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第7話

Author: 瑞木結花
ちょうどその時、スタッフが来場者に着席を促した。おかげで春奈はひとまず窮地を脱し、この話題もそこで打ち切られた。

しかし、結月の「計り知れない価値がある」という言葉は、他の客たちの好奇心を掻き立て、その噂は瞬く間に広まった。

着席した後も、多くの客が春奈に切子玉について尋ねたが、春奈はそのたびにうまく話を逸らしていた。

そして、その一部始終を岳人は静かに見つめていた。

結月は涼介に引っ張られるようにして、廊下へ連れ出された。

涼介は結月の顎を強く掴み、冷たい声で警告した。

「結月、お前が何を企んでいるか知らないとでも思ったか。ここは渋江だ、帝都じゃない。

ついでに教えてやろう。清水先生は今、ベッドで寝たきりになり、言葉すらまともに発せない状態だ。

先生の本当の弟子が誰なのかなんて、今となっては誰にも分かりはしない。無駄な小細工はするな」

結月はわずかに瞳を揺らした。数年ぶりに聞く恩師の消息が、まさかこれほどの悲報だとは思いもしなかった。

春奈が堂々と恩師の弟子を騙れるのも無理はない。身寄りもなく、重病で寝たきりになった恩師の状況につけ込んで、言いたい放題しているだけなのだから。

「大人しくしていろ。二度も同じことを言わせるなよ」

会場から拍手が沸き起こる。

涼介は結月を突き放し、袖口を整えながら言った。「出せ」

結月は顎の骨がヒリヒリと痛むのを感じながら、無表情で問い返した。「何を?」

「とぼけるな。清水先生から貰ったものを出せ」

結月は思わず吹き出し、涙が出るほど笑った。

赤くなった目尻の涙を無造作に拭い去り、驚愕する涼介の視線を受けながら、皮肉たっぷりに言い放った。「勾玉なんてないし、切子玉もないわ。あんたたちを騙したのよ」

「俺をコケにしたのか?」

涼介の整った顔が一瞬にして陰り、無意識に手を振り上げた。

「結月、お前……」

だが次の瞬間、涼介の腕が横から掴まれた。

「大の男が、女に手を上げるのか?」

この気怠げな口調。結月の心臓が大きく跳ねた。

慎也だ。

慌てて顔を上げると、不良っぽさを漂わせた慎也が自分に向かってわずかに眉を上げ、まるで褒めてほしそうな素振りを見せた。

「……」

結月は冷たい顔をして視線を逸らした。

相手が慎也だと気づくと、涼介は瞬時に怒りの表情を引っ込め、やれやれといった顔で首を振った。

「少し脅しただけだ。こいつがいつも俺を怒らせるからな」

涼介は結月を横目で睨んだ。

「いいから、お前は先に展示ホールに戻れ。これ以上俺に迷惑をかけるな。分かったな」

涼介が自分と慎也を関わらせたくないのは明らかだったが、結月にとってもそれは好都合だった。結月はくるりと背を向け、その場を立ち去った。

背後から、慎也の気怠げな声が聞こえてくる。

「春奈が妊娠したって聞いたぜ。それでもまだ、結月と離婚するつもりはないのか?」

その後、涼介が何と答えたのか、結月の耳には届かなかった。離婚のことを、涼介が他人に話すはずがない。何しろ涼介は、人前では妻を深く愛する良き夫というキャラクターを作り上げているのだから。

結月は展示ホールに戻った。

ステージ上では岳人が開会の辞を述べており、特別ゲストの専門家である春奈は、他の先輩鑑定士たちと共に最前列に座っていた。

周囲の照明が落とされ、展示品が次々とステージへ運び込まれる。

しばらくして涼介が戻ってくると、春奈のすぐ後ろの席に座った。涼介は振り返って遠くから結月のいる方向を一瞥し、スマートフォンを取り出して画面を数回タップした。

結月のスマホが震えた。取り出して見てみると、案の定、涼介からのメッセージだった。

【しっかり協力しろ。子供のことを考えろ】

結月は声を上げて笑った。

子供のことを考えろ、か。そうね、もっと子供のことを考えるべきだわ――満が病床で苦しんでいる間、父親である涼介は愛人とイチャイチャしていた。

子供が救急搬送された時、何十回電話をかけても、涼介は春奈と買い物を楽しんでいた。

考えれば考えるほど、憎しみが募る。

「涼介は、自分の娘が死んだことすら知らないのか?」

慎也の低い声が、耳元にまとわりつくように響いた。

結月はスマホをしまうと、彼の顔を見ることもなく答えた。「知らないわ。知ってたら、私があんたを誘うはずないでしょ」

その言葉はあまりに辛辣で、自分自身をも傷つけるものだった。慎也は軽く舌打ちをし、黙り込んだ。

ステージ上の展示品は一つひとつ、専門家たちの手を渡りながら真贋の判定、年代の特定、等級の評価、価値の見積もりが行われていく。運ばれては下げられる品々は玉石混交で、すべては専門家たちの腕と眼力にかかっていた。

