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第 11 話

Author: 柏璇
彼女には、この悲しみを打ち明ける相手すらいなかった。

結婚してから、蒼司が彼女の両親について尋ねたのは一度だけ。それも結婚前に、「両親は来るのか」と聞いた程度。

「遠いから来られない」と答えた彩乃を見て、蒼司は田舎出身と決めつけ、それ以上詮索しなかった。

彩乃は母に会いたかった。

その頃、陽翔の部屋ー

蒼司は息子の布団を直し、彩乃が若葉の部屋にいることを知ってこちらへ来た。

陽翔は半分眠りながらも、父の姿に気づくと起き上がり、「パパ、僕たちとママのこと、愛してる?」と聞く。

少しの沈黙のあと、蒼司は笑って答える。

「愛してるさ」

だが、それが誰に向けた愛かは、わからない。

「僕とお姉ちゃん、あ
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skyship1130
子供は素直だ。大人の、特に男は惚れた相手にはフィルターかかるからね
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