เข้าสู่ระบบ僕は、当初の志望通り弧亜学園高校を受験することにした。
記念受験ってやつだ。
せめて筆記試験だけでも合格点を取りたい。
もしかしたら受験中にコアが何が起こすかもしれない。
そんな、コアの色より淡い期待を持って、受験会場に向かった。
親は、受験費がどうとか何も言わなかった。
家を出る時、お父さんは僕の肩を叩いて一言、「納得するまでやってこい」と言った。学校の先生みたいに、無駄なことを、とか、諦めろ、とかも言わなかった。
それが、本当に、嬉しかった。
◇ ◇ ◇ ◇
弧亜学園高校の受験会場は、当然ながらその学校。
時間にはかなり余裕をもって出てきたので、自分の淡いコアを見ながら、何か力は出ないかと、意識を集中して見たり、本能的に知っているはずなのに僕には分からない力の発動方法を考えたり、とにかく最後のあがきをしていた。
その時、背後から空を切る気配がした。
振り返ると、ものすごい勢いで飛んでくる……人間がいた。
コアの色と力の使いようによっては、空を飛べたり自動車より速く走れたりする。そう言う能力の持ち主は、コアの使い方、移動能力の安定、交通法規などを学んで、車道を地面または地面から二メートル以内の低空飛行で移動できる免許を持てる。
だけどあれ、どう見てもスピード違反だぞ。
車道の法定速度は五〇キロ。これは車も走者も飛行者も同じ。
あの飛行者は……ちょっと待て、自動車よりだいぶ早いぞ。警察がいたら捕まるんじゃ。
飛行者は歩道の横を歩く僕の横を飛びぬけて、急停止。いや、急停止もアウトなんじゃ。
そして、歩いて僕の所に近付いてきた。
そこで気付いたけど、相手も制服を着ている。見たことない制服だ。
「あの……何か用ですか」
「制服着てるってことは、この道歩いてるってことは、弧亜の受験生だな」
「はあ」
「俺は那佐中のスピードスター、
彼方なる中学生は胸を張った。
「今年の試験に合格するのはこの俺だ!」
「……それじゃ、どうも」
「待て待て待て」
面倒そうな相手だ、離れるに限ると道をそれて進もうとした僕の前に回り込んで、那佐中のスピードスターなる彼方壮は話しかけてきた。
「お前も弧亜受けるってことは、相当なコア主ってことだよな。色はなんだ? 俺は白に近い青! 文字通り風を切るってわけだ!」
「それはどうも」
更に進もうとすると更に妨害される。
「待て待て待て。俺は名乗ったしコアの色も教えたぞ。そっちも名乗るのが礼儀じゃないか」
いやそっちが勝手に教えたんだけど。僕、君の名前やコアの色なんて興味ないんだけど。
「ん? いや。いやいやいや。これは俺をライバルと認めての行動なのか? 俺にコアの色や能力がバレると受験でまずいことになる、から、俺のコアへの対策を練って黙っているだけなのでは? 安心しろ、俺は
それはそっちの勝手だけどさ。
「いいの? 君」
「もちろんだ、俺の力は誰にも邪魔できない! 俺には弱点なんてないんだからな!」
「いや、君」
僕は、相手の目を見て、きっぱりと、言った。
「無免許だろ」
その時、彼方壮の顔は強張った。
「車道移動免許は高校に入ってからじゃないと取れないだろ? 受験日に無免許の車道飛行がバレたらまずいんじゃないの?」
「貴様……俺を……脅すつもりか……?」
「そうじゃなくて。ちゃんと歩道を歩いて学校に行きなよ。無免許飛行は黙っておいてあげるからさ。あのスピードで警察に見つかったら、例え弧亜に合格したとしても取り消しになるよ?」
じゃあね、と僕は歩き出す。
その時。
後ろで、空気が動いたのが分かった。
「俺を……馬鹿に……したな!」
風が動いている。
空気は、あまりコアの色に関係なく操れる要素の一つ。周りにいくらでもあって、操りやすく、効果は絶大。
だけど、背後で動いている空気の量は多い。さすが弧亜を目指すだけのことはある。
って、悠長に考えてる場合か、僕?