しばらくして、慎也が再び口を開いた。「涼介はお前に、何を協力しろって言ってるんだ?」

彼は結月に顔を寄せ、他人のメッセージを盗み見たことを微塵も悪びれていない。首筋にかかる吐息が、薄暗い空間の中でなぜか悪意のある誘惑のように感じられた。

ふと、あの日、慎也の熱い汗が首の窪みに落ちた時の焼けつくような感触が蘇る。

結月は本能的に体を硬くし、身をよじって距離を取ると、専門家たちの話に耳を傾けながら皮肉めいた言葉を漏らした。「そんなに気になるなら、涼介に聞いてみたら?あんたたち、心が通じ合ってる親友なんでしょ」

他の人間が慎也にこんな口をきけば、とっくに蹴り飛ばされているところだ。

だが、結月のこの強気な態度は、慎也に奇妙な感覚を抱かせた。

まるで野良猫に引っかかれたような、ちりちりとした痛みと、どこかくすぐったい心地よさが混ざり合った――そんな感覚だった。

慎也は頬杖をつき、瞬きもせずに隣の女の顔を見つめながら、自分にはマゾっ気があるのではないかと疑った。

「じゃあこうしよう。本当のことを教えてくれたら、今夜すぐにでも俺が涼介を殴りに行ってやる。どうだ?」

正直なところ、この提案には結月も少し心が動かされた。

前方に座っていた涼介が何かを感じ取ったのか、振り返ってこちらを見た。

目に見えて眉をひそめており、顔には笑みを浮かべていたが、その瞳の奥には冷たく重い怒りが宿っていた。

次の瞬間、結月のスマホに再びメッセージが届いた。

【慎也に色目を使うな】

顔を上げると、涼介の陰湿な瞳と目が合った。

次の瞬間、結月は挑発するように慎也へと顔を向け、微笑みかけた。その笑みは、見る者の心を奪うほど艶やかだった。

「あんたたち、本当に仲がいいのね。涼介に警告されちゃったわ。どうしてくれる?」

まるで自分からキスをしようとしているかのような仕草だ。

慎也の全身は影に包まれて反応が読めず、涼介の角度から見れば、結月が自らキスをねだっているようにしか見えなかった。

涼介がガタッと勢いよく立ち上がった。あまりに大きな音だったため、その場にいた全員が驚いて一斉に涼介の方を振り向いた。

結月はすでに元の姿勢に戻り、気怠げに頬杖をつきながら、目を細めて何かを企んでいるようだった。

春奈がこちらをちらりと見やり、涼介の手を引いて小声で何かを囁いた。

その後、涼介は再び席に座り、あっという間にいつもの礼儀正しい紳士の顔に戻った。先ほどの取り乱した姿は、まるで錯覚だったかのようだった。

慎也が真意の読めない口調で口を開いた。「俺を利用してあいつを嫉妬させるとは、まだ随分とあいつを愛しているように見えるが?」

「気色悪いこと言わないで。本当に不愉快だわ」

結月は用済みだと言わんばかりに即座に態度を翻し、自分の最も性格の悪い部分を相手に見せることなど、微塵も気にしていなかった。

慎也は眉を上げた。

どうやら涼介は、自分よりも結月に嫌われているらしい。そう思うと、少し気分が晴れた。

――まあいい、少なくとも結月は、俺とはイチャついてくれるんだからな。

すぐに、慎也は涼介が結月に何を協力させているのかを理解した。

展示品が増えるにつれて鑑定の難易度も徐々に上がり、運び込まれた骨董品が専門家たちの手元に留まる時間も長くなっていった。会場の空気は次第に重苦しくなり、議論の声が増え始める。

ただ慎也のいる隅の席でだけ、結月が唇を動かし、一つ一つの展示品の真贋、年代、価値を小声で言い当てていた。

大型スクリーンを見つめる結月の瞳は冬の星のように眩しく輝き、自身の圧倒的な実力への肯定と自信に満ちていた。

結月が小声で一つ語るごとに、マイクを通して春奈が同じ言葉を繰り返す。

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