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祝祭Ⅳ

Penulis: 東雲雨月
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-02 20:01:06

 観客の歓声が響いて高まる熱狂の中、様々な演目が繰り出される。そしてサーカス団の目玉である―――猛獣使い・ダフネと動物たちによる大道芸が始まった。ジラソーレはぼんやりと舞台出入り口付近から眺める。

 ダフネがパフォーマンスかの如く、床に鞭を打ち付ける。するとライオンが緩く口を動かしながら、気だるそうに熱された火の輪を道を幾度となく通り抜けた。

 歓声が上がる。

 ダフネに駆け寄ったライオンは頭を撫でてほしそうに、彼の身体に顔を擦り付けた。ダフネは柔らかく目を細めて、獅子の頭を優しく撫でた―――その手つきはジラソーレのそれと同じだ。

 嫌な気持ち。

 いくつかの、動物たちの大道芸が終わり、舞台奥から姿を見せたアルレノが大きく声を張り上げた。その代わりにダフネが舞台奥へと引っ込む―――照明に炊かれて汗をかいた彼が、ジラソーレの目の前に姿を見せた。

「皆様、これよりが我らがサーカス団『フィエスタ』の大目玉ネ!目をかっぴらいてよく見るといいネ、大目玉だけに!―――ここは笑うところヨ!とはいっても、アルレノ、ちょっと最近出番が少なくて泣いちゃうネ!みんな美丈夫ばっかり見すぎヨ!たまにはアルレノの真っ白くて美しい顔でも見るがいいネ!」

 アルレノの台詞を聞いた観客が、大きくブーイングを起こす。彼は場を持たせる専門家だ―――ケラケラと愉快な笑い方をしながら幕間を埋めた。

 ダフネは盛り上がった舞台の方向に視線を流しながら身に纏っていた衣装を脱ぎ、ジラソーレに投げつける。二人の周りでは準団員が大きい幕をもって囲い、簡易の更衣室を作り出していた。全裸になった彼に、ジラソーレは頬を赤らめながらダフネの身体を見ないように視線を背ける―――筋骨隆々で色香の漂う男の身体は、未だに見慣れない。

 横目でダフネの表情を伺いながらジラソーレは手元に投げ捨てられた服を抱きしめる。彼は真剣そうな面持ちで瞼のカーテンを下ろして、息を吐いた。

「”我らが友に告ぐ、我らが友に告ぐ―――その姿を貸したまえ”」

 淡く白い光が弾けて、ジラソーレの浅黒い肌の上で波打つ。咄嗟に眩しくてジラソーレは瞳を閉じて―――開いた。緩い咆哮が耳の奥で弾ける。眼前には美しい―――白いトラがその
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  • 向日葵の踊り子は喋れない   祝祭の後Ⅱ

     四人掛けの席にメディチ侯爵ともう一人―――青年が、向かい合う形で座っている。困惑を滲ませながらジラソーレはメディチ侯爵の隣に腰掛けた。 「呼び出してすまないな―――どうしてもこの方がお前と話したいと仰ってな」  ふるる、と首を横に振る。改めて向かい合った青年に目をやる。メディチ侯爵と同じようなスーツに杖を持っており、それだけで高い身分ということが伺えた。青い月夜の光に照らされた金髪は癖毛で長毛の猫のようだ。 「なんだか見つめあうと照れちゃうね―――僕はこのマノで繊維業を主に請け負っている、マノイ・リンチェという者です。よろしくね」 「この者は言葉を発せない―――ので、私が紹介する。彼はサーカス団『フィエスタ』のメインメンバーの踊り子・ジラソーレだ」  彼―――リンチェの自己紹介によろしくの意味を込めて頭を下げると、助け舟を出すようにメディチ侯爵がジラソーレの紹介をする。  リンチェは「感謝します」と柔和で人好きのする笑みを浮かべた。 「今日は彼もお疲れのことでしょう。手短にお話しさせていただきます―――君のことを家に招いて、僕の秘書として勤めてくれないだろうかと思っているんだ」  身体が跳ねて、隣に座っているメディチ侯爵の肩に触れる。ひどく婉曲的な表現だ―――つまり性玩具として彼に買われないか、というお誘いだ。女性ならば”結婚”のお誘いとも取れるが、残念ながらジラソーレは男だ―――それに加えて、ジラソーレには絶対に揺らがない”旅の目的”があった。断るしかない。  公演を終えて熱された体温が静かに冷めていく。ふるふる、とジラソーレは首を横に振った。 「とのことだ―――言っただろう、彼はそういうのに耐性がない。おまけに声を発せないから嬌声だってつまらないものだ。お引き取り願うよ」 「あはは、残念だ―――流石、メディチ侯爵の寵児だね。鎖を外すのは手強そうだ。今まで幾度となく持ち掛けられてすべて門前払いだったそうじゃないか。今回の僕は幸運だね」 「人聞きの悪い。君は私にとって利用価値があるから会わせてあげただけだ―――賭けには勝った、例の件、よろしく頼むよ」 「ずるいよ、全く。勝てる勝負にしか挑んでないんだね」  軽快に交わされ

