Mag-log in朔はバスタオル一枚だけを身に纏い、ベッドの端に腰掛けていた。上半身はびっしりと刺青で覆われ、元の肌がほとんど見えない。ただ、血の気がなく、青白い両手だけがその対比でやけに目立つ。こんなにも白く美しい手で、一体どれだけの血と汚れた金に触れてきたのだろう。梓はふと、ある女の子が言っていた言葉を思い出した。「綾辻さんの、あの骨ばっている手に血が付いた時、なんだかすごくゾクゾクするんだよね」その後、その女の子は姿を消したのだが。それからというもの、梓は時々、考えてしまう。あの子は朔の手で殺されるときも、同じことを思っていたのだろうか、と。そんな嫌な考えが頭をよぎった瞬間、梓は居心地が悪くなり
話し合いは2時間にも及んだが、聖天は結局誰の案が良いのかということは決めなかった。まるでわざと焦らしているように。一同は店の前で、聖天の車が夜の闇に消えていくのを見送った。悠斗は思わず呟いた。「俺たちの中で一番最後に結婚するのが聖天だと思ってたのに......そんなあいつが、まさかプロポーズするなんてな!」「お前さ、もう子どもが小学生になっててもおかしくない歳だろ?」明彦が何気なく言う。「明彦さんの言う通りだよ。悠斗さんはいつも口だけなんだから。俺が思うに、一番最後に結婚するのは悠斗さんだろうね!」輝も同意した。「もう遅いから、俺は先に帰るよ」礼はそう言うと、足早に立ち去った。礼
「『Q』組織は企業を合併した後、ネット上の架空口座を使ってマネーロンダリングをして、最終的にすべて綾辻の懐に入れていることが分かった。あいつの最初のターゲットは夏目家だった。海外へ資金を逃がしやすくするために、夏目家の海外貿易事業に目をつけたんだ」明彦は背筋が凍る思いがした。朔の行動はすべて緻密に計算されていたうえに、まさか最終目的が巨大な霧島グループだったとは。今思えば、朔が現れてから起こったすべての出来事は、まるで何者かに操られているようだった。まさか......これら全てが朔の描いた一つの計画だったとは。「とんでもない奴だな......」明彦は独りそう呟きながら椅子へと座り直
この瞬間、先日までの疑念がすべて、鋭い棘となって修平の胸に突き刺さる。恒夫は、ずっと自分を思ってくれていた誰よりも近しい兄だった。なのに、どうして自分は聖天に告げ口のような真似をしてしまったんだろう。本当にどうかしていた。女たちの言葉を真に受けたせいで、あんな馬鹿げたことをしてしまった。罪悪感と後悔に押しつぶされそうになり、修平は自分の犯した過ちを償おうと必死だった。恒夫に協力すれば、誠也を捕まえられるのも時間の問題だ。「兄さん、契約書は隅々まで目を通したよ。何も問題ない」修平は即決した。「明日サインして、兄さんの事務室に持っていくよ」「急がなくていい......」「兄さんの
修平は彩佳と渚を階段の方へ押しやりながら言った。「兄さんとちょっと話があるから。あとですぐに戻る」二人の後ろ姿を見送った後、修平は一人掛けソファに座ると、恒夫に申し訳なさそうに言った。「兄さん、まさか彩佳が聖天たちと食事に行くとは思わなかったんだ......」「言い訳はいい」恒夫は笑みを浮かべたが、その目は笑っていなかった。「誠也の件で渚は、聖天たちに随分と助けれたんだ。だから、母娘二人が、そろって彼に肩入れするのも分からなくもない。女ってやつは、ちょっとした親切でコロッと騙されるもんだからな」この言葉を聞いて、修平は背筋を凍らせた。決して言葉数は多くはなかったが、この数秒の言葉に
30分後、聖天が個室に帰ってくると、それに続いて修平も戻ってきた。聖天は相変わらずのポーカーフェイスで、自然に凛の隣に座る。一方、修平はなんだか心ここに在らずという様子で、彩佳の隣に戻ると、グラスに手を伸ばした。しかし、彩佳に手を叩かれる。「私のグラスよ」「ああ」そう言われ、修平は自分のグラスに持ち替え、口に運ぶ。しかし、中身は水に入れ替えられていたらしく、なんの味もしなかった。「渚がもう飲むなって」彩佳はクスリと笑った。「やっぱりうちの娘は優しいわね。あなたが外に出てから長い間戻ってこなかったから、吐いてるんじゃないかって心配してたのよ」「俺は......」修平は言葉を詰まら