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第 653 話

Author: 一笠
「せっかく機嫌が良いのに、あんな疫病神の話はやめて」凛は顔を上げずに答えた。

志穂は口をつぐんだ。それもそうだ。最近、煌の評判はガタ落ちだ。凛もかつて彼にひどい目に遭わされている。今は彼に関する情報は一切聞きたくないだろう。

だけど......

志穂は困ったように眉をひそめた。この雑誌への最大の投資家は、他でもない煌なのだ。けれど、どう切り出せばいいのか、今の志穂は分からなくなってしまった。

30分後、凛は資料を読み終え、傍らのアイスコーヒーを一気に飲み干した。

「創刊号の効果は、当初の予想をはるかに上回ったね。第二号は柳さんが撮影するんだし、きっとさらに良くなる。いい知らせを待ってる」

「も
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