  • 向日葵の踊り子は喋れない   祝祭の後Ⅰ

     沸騰した熱を演者に浴びせるように、歓声が舞台を包み込む。円形になぞらえて出演した団員も丸くなり、客席に向かって手を振った。ジラソーレも同様に。右隣にいるサクラの胸元の服や腰の紐には札束が捻じ込まれており、今日も大漁だったようだ。左隣にいるダフネはせっかく整えた髪が変身魔法によって三つ編みが緩くなって解けかかっている。  拍手の音が次第に収束していき、静寂の音が大きくなった―――最後にもう一度メディチ侯爵が礼をして、舞台から悠々と退場する。波が引くように団員もはけていき、誘われるようにジラソーレも続いた―――終幕。「楽しかったか?」  自室のテントに戻って、鏡台に向かい合い濡れた布で化粧を落としていると、分厚い布が開かれた音がした。響いた声に視線を向ける。そこには髪を下ろしたダフネが、柔和な笑みを浮かべて立っていた。  頷く。 「はは、そうか―――ユーリさんが呼んでる。馬車の中で待っているそうだ」  また、頷く―――最近はメディチ侯爵の呼び出しが極端に増えている、と思う。対になる踊り子の件か、はたまた別の要件か。 「大丈夫か?」  ジラソーレの不安の揺らぎを感じ取ったのか、ざり、とテント内に足を踏み入れたダフネが顔を覗き込む。ふる、ふると頭を揺らして”大丈夫”だと、ジラソーレは意思表示した。 「そうか―――早めに行くんだぞ」  一瞬、ダフネの美しい顔にはめ込まれたマルーンの瞳が翳る。そしてすぐに優しい面持ちに変化して、ジラソーレの栗色の頭に触れた。  ジラソーレは視線を落としながら頷くと、彼は柔らかい足音でテント内を去った。撫でられた髪の温度に追いすがるように触れて―――重たい息を吐く。  早くいかなければ。ベッドに倒れ込みたい衝動を抑えて、ジラソーレは纏っていた衣装を箱に投げ捨てた。  白いシャツとスラックスに着替えて、雑踏の波が引いた敷地の外へと向かう。サーカスが行われる舞台のあるテント裏には団員の居住地であるテント群があり、さらに道を抜けた奥にはメディチ侯爵の別荘があった。  メディチ侯爵は、このフィオレニア王国ではそれなりの良い身分らしく、巡回公演する四つの地区に別荘を持っている。本拠地は中部にあるリオマにあ

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  • 向日葵の踊り子は喋れない   祝祭Ⅲ

     頑ななジラソーレの態度に、アルレノは肩をすくめて栗色の頭を縁取るように優しく撫ぜた。まだ手の中にある薔薇をぎゅっと握りしめると、不意に痛みが走る。ジラソーレは顔を顰めながら手を見ると、薔薇の茎の棘が処理されていなかったらしく手のひらに刺さっていた。 「ワァ!大変ネ!救護の先生に診てもらうといいネ!」  いつもの調子に戻ったアルレノが甲高く声を上げて、ジラソーレの手を引く。「必要ない」 胸が、高鳴る。鼓膜を揺らした声のする方向へと視線をやると、ダフネが無表情のままアルレノとジラソーレの様子を伺っていた。そして手を取られていたジラソーレに近づき身を寄せると、そっと囁くように唱えた。 「”傷よ、癒えよ”」  途端、淡い光が放たれる―――目を細めると、いつの間にか刺さっていた棘が消滅して傷がなくなっていた。 「…相変わらず、魔法ってやつはすごいネ!憧れるネ!」 「この程度の傷なら魔法さえ使えれば誰でもできる。それよりもうそろそろ出番じゃないのか?」 「―――ワァ!ありがとネ!じゃあネ!」  気まずくなったのかアルレノは、腕を直角にしながら駆けて行った。あまり道化師らしくない走り方にジラソーレが唖然としていると「そういう笑いだから笑ってあげな」とダフネは呆れ笑いを零す。  傷が癒えた手を眺めながら、不思議な気持ちになった―――本来ならばジラソーレも使えるはずだった魔法の、活用方法。  魔法というものは”詠唱”があって、初めて成立する。詠唱がなければ魔法として機能しない―――要するにジラソーレは魔力を持っていながら”詠唱”ができないため魔法が使えないという、大変残念で稀有な人間なのだ。 『あ り が と う』 「んーん、どういたしまして―――なぁ、髪直して。ちょっと崩れた」  ジラソーレは静かに頷く。ほんの少しだけ羨ましいと思った―――もし言葉を発せたら奴隷じゃなかったかもしれない。もし言葉を発せたら奴隷じゃなくても一人で生きることができたかもしれない。もし言葉を発せたら、ダフネに会うことができなかったかもしれない。  脳裏を過る”たられば”を無視しながら、緩く崩れたダフネ

