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45.再会への希望

last update Dernière mise à jour: 2025-11-09 21:33:48

美月side

世羅は、世界は世界でも、圧倒的な知性と家柄で異世界に住んでいそうなくらいに住む世界が違う人間だった。だけど、そんな人と偶然が重なって短期間で三回も会えたこと、そして会うたびに私に立ち向かう勇気と希望をくれたこと。世羅との出逢いを単なる偶然だとは思えなかった。

世羅は、私の人生を動かすきっかけをくれた大きな原動力だった。そして、陸との関係を断ち切り、仕事でも成功を収めた今、もう一度、世羅に会いたくて仕方がなかった。

例え世羅が、私と陸と三人のやり取りを覚えていなかったとしても、あの日私を助けようとしてくれたのに、世羅の優しさを振り払った理由を伝えたかった。その上で、「あなたのおかげで立ち向かう勇気をもらって、私は自由になりました」と報告したかった。

今の自由と、会社の成功は、世羅との出逢いがあってこそだった。

ビールを勢いよく飲んでほろ酔いになった私は、涼真との別れを受け止めるため涙を必死にこらえるために、顔をギュッと中央に寄せて怒っているような顔をしながら、必死で世羅のことをネットで探し始めた。

「柳グループ、大阪のベンチャー企業と大学開発チームと提携」

一番上に表示されたのは、三日前に更新されたばかりの業務提携のネット記事だった。記事によると、大学の研究室内で柳グループの研究チームと大阪のベンチャー企業の開発担当が共同で新薬の開発を行うというものだった。

今月

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    美月side「お忙しいところ、折り返しありがとうございます」「いえ、久しぶりですね。お元気でしたか?」世羅の気遣いを感じさせる穏やかな声が、耳に優しく響く。「はい、おかげさまで――――実は、今日、父の会社を退職したんです。これからは独立して自分でやっていこうと思いまして」「それはすごい。大きな決断をされたのですね。健闘を祈っています。ということは、もしかして、この電話も使えなくなるのですか?」「え……?いえ、個人も会社も同じ番号でやっていたので大丈夫です」「良かった。それなら私から連絡した時も繋がるんですね」この場だけの社交辞令かもしれない。それでも、『私から連絡した時』という言葉に期待を持たずにはいられなかった。「はい、大丈夫です。連絡いただけるのを楽しみに待っています。柳さんはお変わりないですか?」「ええ、私は今も大阪で、研究漬けの毎日です。そうだ、年末に名古屋に行くことになりそうなんです。どこか都合がつく日があったら会いませんか?」「はい、是非。是非

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