LOGIN私・柴田陽菜(しばた ひな)は、ある危険な特殊任務で3発もの銃弾を浴びた谷口泰誠(たにぐち たいせい)を、命がけで背負って帰還した。 すると、上層部である父の柴田克哉(しばた かつや)が幹部権限と私の重傷の診断書を使って、「責任を取れ」と彼に私との結婚を強要したため、泰誠は私を妻に迎えるしかなかった。 私たちが夫婦として過ごした10年間、泰誠が私に触れることは一度もなかった。 私はずっと、彼は生まれつき淡白な人なのだと思っていた。 しかし、泰誠の初恋の相手・武田光希(たけだ みつき)が死の間際、真実を口にした。泰誠が銃撃されたあの日、光希もまた戦場にいて、決して彼を見捨てたわけではなかったのだと。 そして同時に、私が泰誠に12年間想いを寄せていたことも、偶然彼に知られてしまった。 泰誠は私を心の底から憎んだ。父の権力を盾に結婚を迫り、彼ら二人を引き裂いた女だと。 離婚後、泰誠はあらゆる手段で父を追い詰め、ついには捜査情報の偽造および漏洩の罪まで仕立て上げ父を陥れた。 追い詰められた父は、ビルから身を投げ、その後、私も精神病院へ送られた。 私が死を迎える間際、泰誠はひどく嫌悪に満ちた目で私を見下ろして言った。 「お前も、お前の父親も、この歪んだ愛の報いを受けるべきなんだ。 もし来世があったとしても、二度と俺を助けるな。反吐がでる」 再び目を覚ますと、私は泰誠をあの危険な特殊任務の現場から連れ帰り、彼がまだ昏睡状態に陥っているその時に戻っていた。 私は病室から急いで立ち去り、外で戸惑っていた光希に声をかける。 「中に入ったら?彼が待っているわ」
View More泰誠は私に会うことを恐れ、私と話す勇気を持てなかったらしい。私たちは分かっていたのだ。前世での父の事件に一度でも触れてしまえば、二人の間にある表面上の関係すら、もう保てなくなるということを……結婚式の日、特殊部隊の元同僚たちも皆集まってくれた。だから泰誠も、正式に招待されていた。彼は黒のジャケットを身に纏い、とてもきっちりとしている。そしてそれは、私が泰誠と初めて出会った時に彼が着ていた服だった。まさか、今になってそれを着ている姿を見るとは思いもしなかった。私と湊がグラスを手にして特殊部隊の同僚たちのテーブルへ挨拶に向かった時、泰誠が立ち上がった。だが、その手にはグラスがない。「陽菜、俺は……」テーブルの全員の視線が泰誠に集まると、誰かが慌てて彼の腕を引っ張った。今日のめでたい席をぶち壊すようなことを言うのではないかと恐れたのだろう。「泰誠さんは今日お酒が飲めないらしいから、俺たちが代わりに飲もうぜ!」私は泰誠をちらりと見たが、特に何も言わなかった。挨拶回りが終わった後、元同僚の一人が、なぜあの時泰誠を止めたのかを教えてくれた。実は、2ヶ月も前に泰誠は特殊部隊を辞職していたらしい。しかも、誰の引き留めにも耳を貸さず、自分の将来を犠牲にしてでも過去の過ちを償うのだと頑なに言い張ったそうだ。同僚が一体どんな罪を犯したのかと尋ねると、泰誠は前世の出来事を持ち出し、皆を心底震え上がらせた。一時は、私が結婚すると知って気が狂ったのだと思われていたようだった。そして、今日来る前、泰誠が特殊部隊に配属されたばかりの頃の服を着て、「今日が最後のチャンスだから、賭けてみたい」と口走るのを聞いて、同僚たちは警戒したとのこと。「陽菜さんはもう結婚したっていうのに、あいつが略奪でもする気かと思ってさ。こっちは、まじでヒヤヒヤしたんだから。だから、すぐさま俺たちは、今日一日はあいつから絶対に目を離さないようにしようなって決めたんだよ。この結婚式を台無しにしないようにって!」私はそんな彼らを笑い飛ばした。「もし泰誠さんが発狂しても、うちの旦那が皆の前で彼をつまみ出してくれるから大丈夫」そう言った矢先、控室の外から声が聞こえてきた。「陽菜さん!藤堂さんが谷口を追い出したよ!」私と元同僚は顔を見合わせ、慌ててドアを開けて外
