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幕間ー思い草ー3

Author: 砂原雑音
last update Last Updated: 2025-04-18 19:29:17

まあ、否定しない。

今までそうだったし。

「何ソレ。別にまだ付き合ってもいないんだし、スタイル変えることないじゃん。ばかばかし」

「いや、そうかもしんないけどさ。禊っていうの?」

なんとかどうにか綾ちゃんに近づきたいと思う。

だけど、あの子見てると今までの自分が情けなくなる。

綾ちゃんは、なんにでも一生懸命だ。

大学受験に失敗して、引きこもってしまった、と恥ずかしそうに話していたけれど。

同じように俺も失敗したけど、別にショックを受けるでもなく家庭環境も手伝って流されるように製菓の専門学校に入学した。

自分の意思だったかというと、よくわからない。

俺みたいにになんとなく生きていくよりも

彼女みたいに逐一額面通りに受け取って、逐一ショックを受けて悩む方がずっとしんどいに決まってる。

そんな綾ちゃんを見てると

俺もちょっとは、心を入れ替えるべきかな、と思っちゃったんだよ。

「だから、まずは色々と整理整頓しようかと思って」

「……あんたそれ。人を小馬鹿にしてるって気付いてる?」

さっきまではちょっと不機嫌な程度だった愛ちゃんが

急に怖い顔で睨んでくる。

別に馬鹿にしてるつもりはないんだけど。

「なんで? なんも変わらないまま綾ちゃんに言い寄る方が馬鹿にしてる気がしねえ?」

本気でわからなくてそう首を傾げると、愛ちゃんはますます怖い顔で溜息をついた。

「……それが馬鹿にしてるっての。わかんないなら一生そのままでいれば」

そう言って、ホテルに向かうことは諦めたのかバッグから煙草を取り出して火をつけた。

女向けのメンソールの煙草を、細い指に挟んで唇の隙間から煙を吐き出す。

しっくりくるその姿を見ながら、テーブルの端にある灰皿を差し出した。

「驚かないんだ。私アンタの前で吸ったことなかったでしょ」

「知ってたよ」

「えっ、なんで?」

「匂い」

正直にそう言うと、「げ」と嫌そうに顔を顰め、肩に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ仕草を見せる。

身体からっていうより、キスしたりするとやっぱりわかるんだよな。

俺が吸わないから。

でも。

「俺が煙草苦手だから、気を使ってくれてたんでしょ。知ってるよ」

愛ちゃんは少し目を見開くと、すぐにまた顔を顰めて目を逸らす。

だけどその頬はちょっと赤い。

「やっぱアンタ嫌い」

「ひでー」

「酷いのはどっちよ。まー……好きな女が出来たらそんなもんなのかもね」

「だか
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