後ろの受験生が風を操って何をしようとしているか、分かってるのに。
馬鹿にした(と勝手に思い込んだ)相手を、傷付ける為だって!
「弧亜まで送ってやるよ陰キャ! 空から降ってくるなんて面接官の心証もすごいだろうなあ?!」
「ちょっと待って、君、僕たちに姿が見えたこと話したりした?」「私たちは創造主には嘘はつけません……きちんと報告しました……わたしが途中で体力切れで落ちたことも、仁さんと今はいない瑞希さんに姿を見られたけどコア監視員には見つからなかったこと……創造主は私を調整した後言いました……失敗作だから消えろって……!」 顔を覆って泣き出した彼女をどうすればいいか分からず、しばらく泣き終わるまで待つ。 ひっく、ひっくと嗚咽に変わったから、少しは落ち着いたのかな。「わたし、どこにも行き場がないんです……優しくしてくれた人は、創造主の他には仁さんと瑞希さんしかいない……」「だからここへ?」 彼女はこくりと頷いた。「渡良瀬さんでもよかったんじゃ」「隠れられる場所が、瑞希さんにはありませんでした……」 そうか、コア監視員に存在を知られちゃいけないから。 ん?「隠れ場所って、何?」「一から説明します。わたしはコア生物です。でも、生まれた理由が分かりません」 何だそりゃ、といいたいのをぐっと飲み込んで、話を聞く。「コア監視員はコア主を対象として監視するけど、創造主は私に役割をくれませんでした……。ただ、毎日、コア調整を繰り返されるだけ……」 コア創造には詳しくないので、どんな調整をしたかを聞いても分からないだろうから、黙って頷く。「ある日、創造主は言いました。外へ出ておいでと。コア監視員や生徒には姿が見えないようになっているから、安心して出ておいでって。わたし、研究室の中で、外に出るのが憧れでした。だから、出たんです。外へ」「そしてはしゃぎすぎて中庭に落っこちた?」「はい……」 コア生物は悲し気に頷いた。「仁さんと瑞希さんのおかげで助かって、わたしは研究室に帰りれました……。創造主は喜んで出迎えて、わたしの調整をしながら笑顔で私の話を聞きました……それなのに」
変な名無しのコア監視員もどきと出会ってから、時は特に何事もなく過ぎ去った。 風紀委員会の言い伝えでは一年生が入って一ヶ月が勝負らしい。 受験とコア試験に合格する生徒の中には、お山の大将と呼ばれる連中がいる。彼方くんのように、中学校で勉強一番コアも強いという人が、弧亜学園でもそれが通用すると思って粋がる生徒がいる。 それをどうにかするには、上には上がいると思い知る必要がある。 一番手っ取り早いのが、風紀委員にやっつけられること。 だからこの時期は、新人風紀委員が走り回ることになる。 一年生はどれだけ強がっていても、本気のコア戦闘に不慣れ。コアの使い方や戦闘に長け、風紀委員に選ばれるだけの実力を持った二・三年生相手に勝ち目はない。ただし、ただ勝つんじゃなくて、鼻っ柱をへし折ってやるくらいの完勝をしなければならないのだとか。 彼方くんが長田先生や僕に完敗して、真面目に授業や追加授業を受けだしたように。 そう言う生徒は毎年二桁はいるらしく、戦闘能力的に経験の浅い新人風紀委員が新入生更生の為に働くというわけだ。 こうして一年生には、上級生は強く、努力しないと上に行けないということを学ぶのだという。 ……一年生委員の僕と渡良瀬さんは、一日目のMVCを取ってから、特に働くこともなかったけど、同級生は上級生に倒された風紀委員と同じレベルと思ってこっちを見るようになるので、校則違反の生徒を見つけることもなく、割と平和になった。 その嵐の一ヶ月が終わる直前、四月も終わりに近づいたある日。 男子寮の自室に入って来て、ドアを開けた途端、僕の心臓は跳ね上がった。 ドアを開いて自動で電気がついた部屋の中。 しくしくしく……しくしく……。 泣き声? ちょっと待て、この声、女の子だよな。ここ男子寮だよな、男子寮に女の子はいることはないんだよな。なのに女の子の声だよな。一体誰だ、まさか心霊現象とか……? どんどん怖い考えになっていくのを一度深呼吸して無理やり落ち着かせて、部屋の中をじっく
