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第261話

Author: 青山米子
隼人は、一葉の後ろに立つ旭を睨みつけた。

言吾の生死さえ定かでないこの状況で、他の男と親しげにしている一葉の姿を見て、思わず何か罵りの言葉を吐きかけようとしたが――

少し離れた場所で静かに酒を飲んでいる男の姿が目に入り、彼はぐっと口を噤んだ。

自分たちがこれだけの人員を動員し、公海上で大規模な捜索活動を行えるのも、そして、あの犯罪組織が事を荒立てずに沈黙を守っているのも、全ては旭が彼の叔父に働きかけたからだった。

隼人にはわかっていた。今の言吾は、恐らくはもう助からない。

だが、仮に生きていたとしても、自分たちが束になってかかったところで、あの男――桐生慎也には到底敵わない。旭の存在がどれほど気に食わなくても、今は耐えるしかなかった。

慎也が来ているということは、彼に影のように寄り添う優花も、当然この場にいた。

自分が周到に練り上げた計画の結果を目の当たりにして、彼女は内心、激しい憎悪に身を焦がしていた。

一葉は、無傷。

そして、言吾が、命を落とした。

優花は、人知れず拳を強く、強く握りしめる。

どうしてこの女は、これほどまでに運がいいのだろう!

どうして、何度も何度も、死の淵から生還できるのだろう。

幼い頃から自分をあれほど可愛がり、信じぬき、そして自分という存在のために、妻である一葉をいとも簡単に誤解し、傷つけてきた言吾。

そんな彼に対して、彼女は一片の心配すら抱いていなかった。心に渦巻くのは、ただ「愚か者!」という罵りの言葉だけ。

一体どこの世界に、自分を捨てた元妻のために、命まで投げ出す馬鹿がいるというのだろう。信じられない、救いようのない愚か者だ、と。

「どうした?」 それまで静かに酒を飲んでいた男が、ふいに顔を上げて彼女を見た。

優花は咄嗟に握りしめていた拳を緩めると、男に数歩すり寄って見せた。「慎也さん……この光景、あまりにも惨くて……私、怖いわ」

男は楽しそうに彼女の頭を撫でた。「じゃあ、戻ろうか」

そう言うと、彼はすっと立ち上がった。

優花は嬉しそうに、すぐさま彼の腕に自分の腕を絡め、その場を後にした。

隼人もまた、優花とは幼馴染であった。

今の彼女は昔の面影がなく、自分はあくまで江ノ本千草だと主張してはいるが、隼人は直感的に何かを感じ取っていた。

あれほど言吾が愛した女、いや、言吾をここまで追い詰めた
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Comments (2)
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長野美智代
旭くんの叔父さん。優花の事を性悪女だと分かっていて逃がさない為に傍に置いているのでは。 言吾はきっと生きている。
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ayako
言吾は死んでないはず。だって死んでたらタイトルの回収できないから。
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