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第19話・謝る必要はない

Author: 新矢識仁
last update Last Updated: 2025-11-21 19:32:32

 ……に見えたけど、まだ終わってなかった。

 校門を出ようとすると、僕より背の低い人がいた。

「丸岡君」

「渡良瀬さん」

 どんぐり眼に涙をいっぱい溜めた渡良瀬さんが立っていた。

「……どうしたの?」

「ご、めん、ね」

 震える声で、彼女は謝った。……どうして?

「私が、吹っ飛ばされなきゃ、丸岡君、あの人、倒せてたのに。私、庇って、吹っ飛ばされちゃって。ごめん。あんなこと言ったのに。丸岡君が、落ちたら、私の、せいだ……。ごめん」

「ちょ、ちょっと、泣かないで」

 ハンカチで涙を拭う渡良瀬さんが泣いている理由が、正直分からない。

「もしかして」

 僕はあの時のことを思い出して、言った。

「僕が、空気のクッションで、君を空気圧から助けた時のこと?」

 渡良瀬さんはこくんと頷く。

「大丈夫だよ。僕は、十分に、いいことあったから」

「でも、合格に、手、届いて、たんだよ?」

「僕はいいんだ」

 渡良瀬さんの目の前に右手を突き出す。相変わらず淡いベージュの僕のコア。

「これの使い方が分かったから」

「そ、うだ。どんな、力、なの?」

「多分、コピー、かな」

「こぴ?」

「色が変わる」

 渡良瀬さんは涙の溜まった目で僕のコアを見る。

「どれくらいの距離かは分からないけど、傍にいる人のコアの色に変色する。そして、そのコア主と似たような技が使える」

「私のコアはマネできる? これ」

 渡良瀬さんは服の袖をまくり上げて、左ひじについた白みの強いピンク色のコアを差し出した。

 多分、できる。

 相手の能力を見なくても、色を認識していれば。

 この色に、変われ、変われ、変われ……。

 ゆっくりと、僕のコアが、白みを帯びてきた。

 切羽詰まっているわけじゃないから時間はかかったけど、僕のコアは渡良瀬さんと同じ色になった。

「……すごい

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