「そ。だから、黙っていよう。そもそもココたちにはあの子の姿は見えてなかったんだから、言う必要はないよ。今回は人助け……いや生物助けかな? をしたってことにして、黙っていよう」「そうね」 渡良瀬さんはスッキリしたように微笑んだ。 ヤバい。ラジオ体操で鍛えたはずなのにまた心拍数が上がる。 その時、ベルが鳴った。「まずっ、御影先生の所行かないと」「私も阿古屋先生の所!」「じゃあ、渡良瀬さん」「うん、二人の秘密ってことで!」 渡良瀬さんは僕の心拍数を上げる天才だ。 御影先生の担当室に向かっているところで、ココが姿を現した。「お二人の会話の時は席を外す、私ってはなんて気の利くコア監視員なんでしょうねー」「だから何でそうなるの」「私の顔をこれに設定しておいてー、今更何言うんですー? 丸岡さんは渡良瀬さんを好きだってこと、学園中のコア監視員が知ってますよー?」「だから言えないんだ」 ぼそっと僕は呟いた。「言えないことでもしたんですかー?」 言えないことは……ある。でも。「それは言えない。二人の秘密だから」 次の瞬間、キーンと鼓膜が震えた。 コア監視員の興奮した声は超音波になるらしい。「やっぱりやっぱりやっぱりー! 二人の秘密……なんて素敵な言葉ー! コア監視員でよかったー! はい分かりましたー。私は今後とも渡良瀬さんと会う時は姿も消して通信も切っておきますー! 二人の秘密のお邪魔はいたしませんからー!」 まだ鼓膜がキンキン言っている。 これであの名無しの子のことは誤魔化せた。 ……余計な面倒を背負いこんだ気はするけど。「コア生物の創り方?」 何となく興味を持ったので、御影先生に聞いて見た。
「い、いえいえいえいえ!」 名無しは小さな手をちたぱたと振った。「そこまでご迷惑はかけられません! お水もいただいたし、コア監視員から庇ってくれたし、訳アリなのを聞かないでくれて……。そこまでしたら、わたしが怒られます!」「大丈夫? ひとりで行ける?」「はい、瑞希さん」 こくんと名無しは頷いた。「何故落ちて来たかは聞かないけど、今度は気をつけなきゃ」「はい、ご忠告ありがとうございます、仁さん」 名無しは頷いた。 ふわりと半透明の羽が広がる。コア監視員の羽が蝶に近いのに対し、彼女の羽はトンボに近い。「創造主《クリエイター》の許可が降りましたら、後程お礼に参ります。この度は本当にありがとうございました」 立ち上がり、羽を限界いっぱいまで広げて、ロケット花火のように一瞬で上空まで行く。 そのまま、きらきらした輝きをまとった名無しは、光跡を残して中庭の切り取られたような四角い空から姿を消した。「何だったんだろうね」「何だったんだろ」 渡良瀬さんとの会話が僕のオウム返しが多いことになりがちだけど、それしか言葉が浮かばないんだからしょうがない。「……でも、一つだけ分かったことあるよ」「何?」 聞かれて、僕は首を竦めた。「あの名前のない子のことを、コア監視員には言っちゃいけないって」「そうね。すごく怯えてたし……。きっと何か事情があるんだわ」「第一コア監視員に見えないって言うんなら、コア監視員の創造主《クリエイター》がやって来て僕たちを調べ始める可能性だってある」 うん、と渡良瀬さんは頷いて、そして首を傾げた。「でも、あの子の創造主《クリエイター》が、コア監視員にも見えない設定にしたのにわたしたちには見えたって調べに来る可能性もなくない?」「あるよ」 僕は首を竦める。「でも、自我を持っていて、判断もできるコア監視員やあの子を創ったような創
