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第 477 話

Author: 一笠
次の瞬間、ドアが開き、凛は聖天に向かって微笑んだ。「あなたもお腹空いたのですか?」

「行こう」

聖天が先に立ち、凛はドアを閉めて後を追った。

小さな町は、半分が田畑、半分が生活区域で、小川が町の中を曲がりくねって流れ、両岸の木々が夕風にさらさらと音を立てていた。

湿った冷たい空気が草木の香りと混ざり合い、ひときわ爽やかだ。

都会で長い間生活していると、突然穏やかで静かな環境に入ると、気持ちも落ち着き、まるで、温かい湯に浸かるように、体の奥底からじんわりと解き放たれていくようだった。

凛は両手を上げて伸びをした。「この仕事、まるで休暇みたいで、すごく快適ですね」

聖天は彼女を横目で見て、「気に入
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