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第20話「星見中学の最初の血」

Auteur: ちばぢぃ
last update Date de publication: 2026-03-21 08:30:45

朝の校門は、いつもと変わらない喧騒に満ちていた。

生徒たちが笑い声を上げて校庭を横切り、部活の朝練に向かう者、遅刻ギリギリで走る者。シュウはいつものように窓際の席で事件ノートを開き、昨夜の地下の記憶を淡々と書き留めていた。ポケットの中の赤い星の破片が、時折温かく脈打つように感じる。

タクミが教室に入ってきて、息を切らしながら席に崩れ落ちた。

タクミ「シュウ……やばいぞ」

シュウはペンを止めた。タクミの顔が青ざめている。

シュウ「どうした」

タクミはスマホを差し出した。画面には、学校の非公式掲示板ではなく、公式の緊急連絡が表示されている。担任からの一斉メール。

『本日、朝の登校時に生徒の死亡が確認されました。警察が現場検証中です。登校した生徒は教室で待機し、指示に従ってください。詳細は後ほど連絡します』

シュウの指が、スマホの画面を強く押した。

シュウ「……誰だ」

タクミは声を震わせた。

タクミ「1年3組の……佐藤先生のクラスの男子。名前は……高橋悠斗。バスケ部の2年生と一緒に朝練に来てたらしいけど……体育館の倉庫で、首を絞められて死んでたって」

教室の空気が、一瞬で凍りついた。

周りの生徒たちが、ざわつき始める。誰かが泣き出し、誰かがスマホを握りしめて固まる。

シュウは立ち上がった。ノートを閉じ、ポケットにしまった。

シュウ「行く」

タクミ「待てよ! 警察が来てるんだぞ。俺たちが行っても……」

シュウの目が、鋭く光った。

シュウ「高橋悠斗……バスケ部じゃない。昨日、俺に話しかけてきた子だ。『シュウくん、なんか変な人形見たことある?』って」

タクミの顔色が変わった。

タクミ「人形……?」

シュウは教室を出た。廊下を早足で体育館へ向かう。

体育館の入り口は黄色い規制テープで封鎖され、制服姿の警官が数人立っていた。周辺に生徒が集まり、遠巻きに覗いている。

シュウはテープの隙間から中を覗いた。

倉庫の扉が開け放たれ、床に白いシートがかけられている。シートの端から、血の染みがにじみ出ていた。赤黒く、乾き始めている。

近くに落ちているもの――泣き顔の人形。赤い目が、こちらをじっと見つめている。

警官の一人が気づき、近づいてきた。

警官「君たち、ここは立ち入り禁止だ。教室に戻ってくれ」

シュウは動かなかった。

シュウ「人形……誰が置いたんですか」

警官の目が細まった。

警官「それは……捜査中だ。君、知ってるのか?」

シュウはポケットから赤い星の破片を握りしめた。温かい脈動が、手のひらに伝わる。

シュウ「知ってる……かも」

タクミがシュウの腕を引っ張った。

タクミ「シュウ、戻ろう。今は……」

だが、シュウは振りほどかなかった。

シュウ「高槻の意識は、まだ生きてる。鏡は壊したけど……コアは俺が持ってる。でも、それだけじゃ足りなかった」

警官が無線に手をやる。

警官「こちら、現場。怪しい生徒が二人。事情聴取を……」

その時、体育館の奥から、かすかな音が聞こえた。

……ドス……ドス……。

足音。

ゆっくりと、倉庫の奥から近づいてくる。

警官たちが一斉に振り向く。

足音が止まった。

代わりに、泣き声が響いた。

泣き声「……次は……誰?」

声は複数。男の子、女の子、混じり合った、歪んだ合唱。

シュウの背筋が凍った。

シュウ「忘れられた記憶……みんなの、怨念か」

タクミがシュウの腕を強く掴んだ。

タクミ「シュウ……逃げよう」

だが、シュウは動かなかった。

シュウ「逃げられない。……これが、星見中学の最初の血だ」

体育館の照明が、一瞬だけチカチカと点滅した。

シートの下から、ゆっくりと手が伸びた。死んだはずの高橋悠斗の手。指が、ゆっくりと動く。

警官が叫んだ。

警官「下がれ!」

だが、手はシートを掴み、ゆっくりと引きずり下ろした。

高橋の顔が露わになる。首に赤い縄の跡。目は見開かれ、口元に、かすかな笑みが浮かんでいる。

そして、死んだはずの口が、ゆっくりと開いた。

高橋の声「……シュウくん……次は、君の番だよ」

声は、高槻のものだった。

シュウは赤い破片を握りしめた。破片が、熱く脈打つ。

シュウ「……来い」

体育館全体が、かすかに揺れた。

泣き声が、大きくなった。

星見中学で、初めての殺人が、静かに幕を開けた。

そして、それは、決して最後のものではなかった。

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