ココや渡良瀬さんのコア監視員が消えた。 もし今掌の中にいる彼女がコア監視員なら、彼女たちが姿を消すはずがない。コア監視員が弱っているなんて知ったら、絶対全コア監視員に伝わり、会った事もないコア生物の創造主が駆けつけてくるだろうから。 でも、創造主どころかコア監視員すら現れない。「えーと」 僕は持ってたスポーツドリンクのペットボトルの上に彼女を座らせて、視線を合わせた。「君は、何者なんだい?」 だけど、コア監視員にしか見えないその生き物は、おどおどと僕と渡良瀬さんと交互に見るばかり。「ダメだよ、丸岡くん」 降ってきた声に顔をあげると、渡良瀬さんは首を横に振っていた。「名前を聞く時はこっちが最初に名乗らないと」 言って、僕の隣にしゃがんで謎の生物に視線を合わせた。「私は弧亜学園一年の渡良瀬瑞希。こっちは丸岡仁くんね。あなたのお名前はなんて言うの?」「ない、です」「ナイって名前?」「違います。名前は、ありません」 名無し? 確かにコア監視員は生まれた時には名前を与えられない。監視対象につけられて初めて名を名乗る。てことは……。「あなたはコア監視員なの?」「い、いいえ、違います。わたしは……」 怯えたように言って、辺りを見回す。「あなたがたには、わたしが、見えるんですか?」 僕と渡良瀬さんは顔を見合わせた。「君が空から落っこちてきたところから見えてた」「私は丸岡くんが見上げた先を見たら、見えたわ」「ど、どうして……誰にも見えないはずなのに……わたしはコア監視員にも感知されないようにしたって言われてるのに……どうして……」 小さな目に光るものが浮かぶ。「僕たちには見えたけど、コア監視員には見えてなかった……?」「そうね、あのお節介でおしゃべり好きで世話焼きのコア監視員が、こんな状況になってるのに出てこないわけ
「大丈夫?」 覗き込んでいる僕と渡良瀬さんに気付いて、小さな生き物はびくりと怯えた顔をした。「あ、なた、だれ? わたし……」「君は空をふらふら飛んで落ちてきたんだよ」「わたし、でも、そんな……」「何してるんですか?」 ココの声が聞こえた。 思わず僕は両掌で覆うように謎の生物を隠した。「ミャル? 今までどこ行ってたの?」 ミャルって言うのは確か渡良瀬さんのコア監視員の名前。二人そろって同時に戻ってきたんだろうか。 掌の中で小刻みに震える生き物を隠してココを見上げる。 もう一つおかしいことに気付いたのだ。「ココ、聞きたいんだけど」「何ですかー?」「コア監視員は離れていても僕のやってることとか把握してるんだよね」「その為のコア監視員ですからー」「なら」 何でこのコア生物らしき生き物がいるのに今の今まで出てこなかったの? それ聞こうか聞くまいか悩む僕の、貝のような掌に気付いたんだろう。ココはひらひらと飛んで行った。「何隠してるんですかー?」「あ、いや、これは」 ココはひらひらと飛んで僕の掌の中を覗き込む。「なーにーをかくしているのかなー?」 歌うように言って、僕の指の隙間から中を覗き込む。「何だ、何もないじゃないですかー」「???」 思わず渡良瀬さんと顔を見合わせた。「ミャル」 渡良瀬さんもコア監視員に声をかけている。渡良瀬さんの視線が空から僕の掌に移動し、何も感じないがコア監視員が覗き込んだらしい。渡良瀬さんに視線で問いかけると、渡良瀬さんは小さく頷いた。 恐らくは、渡良瀬さんのコア監視員にもこの掌の中身が見えていないんだ。「まー、でも、私はできたコア監視員ですからー。お二人でいる時は席を外させてもらいますよー。忙しい日常の幸福な一時をお邪魔しちゃいけませんからねー」「お、おい、