「同好会、ですか?」
「あたしたちで?」文化祭から一週間ほど経ったある日の放課後。
担任に話があるからと呼び出されたあたしと美智留ちゃんが職員室に向かうと、同好会を作ってみないかと提案された。
「ああ。文化祭の実演が思った以上に好評でな、各学年からまたやって欲しいという要望があったんだ。そんなことを言ってもメイクなどは校則違反になるしと渋ったらグローバル教育をウンザリと言った様子に、その対応をしたのも担任の先生だったんだろう。
「まあ、そう言うわけで放課後に活動するなら良いことにしようと職員会議で決まってな。お前たちが会長と副会長をやって同好会を作ってくれるならと各学年の希望者に伝えたところなんだ」
「それで、同好会ですか……」「ああ。いきなり部にするわけにもいかないし。愛好会からとも思ったんだが、顧問を名乗り出てくれる先生が何人かいたから同好会という形になった」
なんだか突然の話だったのでどうすればいいのか分からない。
返事を迷っていると、出来る限り早めに決めて音楽の先生に伝えて欲しいと言われた。
音楽の先生が顧問になるからと。
そうして二人で職員室を出ると、いつの間にか息を詰めていたみたいで二人そろって「はぁー」と深い息を吐いた。「……どうする?」最初にそう聞いて来たのは美智留ちゃん。
「どうしよっか」あたしはすぐに答えを出していいものかと思って曖昧に答える。
「話聞いて、どう思った?」次に美智留ちゃんは質問を変えてきたので、それには素直に答える。
「……純粋に嬉しかったよ。なんか、認めて貰えたって感じで」
「そうだよね!」
あ
「文化祭の時のを見て同好会にって言ったんだから、美と健康ってのも同好会の主旨に入るんだろう? それを考えれば男子が入ってもおかしくはないんじゃないかな?」「そうだよな。俺も部活あるから手伝えねぇけど、出来ることあったら協力するぜ?」 花田くんの言葉に同意して協力を名乗り出てくれる工藤くん。 彼はそのまま小林くんに目を向けた。「早和はどうすんの? 部活には入ってないけど」 少し考え込んでいた小林くんは、工藤くんの言葉に顔を上げて「俺は止めとく」と答えた。「俺は俺でやりたいこととかあるし。まあ、手伝ってほしいことがあれば手伝うから、遠慮なく言ってくれよ」 そう言ってあたしと美智留ちゃんを交互に見る。「で? その同好会って何同好会なんだ?」 小林くんの質問に、あたしと美智留ちゃんは眉を寄せて考え込んだ。「うーん。メイクアップ同好会は直接的すぎるからダメって言われたんだよね」「うん。あくまでも主旨は美と健康で、メイクアップはその延長上にあるって感じじゃないと許可出来ないからって」 あたしが言われたことを思い出しながら言うと、美智留ちゃんも言われたことを思い出しながら繰り返した。「英語だとヘルシー&ビューティー同好会? 何か語呂がイマイチ……」「でもそのままってのもなぁ……」 そんな風に悩むあたし達に、陸斗が「そのままでいいじゃん」と言った。「美と健康同好会。語呂は悪くねぇんじゃねぇか?」「そうだね。略してビケン同好会、ありそうな名前じゃないかな?」 陸斗と花田くんはそれでOKと……。 もう一人の会員予定のさくらちゃんに視線を移すと、ニッコリ笑顔で言われた。「美と健康同好会、略してビケン同好会で良いでしょう? こういうのはどれだけ悩んで
