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第9話「残響する泣き声」

Penulis: ちばぢぃ
last update Tanggal publikasi: 2026-03-15 20:30:20

朝の校舎は、いつもと変わらない喧騒に包まれていた。

シュウは教室の窓際の席で、ぼんやりと外を眺めていた。桜の木はもう葉桜になり、ピンクの花びらは跡形もなく消えていた。昨夜の出来事が、夢のように遠く感じる。

タクミが隣の空席に腰を下ろし、弁当を広げた。

タクミ「よお。顔色悪いぞ」

シュウは小さく首を振った。

シュウ「少し……疲れただけ」

タクミは箸を止めて、シュウの顔を覗き込んだ。

タクミ「高槻の体は……どうなった?」

シュウ「朝、職員室に連絡した。『新校舎の地下室で倒れている人がいる』って。警察が来て、運ばれたらしい」

タクミ「生きてんのか?」

シュウ「わからない。意識不明だって」

二人は黙り込んだ。弁当の匂いが、妙に現実味を帯びてくる。

タクミ「じゃあ……終わったってことだろ?」

シュウは窓の外に視線を戻した。

シュウ「泣き声が、まだ聞こえる気がする」

タクミが眉を寄せた。

タクミ「マジか? 俺はもう、何も聞こえねえけど」

シュウは耳を澄ませた。確かに、遠くから、かすかな嗚咽のような音が混じっている。風の音か、誰かの声か、区別がつかない。

放課後。二人は新校舎の屋上へ向かった。換気口の蓋は溶接されたまま。誰も近づいていない。

シュウはフェンスに寄りかかり、空を見上げた。

シュウ「装置は壊した。でも……記憶は、全部消えなかったみたいだ」

タクミ「父さんの記憶が、残ってるってことか?」

シュウは頷いた。

シュウ「装置のコアを抜いた時、父さんの最後の笑顔が、頭に焼きついた。あれは……本物の記憶だと思う」

タクミは深く息を吐いた。

タクミ「だったら、いいじゃん。お前、父さんのこと、ちゃんと取り戻せたんだろ」

シュウは小さく笑った。だが、笑顔はすぐに消えた。

シュウ「でも、高槻は……本当に死んだのか?」

その時、屋上のスピーカーから、ノイズが流れた。低く、歪んだ音。

高槻の声「まだ……終わっていないよ」

二人は同時に振り向いた。スピーカーは、壊れていないはずだ。

高槻の声「装置は壊れた。でも、記憶はここに残ってる。君の父さんの記憶も……そして、君の記憶も」

声は弱々しく、途切れ途切れだった。

シュウ「高槻……生きてるのか」

高槻の声「生きてるさ。ただ……もう、限界だ。体が、持たない」

タクミが叫んだ。

タクミ「じゃあ、何が目的だ! まだ何か企んでんのか!」

高槻の声「企み? もうない。ただ……最後に、伝えたかった」

声が、少しだけ澄んだ。

高槻の声「お父さんは、君を愛していた。プロジェクトを止めたのは、君を守るためだった。俺は……それを、理解できなかった」

シュウの指が、フェンスを強く握った。

シュウ「……ありがとう」

高槻の声「礼はいらない。ただ、泣き声を……止めてくれ」

声が、途切れた。

スピーカーのノイズが消え、静寂が訪れた。

シュウは目を閉じた。胸の奥で、何かが溶けていく感覚があった。

シュウ「……泣き声が、止んだ」

タクミが肩を叩いた。

タクミ「よかったな」

シュウは頷いた。涙が、一筋落ちた。

シュウ「父さん……ありがとう」

夕陽が校舎を赤く染め、二人の影を長く伸ばした。

屋上から降りる階段で、シュウはふと足を止めた。

シュウ「タクミ」

タクミ「ん?」

シュウ「星見キッズ……これからも、続けるか?」

タクミはニヤリと笑った。

タクミ「当たり前だろ。まだ、中学一年生だぜ。事件は、これからいくらでも起きる」

シュウも笑った。今度は、本物の笑顔だった。

シュウ「そうだな」

二人は階段を下りた。校舎の廊下は、夕陽で黄金色に輝いている。

遠くから、誰かの笑い声が聞こえた。カナエか、ケンタか、リナか。わからない。でも、確かに、友達の声だった。

シュウは振り返らなかった。ただ、前を向いて歩き続けた。

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