥のことだ。

蒼介の思い出に刻まれた初恋。

この名前は細い針のように、私の心に刺さっていて、流れる血は見えないが、時々痛みが走る。

私は一度も彼女に会ったことがないのに、彼女の存在が丸五年も私に影響を与えてきた。

蒼介はプライベート空間が大切だと言うのに、遥と音楽アカウントを共有していた。

蒼介は生活を曝露するのが嫌いだと言うのに、昔のSNSはあの女の痕跡だらけだった。

私を連れて行った絵画展は、遥が好きな画家のものだった。

私との買い物に付き合うのは時間の無駄と言うのに、彼女とは街中の雑貨屋を巡っていた。

私と二年間付き合い、その後に結婚生活を三年、蒼介はその間一度も彼女を心の底から取り除いたことがない。

そして私は、彼の空白期の付き添いのようなもの。ただの習慣の一部に過ぎない。

次善の選択でしかない。

「分かった。離婚協議のことは任せて。絶対に損はさせないから!」

真帆は心配そうに言った。

「でも澪、本当に決心したの?

前から私は言ってたでしょ。あの男はあなたに合わないって。彼の心が完全に空っぽじゃない以上、一緒にいても自分の価値を下げるって。

でもあなたは頭に血が上って飛び込んで、どんなに止めても聞かなかったじゃない」

私は俯いてカップのコーヒーをかき混ぜた。

「はやり人って、痛い目をしっかり見ないと、なかなか懲りないものよね……」
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