「同好会、ですか?」「あたしたちで?」 文化祭から一週間ほど経ったある日の放課後。 担任に話があるからと呼び出されたあたしと美智留ちゃんが職員室に向かうと、同好会を作ってみないかと提案された。「ああ。文化祭の実演が思った以上に好評でな、各学年からまたやって欲しいという要望があったんだ。そんなことを言ってもメイクなどは校則違反になるしと渋ったらグローバル教育を謳っている学校なのに硬すぎる。放課後くらいは良いじゃないかと保護者からも非難が殺到してな……」 ウンザリと言った様子に、その対応をしたのも担任の先生だったんだろう。「まあ、そう言うわけで放課後に活動するなら良いことにしようと職員会議で決まってな。お前たちが会長と副会長をやって同好会を作ってくれるならと各学年の希望者に伝えたところなんだ」「それで、同好会ですか……」「ああ。いきなり部にするわけにもいかないし。愛好会からとも思ったんだが、顧問を名乗り出てくれる先生が何人かいたから同好会という形になった」 なんだか突然の話だったのでどうすればいいのか分からない。 返事を迷っていると、出来る限り早めに決めて音楽の先生に伝えて欲しいと言われた。 音楽の先生が顧問になるからと。 そうして二人で職員室を出ると、いつの間にか息を詰めていたみたいで二人そろって「はぁー」と深い息を吐いた。「……どうする?」 最初にそう聞いて来たのは美智留ちゃん。 「どうしよっか」 あたしはすぐに答えを出していいものかと思って曖昧に答える。「話聞いて、どう思った?」 次に美智留ちゃんは質問を変えてきたので、それには素直に答える。「……純粋に嬉しかったよ。なんか、認めて貰えたって感じで」「そうだよね!」 あ
「皆無事に両想いなれたんだなぁ……。なあ田中、やっぱり俺達も付き合わねぇ?」 突然どうしたと言うのか。 そんな素振りもなかったのに付き合おうなどと言うとは。 工藤くん何かあったのかな?「付き合わないわよ。周りがカップルになったからって手近なところで付き合うとか止めてくれる?」 言われた美智留ちゃんは淡白だった。 素振りもないと思っていたけれど、やっぱり恋愛してるわけでもなかったみたい。 でも工藤くんは食い下がっていく。「でも杉沢さんからお前守んなきゃねーし!」 ん?「だから守らなくていいって言ってるでしょうが」 んん?「えっと、どうしてそこで杉沢さんが出て来るの?」 話が見えなくて説明を求めた。 二人の話によると、あたしと陸斗から離すために連れて行った先で杉沢さんが美智留ちゃんに付き合おうかと言ったらしい。 また何でそんなことになったのか……。 杉沢さん、あたしを追っかけてきたんじゃなかったっけ? いやまあ、諦めてくれるならそれに越したことは無いんだけれど……。「でもあれは本気で言ったわけじゃないって。灯里がダメだった時の保険みたいなもので、キープしとくかって感じの軽い気持ちだったよ」「だから、その後に本気になってたんだって。田中、将来の事聞かれたとき美容師になるって決意したとか言ってただろ? あの時杉沢さん鋭い目ぇして獲物を狙うような顔でお前見てたんだって!」 それは……身に覚えがあるので、きっと工藤くんの言っているのは間違っていない。 杉沢さんが何を思って美智留ちゃんに本気になったのかは分からないけれど。 でも工藤くんの話を美智留ちゃんは本気にしていないのか、「はいはい」とどうで
「お疲れさん」 そう言って教室に入って来たのは制服に着替え終えた陸斗だ。 その後からは美智留ちゃん以外のいつもの仲間が入ってくる。 美智留ちゃんはあたしと一緒に教室で撃沈していた。 あたしのメイクも次から次へって感じだったけれど、美智留ちゃんのヘアセットも止めどなかった。 まさに目が回る忙しさ。 そうして疲れ果てたあたし達は体育館で行われている後夜祭も参加せず、教室で休ませてもらっていた。「皆は後夜祭楽しまなくていいの?」「あたし達に気を使わなくてもいいんだよ?」 あたしと美智留ちゃんがそう言ったけれど、皆は首を横に振る。「気にすんなって、今はこの仲間うちで一緒にいたいんだよ」 という工藤くんの言葉に皆今度は頷いた。 人数分のジュースが用意されて、代表で工藤くんが音頭を取る。「えーっと、皆お疲れ様。田中が言い出した実演も好評で、無事文化祭が終わって良かった。成功を祝って、乾杯しよう!」『カンパーイ』 揃ってジュースを掲げ、一気にゴクゴクと飲む。 ぷはぁ! と息を吐き出すと、昨日と今日の文化祭の話で花が咲く。 離れた体育館の方から聞こえる盛り上がっている声をBGMに、初めは無難な話題が上がっていた。 どの出し物が良かっただとか、二年の喫茶店メニューが無難すぎるだとか。 そこから徐々に個人の話になっていく。「で? 結局お前ら付き合ったの?」 花田くんにそうぶっちゃけて聞いたのは工藤くんだった。「はは、ド直球で来たな」 困ったように笑った花田くんは、それでも答えをはぐらかすことはしなかった。 隣のさくらちゃんの肩を抱き、ハッキリと言う。「俺達付き合うことになったから、よろしく」「あ、あたしからも、よろしく」 さくらちゃん