前世の陽菜は、サイズの合わない指輪を指にはめ、自分に向かって微笑みながらこう言っていた。「サイズが合わなくても平気。だって、最初からすべてがぴったりな人なんていないでしょ?だから私たちもゆっくりいきましょう、泰誠さん。あなたが私を愛してくれる日まで、私ずっと待ってるから」前世、泰誠はそんな陽菜が心底嫌だった。しかし生まれ変わって、陽菜が次第に自分から遠ざかっていく中、その記憶が何度も何度も脳裏に蘇るようになった。泰誠は陽菜が自分から遠ざかっていくことが、これ以上耐えられなかったし、陽菜が他の男と結ばれることなど、絶対に受け入れられなかった。だから、薬を持ってくるなど見え透いた口実を作り、陽菜に会いに来たのだ。しかし、陽菜はもう前世の彼女とは別人だった。永遠に自分が家に帰ってくるのを待ち続けるような陽菜は、もうどこにもいない。彼女の口から出るのは他の男の話ばかりで、前世で恋敵として扱っていた光希の話をする時でさえ、完全に他人の立場で擁護するような口ぶりだなんて。陽菜はもう自分など愛していないのだ。泰誠は、巨大な手で心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥り、息ができないほどの痛みに襲われた。目を赤くし、声を詰まらせて言う。「陽菜。俺はただ答えが欲しいだけなんだよ。あの男のどこが、俺よりいいっていうんだ?何十年も俺のことを思っててくれたんじゃないのか?なのに、俺への想いを捨ててまで、あいつと一緒になる理由は一体何だよ!」……その日、泰誠は警備員につまみ出された。彼の問いに、私は何一つ答えなかった。前世、泰誠は私の父を追い詰め、死に追いやったことを忘れたのだろうか?私は永遠に忘れることはない。私と湊の関係は、きっとネットでよく言われる「運命の人」なのだと思う。なぜなら全てが流れるように自然に進み、そこにはわずかな障害すら存在しなかったのだから。6月末、柴田家と藤堂家の両家の顔合わせが行われた。湊の両親は私をとても気に入ってくれ、食事の席では藤堂家に代々伝わる家宝まで私に譲ってくれた。父は私の手を握りながら、泣いたり笑ったりと忙しくしながらも、湊に向かってこう言った。「娘は、俺が手塩にかけて育てた宝物なんだ。もし娘を泣かせるようなことがあれば、特殊部隊の連中を引き連れてでも君の家に乗り込むから
私は書類を置いて外へ出ると、そこには何やら薬の入った袋を提げた泰誠が立っていた。「友人が薬とか栄養剤を送ってくれたんだが、俺よりお前の方が必要かなと思って持ってきたんだ。今、少し話せるかな?」私は一瞬ためらったが、光希の言葉を思い出し、泰誠とは一度きちんと話し合っておいた方がいいと考え直した。「入って」泰誠は私のオフィスをぐるりと見回し、机の上に飾ってあった私と湊のツーショット写真に視線を留める。それは、付き合い始めた日に撮ったものだった。泰誠はその写真をじっと見つめ続けていたが、急に我に返り、私に尋ねてきた。「お前たち……付き合っているのか?」「うん。最近は婚約の話も進めている」私は堂々と答えた。それに、湊の話をする時には、自然と笑みが浮かんでくる。「湊は気が早くて、ずっと私を実家に連れて行こうとするの。何なら、24時間ずっと一緒にいたがるくらい。