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第5話

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拓真は、キッチンでエプロン姿のまま料理をしていた。まるで、私の知っている「あの拓真」とは別人のように、手際よく調理している。

私に気づいた彼が、眉をひそめた。

「……どうして帰ってきた?」

目が合った瞬間、私は視線をそらし、彼の横を無言ですり抜けた。そのとき、拓真の手からボウルが落ち、ガシャンッと派手な音を立てて割れた。

「荷物を取りに来ただけ」

私は冷たく言い放つ。

「玄関のパスワード、何に変えたの?」

拓真は何かを言いかけたが、その瞬間、芽依が現れた。彼の腕に絡みつき、猫なで声で言う。

「あの……ごめんなさい、一之瀬さん。パスワード、芽依の誕生日にしちゃったの。

拓真さんが、芽依が覚えやすいようにって……勝手に変えちゃって……

ほんとに、ごめんね」

涙を浮かべる彼女の頬に、拓真は優しく手を添えて言った。

「謝る必要なんてないよ、芽依ちゃん。

それに、梨乃、もう覚えておけ。この家の主人は、芽依ちゃんだ」

その言葉を聞いても、もう胸は張り裂けそうにはならなかった。ただ静かに、心の奥が冷えていくようだった。私は二階へと駆け上がった。

私の荷物はすべて客間に追いやられていて、部屋の中はひどく散らかっていた。拓真との唯一のツーショット写真のフォトフレームは粉々に割れていて、写真には何度も靴の跡がついていた。

私は涙をこらえながらそれを拾い上げて、一枚、一枚、静かにゴミ箱に捨てていった。

椎名拓真、もういらない。

荷物をまとめ終えたときには、夜がすっかり更けていた。廊下の奥からは、芽依の鈴のような笑い声が響いてくる。

私は眠れず、頭痛に耐えきれず、ついに安定剤を飲んでベッドに入った。

そのとき、突然布団をめくられ、無理やり起こされた。

「大変だ!芽依ちゃんが熱っぽくて、風邪かもしれない。

病院には行きたくないって言ってるし、今は俺のそばにいたいって……

だから、すぐ薬局行って、薬を買ってきてくれ!」

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