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第292話

Penulis: 春さがそう
彼は一歩一歩、紗季へと歩み寄った。

紗季は彼の足音が重々しく自分の心臓を打ち据えるように感じた。

やがて、隼人は彼女の前で立ち止まった。

彼の大きな体は彼女を完全にその影の中へと覆い尽くした。

紗季は彼から漂う男の匂いに、無意識に後ずさろうとした。

しかし、隼人の影は力強い圧迫感を伴って彼女に覆いかぶさった。

彼の手はまっすぐ紗季の顎へと伸び、そっとその顎を掴み、持ち上げた。

紗季は彼の力に抗いがたいものを感じ、彼を見上げるしかなかった。

目が交錯した後、ベールの下に隠された彼女の瞳が、かすかに震えた。

隼人は薄い唇を結び、その鋭い眼差しはまるで彼女のベールをこじ開け、その素顔を突き刺すかのようだった。

彼は尋ねた。

「交換条件は?」

その声ははっきりとしており、意味深長な響きを帯びていた。

紗季の心中の神経が、不意に跳ね上がった。

わずか数文字の言葉が、彼女の身に重くのしかかった。

彼女はゆっくりと拳を握りしめた。

交換条件?

「私には何もございません。何と交換しろと仰るのか、分かりかねます」

彼女は答えに気づいていたが、それでもとぼけたふりをした
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