  • 向日葵の踊り子は喋れない   祝祭Ⅱ

     息を整えながら、ジラソーレは汗まみれの身体を水で濡れた布で拭った。ジラソーレの演目は終了して、サクラが空中大道芸を行っている最中だ。空中から舞台に垂らされたシルクを掴んで、ワイヤーが引き上げられて身体が宙に浮くたびに様々な技に挑戦するものだ。分かりやすくサーカスらしい演目で、観客も歓声を上げている。  土台が違うパフォーマンスのため質の違う歓声に不満はないが、この後の彼女とダフネの演目を考えると悶々としてしまう。今日はマノでの最終公演ということもあり、サクラの衣装がおおよそ隠せる部分のみ隠しただけの、表現もしたくないものだ。 「おやおやぁ、浮かない顔だネ!―――はい、ドーゾ!」  む、と唇を尖らせながら舞台を覗いていると、目の前に突如赤い薔薇が差し出された。ジラソーレは驚愕して目を見開きながら視線を滑らせると、白く肌を塗りたくったクラウン―――道化師・アルレノが薄っすら笑みを浮かべながら立っていた。 「ほら、受け取ってネ!」  こくりと頷きながら、恐る恐る眼前にある薔薇を受け取る。アルレノは満足したようにわざとらしく何度も頷いて「何か悩み事ネ!」と猪突猛進に配慮もなく言い放った。  ふるふる、とジラソーレは首を横に振って否定する。 「ふむふむ、じゃあサクラの衣装がエッチすぎて目のやり場に困るに一票ネ!」 『う ざ い』 「ワァ!随分と辛辣でアルレノ泣いちゃうネ!」  絡もうとしてくるアルレノをかわして、舞台裏の奥まったところに移動する。てくてくと、背後で道化師らしい歩き方をしながら彼もついてきた。非常に鬱陶しい。  ジラソーレがテントの隅に座り込むと、彼も隣り合わせで屈む―――どうやら彼の知的興味を満たさないと離してくれないらしい。彼の演目はもう暫く先だ。本当に鬱陶しい。 「それで、何かあった?」 『べ つ に』  職業柄、普段からアルレノは道化師としての口調を保っている。しかしふとした瞬間にそれが途切れ、素の口調に戻ることがある。このサーカス団の最古参のためか、何か団員に悩みがあれば喜んで首を突っ込む―――ジラソーレも何度かこの状態にさせてしまっていた。数えること、今回を含め六度目くらいだろうか。しかし彼はキャラクターも相まって思考が前向きすぎるため、相談するたびにみじめになるので三度目あたりで止めた。ダフネのように洞察力が優れてい

  • 向日葵の踊り子は喋れない   祝祭Ⅰ

     夜になると稽古の聞き慣れた雑踏が消えて、ありとあらゆる不透明な声がテント内に響く。  衣装に身を包んだジラソーレは舞台裏にある鏡で、何度も身だしなみをチェックした。深紅の生地の薄い、ひし形の服が腹と胸を覆い、首の後ろと背中の二箇所で固く結び留められている。背中を覆い隠す布はなく、寒い時期は地獄の衣装だ。晒された両腰を隠すように深紅の薄いレース生地が巻かれており、身体を動かす度にしゃらん、しゃらんと生地に縫い付けられた宝石が音を立てた。下半身は白くゆったりとしたパンツを履いている。  髪の毛を整えようと腕を上げると、二の腕と手首につけられた黄金色の腕輪がずれ落ちて鬱陶しい。衣装に合わせた赤い石のピアスもつけ忘れていない。  安心したように息を吐いて、深紅色のベールの両端を木の棒で巻き付けて縫い付けた―――ファンベールに似た小道具を手に取る。一つの布なので両端にある棒を重ねて片手で空中を揺蕩わせることも、両手に広げて舞うこともできるので、大変使い勝手が良い。ジラソーレはお気に入りの小道具を力強く握りしめて開演を待った。  暗がりから覗く客席の爛々とした明かりはいつまで経ってもジラソーレの胸を高鳴らせる。心地よい緊張感と高揚がたまらなく愛おしいと感じてしまうくらいに、この瞬間が大好きだ。『お集まりいただきましたお客様、本日はご来場いただき誠にありがとうございます。私、主催のメディチ・ユーリと申します。このサーカス団・フィエスタを設立して、幾度とこのマノの地で公演をさせていただきました。本日が今年の最終公演となります。どうぞごゆっくりお楽しみくださいませ。それではまず最初の演目は”世にも珍しい男踊り子”からご覧ください!』 メディチ侯爵の声の後、ゆっくりと豪華絢爛な音楽が奏でられる。生演奏だ。明るかったテント内も照明が薄暗くなり、本格的な開演を告げた。  ジラソーレは音楽に合わせて、舞台へと蝶のように飛び込んだ。途端、音楽が激しいものに変わる。まだ照明の熱が残っている床を踏みしめ舞台中央に移動しながら、手に持っていたベールで大きく円を描いた。  薄明りの中で輝く深紅のベールはまるで蝶の鮮やかな翅のようだ、と評されているらしい。ベールの中に入れ込まれた小粒のラメが、まるで蝶の鱗粉のようだと巷で言われている、らしい。  幾度となく形の違う円を描く。手で回し

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