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第10話

Author: 清多納言
葉山は気まずそうに聞いた。

「この方は……」

私は修を一瞥し、堂々と言った。

「私の夫です」

「結婚されたんですか?」葉山は驚きと喜びに目を輝かせた。

私は頷き、少し世間話をして、彼女を先に上に行かせた。

私は修に向き直った。

「やっぱり先に帰ってて」

修が眉をひそめる。

「俺と一緒じゃ恥ずかしいか?」

この人、自分がどれだけハイスペックか分かってないの?

私は困ったように言った。

「違うわよ。あなたがここに立つと目立ちすぎるの。

私があなたに釣り合わないって言われるのが嫌なだけ」

「茜、そんな風に卑下するな。

三十過ぎてようやく嫁をもらえたんだ、俺のほうがよほど売れ残りだぞ」

私は思わず吹き出した。彼がこんな冗談を言うなんて、なんだか変わった気がする。

でも、悪くない変化だ。

結局、彼の頑固さに負け、車の中で待っていてもらうことで妥協した。

……

今日の社内はいつになく騒がしかった。一歩足を踏み入れると、噂話が聞こえてきた。

「ねえ聞いた?今日、社長の幼馴染が入社するらしいよ」

「最近茜さんが出社してなかったのは、席を空けるためだったのか?」

「そうそう、手がけたファッションショー、社長もわざわざ行ってたし。

もしかして、将来の社長夫人かもね」

「茜さんも哀れね。これで勝ち目なしだわ」

その時、若い社員の一人が私に気づき、目配せをした。

そして、皆、慌てて散り散りになり、自分の席に戻っていった。

「何コソコソしてんのよ。事実を言っただけでしょ、遠慮することないわ」

背後から白石鈴(しらいし すず)の嫌味な声がした。

言い返そうと振り返ると、彼女の後ろにもう一人の女性がいた。

美咲だ。

二人は両手いっぱいに紙袋を提げている。

美咲は勝ち誇った目で私を一瞥したが、すぐに無邪気でか弱い女を演じ始めた。

「私のせいで気まずくならないでくださいね。

これ、お詫びのお菓子です。皆さんで召し上がってください」

この差し入れ作戦で、彼女はまんまと株を上げた。

鈴がすかさずゴマをする。

「美咲さんって、美人で優しいね!」

「そうそう、どっかの誰かさんとは大違い」

「比べ物にならないわよね。どうりで社長も相手にしないわけだ」

見事な連携プレーだ。ちょっとした小細工で、私への敵意を煽るとは。

だが、私も
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