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第69話・コア体育

Auteur: 新矢識仁
last update Dernière mise à jour: 2025-11-22 20:41:59

 半分生徒を研究材料として使う研究者の集まりでもある弧亜学園も、一応は高校であって、ちゃんと一般授業もある。主に午前中だけで高校の授業をこなすので、かなり詰め込み式になるから、高校受験では詰め込み授業についてこれる学力の持ち主かどうかが問われると一先輩が言っていた。

 そして、一応体育もある。

 体育は一般授業の中でも数少ないコアを使える授業なので、コア体育とも呼ばれ、運動が苦手でも待ち遠しい生徒がいるくらいなんだ。

 体操着に着替えて体育館に行く。

 昨日の騒動が嘘のように体育館は綺麗になっている。多分天野先輩が空木先輩と仲直りしながら床の掃除をしたんだろう。濡れている様子はない。

 コア体育担当の先生が、一年生全員を整列させた。

「はい改めまして。体育担当の長田おさだ直治なおはるです。はい」

 何処かぬぼーっとした先生が、床に座っている生徒に頭を下げた。

「まず、体育ではコアの使用ができますが、それは勝手に使っていいという意味ではありません。はい、教師の監視の下、コアの安全な使い方を模索する。解放が担当教員授業であるのなら、この時間は制御を学びます、はい。制御できない生徒は、はい、授業について行けていない、はい、つまり補習や再試験が必要とみなしますので、はい、その点注意してください、はい」

 えらく「はい」の多い先生だな。

 これでコアの制御方法を学べるんだろうか。

 チラッと横を向くと、同級生たちの顔に浮かんでいる疑問の顔。

 みんなおんなじこと考えているんだろうな……。

「はい、では、まずは準備体操から……」

「ちょっと待てよ」

 ああ、また、彼方か。

「コア体育はコア能力を使える時間だって聞いたのに、何で制御なんかしなきゃならないんだ」

「はい、そう来ると思ってました」

 ぬぼーっとした、お風呂に入ったカピパラさんを連想させる顔で、先生は続けた。

「はい、ただコア能力を全力発動させるだけなら、誰にでもできます。はい。そんな·········

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