「わぁ……結構凄いね」「ああ、配置とかも考えてるんだろうな。見栄えがいい」 感想を言い合いながら進んで行くと、休めるようにだろうか、いくつかベンチが置いてあった。 座って藍染の布を見ている人もいれば、あたし達と同じようにお弁当を持って来て食べている人もいる。 その中の空いているベンチに座ると、陸斗は持って来た保冷バッグから色々取り出した。 飲み物は自販機で買ったお茶。 他にはフルーツの詰め合わせとサンドイッチだ。 サンドイッチはトマトやレタスも入っていてバランスが取れている。 いつも菓子パンか総菜パンの陸斗にしては良いチョイスだった。「わぁ、美味しそうだね」「そうか? まあ、ちゃんと練習もしたし味は問題ねぇと思うけど……」「……え?」 今の陸斗の言い方って……。 まるで、自分で作ったかのような……。「お前いつも野菜取れって言うし、出来る限り野菜も入れてみたけど……どうだ?」 マジで、自分で作ったらしい。 あたしは信じられなくて目を見開き口を開け陸斗を凝視した。「……作った、の? 陸斗が……?」 そう確認せずにはいられなかった。「まあな、お前ほど上手くは出来ねぇけど」「!!」 本当に、本当に陸斗が作ったのか! 未だに普段のお昼はパンにコーヒー牛乳で、あたしは毎日軽食を用意しているってのに。 なのにそんな陸斗がバランスを考えた上に自分で作った!? 天と地がひっくり返る様な衝撃だった。「……そこまで驚くか?」 そりゃ驚くよ!! 内心では思いっきり叫んでいたけれど言葉には出来なかった。 驚きすぎて……。「どうして、突然作
文化祭、当日。「おお、なかなか盛況だね?」 丁度二人目のメイクを終えて次の準備をしていたころ、杉沢さんが教室に入って来た。 本当に来たんだ……。 杉沢さんはそのままあたしの方へ近付いて来たけれど、他のクラスの子に止められる。「あ、すみません。メイク希望者は整理券を貰ってください」「灯里ちゃんとは知り合いなんだよ。お話できないのかな?」 猫を被った笑顔で杉沢さんはそう言ったけれど、その要望は容赦なく却下された。「すみません。倉木さんメイクの予約いっぱいで、お昼の休憩時間とかにしてもらっていいですか?」「そっか……じゃあ美智留ちゃんは――」「すみません。田中さんも予約いっぱいで……。彼女もお昼休憩の時にしてください」 あたしが無理だからと美智留ちゃんのところに行こうとした杉沢さんだったけれど、美智留ちゃんのヘアセットも始まりから人気があって手を止める暇がない。 人によっては数分で済むこともあるヘアセットだけれど、やって欲しいって人が絶えないからあたしより人数を捌いていると思う。 撃沈した杉沢さんはメイクとヘアセット両方の整理券を貰うと、陸斗の存在に気付いてそちらへと近付いて行った。「日高、お前その格好何?」 ニヤニヤ笑っているところを見るとからかう気満々みたいだ。「うっせ。他のとこでも回ってろ」「いやぁ、俺の目的はここのクラスだけだしさ。それにしても似合ってるな、そのコスプレ」 からかいつつも関心していた。 陸斗のコスプレは夏休みのものから更にクオリティが上がったので、結構見ごたえもある。 佐藤さんが発狂しかねない勢いで喜んで作ってたからね……。「じゃあ俺の宣伝の外回りについて来いよ。案内してやる」 ムスッとした表情のまま陸斗がそんな珍しいことを言う。