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last update publish date: 2025-12-02 18:34:59

『グゥゥゥゥ――……』

 その時。緊迫した空気を切り裂くように、間の抜けた音が鳴り響いた。それは、アイドルの尊厳に関わる盛大なお腹の虫の音だった。

「……ッ」

 レンくんが、カッと顔を赤くして腹を押さえる。

 あ、可愛い。いや、そんなことを思っている場合じゃない。空腹だ。それも、極限状態の。

 何か食べさせないと。でも、冷蔵庫の中身は空っぽに近い。あるのは、さっき買ってきたアレだけだ。

 私は手に持ったままだったビニール袋から、コンビニ弁当を取り出した。黄色い値引きシールが、蛍光灯の下で恥ずかしげに主張している。

(こんな添加物まみれの茶色い弁当、国宝の体に入れていいわけがない!)

 ファンの良心が叫ぶ。彼は霞を食べて生きているはずなのだ。あるいは、オーガニックの野菜とか、高級なフルーツとか。少なくとも、揚げ物メインの30%引き弁当ではない。

 でも今すぐにカロリーを摂取させないと、彼は倒れるかもしれない。背に腹は代えられない。

「……あの、これ。冷えてますけど、お口に合うか分かりませんが……」

 恐る恐る、弁当を差し出す。

 彼は弁当を一瞥した。そして汚物を見るような目で顔をしかめ、口元を手で覆った。吐き気を堪えるような仕草だ。

「いらない」

「えっ」

「……そんな不味そうなもの、食えるか」

 吐き捨てるような言葉。私は弁当を引っ込めた。怒りはない。むしろ、深い安堵のため息が出た。

(ですよね! 知ってました! レン様が割引弁当なんて食べるわけない!)

 彼がこの弁当をガツガツ食べていたら、それはそれで解釈違いでショック死していたかもしれない。彼の高貴な味覚が正常に働いていることに、謎の感動すら覚える。同時に、私の内なる「オカン」が腕まくりをした。

「不味そうなものをお出しして、すみませんでした!」

 私は勢いよく頭を下げる。

「すぐに、温かくて消化にいいものを作りますから! ちょっと待っててください!」

「は? いや、いらな……」

 彼の拒否を聞き流し、私はキッチンへ走った。もっとマシなものを献上せねばならない。これは、神への供物作りだ。

 私はキッチンに立った。狭い一口コンロのキッチンだが、ここは私の城だ。

 エプロンをつける時間も惜しい。

(まずはお米。炊きたての御飯は、日本人の心のふるさとだもの)

 米を研ぐ。シャカシャカというリズミカルな音が、焦る心を鎮めてくれた。

 炊飯器にセットする。少量だからすぐに炊けるだろう。

 冷蔵庫には、卵と長ネギ、少しの鶏肉があった。よし、これならいける。雑炊だ。弱った胃腸には、これが一番である。

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