うちの父も湊をとても気に入っているわ」泰誠は拳をきつく握りしめ、顎を強張らせた。そして、長い沈黙のあとにようやく口を開く。「でも、お前たちは合わないと思う。お前は愛していない男と一生を添い遂げるつもりか?陽菜、お前は昔言っていたよな。たとえ孤独に死んでいくとしても、愛していない人間に縛り付けられ、最後には互いに憎み合うような結末になるよりはマシだって」私は泰誠の真剣な顔を見て、自分が本当にそんなことを言ったかどうか、少し考えを巡らせた。しかし、少し考えてみても何も思い出せなかった。「そんなことを言った?覚えていないよ。昔のことは、もうほとんど忘れちゃったから。それに、一生に一人しか愛せないなんて、誰が決めたの?」泰誠は唇を噛み締めたまま黙り込んでしまった。そうなっては、何を考えているのか分からない。しばらくして、私の方から話を切り出してみた。「光希さんが私に会いに来て、あなたたちのことを色々と話してくれたよ」泰誠はそれを聞くや否や、無意識に光希との関係を否定しようと、焦った声で言った。「あいつは、何て言っいたんだ?それに、あいつと子供を作る気なんてなかった。それに、流れてしまったのも、単なる事故なんだよ。信じないかもしれないけど、俺は光希と結婚しようなどとは一度も思っていなかった。俺はもう、あいつに恋愛感情なんて抱いていない。陽菜、俺
前に会ったのは1ヶ月前だが、光希は明らかに痩せこけ、ひどく憔悴しており、生きる気力すら失っているように見えた。そんな彼女は私に向かって微笑み、こう言った。「座って、陽菜さん。時間を取らせてごめんなさい。彼氏さんと、本当に仲が良さそうね」私も軽く笑って答える。「気にしないで。家にいても暇なだけだから。何だか少し具合が悪そうだけど、大丈夫?」すると、光希は唇を噛み締め、無意識に手で腹部を撫でた。「私、泰誠と別れたの。子供も……もういないんだ」私は言葉を失い、慰める言葉がすぐには見つからなかった。光希は無理に笑みを作ったが、まるで全身の力を使い果たしているかのように見える。「本当は、こうなることなんてずっと前から分かってたの。復縁した後も、泰誠は夜中によくあなたのインスタを見ていたし、特殊部隊の同僚にもあなたのことを聞いていたから。それに、あなたが自ら相棒の解消を申し出たと知って、泰誠はすごく怒ってた。私があなたに何か吹き込んだんじゃないかって、問い詰められたことすらあったんだよ。だからその時、泰誠が変わってしまったことには気づいていた。ただ、私が諦めきれなかっただけで……」光希の涙がポロポロと料理にこぼれ落ちるのを見て、私は胸が痛んだ。まるで、かつて泰誠に見捨てられ、家の食卓に座って日が暮れるまで彼を待ち続けていた自分自身の姿を見ているようだったから。私は静かに声をかけた。「泣かないで。彼はそこまでして泣く価値のある男じゃないんだから」光希はしゃくり上げながら言った。「あのね、今日ここに来たのは、一つだけ聞きたいことがあったからなの。泰誠が前に言ってた、前世がどうとかいう話は本当なの?」私は俯き、長い沈黙のあとで静かに答える。「うん、本当」すると、光希は再び笑ったのだが、その笑みにはいくばくかの自嘲の色が混じっていた。「つまり、泰誠は最初から私を愛してなんていなかったのね。彼が愛していたのはあなたで、ただ彼自身がそれに気づいていなかっただけ……」何と言えばいいのか分からなかった私は、俯くことしかできなかった。泰誠は私を愛しているのだろうか?それは、私には分からない。では、彼は光希を愛していたのか?それも、私には分からない。沈黙している私に、光希はバッグの中から一枚の写真を取り出してテーブルに置い