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第2話

Author: 七海
朝香は、雅文とその「家族」が車に乗って去っていくのを見送った。彼女はもう我慢できず、その場で泣いてしまった。

どれくらい泣いていたのか分からないその時、スマホの着信音が再び鳴り響き、パートナーの白坂椿(しらさか つばき)からの興奮した声が飛び込んできた。

「朝香!あなたのデザインしたウェディングドレス、パリのコンテストで受賞したのよ!!しかもGNブランドから超高額オファーが来てる!契約期間は三年、もしOKなら、一週間後には出発できるって!」

朝香は深く息を吸い込み、誰もいない保育園の門をじっと見つめながら静かに答えた。

「行くわ。でも、ひとつだけ条件があるの」

「条件?なに?」

「国内での身分を全部抹消して、新しい身分でGNに入社する。宮下朝香って人間は……これから、死んだことにするの」

電話を切った朝香は車に戻ったが、途中でエンジントラブルに遭って、しかも運の悪いことに大雨まで降ってきた。

ずぶ濡れで歩いて自宅にたどり着いた彼女は、そのまま高熱で倒れた。

うつろな意識の中、朝香は七年前、雅文が自分に告白したことを思い出した。

あの頃の雅文は完璧で、まるで学校の王子様のようで、誰もが振り向く存在だった。

一方の朝香は、就学支援金でなんとか通う貧乏な学生だった。成績と顔だけが取り柄だった。

雅文が長い間で彼女を追い求めていたが、自分と彼の格差が怖くて、朝香はなかなか受け入れられなかった。

だが、大学四年のとき、サークルの集まりに交通事故に遭い、車が横転したその瞬間、雅文は朝香をかばって自分の体で守ってくれた。彼は足を一本失うような大怪我だったが、朝香は無傷だった。

朝香は驚きながら感動して、泣いて言った。「無事でいてくれるなら、私、彼女になるから……」

彼は笑いながら手術室へ運ばれていった。目を覚ました途端、彼は朝香に聞いた。

「その約束、守ってくれるんだよな?」

朝香はもう我慢できず、彼に抱きついて泣いた。

その後、三年の恋愛を経て、二人は結婚した。だが二人の婚姻は田中家の猛反対を受けた。

結婚した時、彼は父親に殴られて全身血まみれになりながらも、無理やり戸籍謄本を取ってきて、二人はようやく夫婦になった。

結婚後、田中家は朝香に対して、あらゆることで難癖をつけてきた。田中家の本家に帰省するたび、朝香は理不尽な扱いを受け、傷つけられた。彼女がなかなか妊娠できないことが理由で、彼の両親からもあからさまに疎まれるようになった。

そんな時、朝香はこっそり泣いた。でも、雅文が言ってくれた言葉を思い出すたび、心の痛みはすっと消えていった。

「なあ、俺たちの子、絶対めちゃくちゃ可愛いぞ?」

あのキラキラした目で言われたら、もう何も言えなかった。

雅文は、命を懸けて自分を守ってくれた。そんな彼のために、体外受精くらいで辛いなんて、なんでもなかった。

この婚姻を続ける理由はただひとつ。それは、雅文の愛だった。だがその愛は、すでに別の形に変わってしまっていた。

「朝香?体、すごく熱いじゃないか!早く、病院に連れて行くぞ!」

意識が朦朧とする中、朝香は自分が彼の腕の中に抱きしめられているのを感じた。まるで、彼女を失いたくないかのように。

朝の六時、朝香の高熱はまだ下がらなかった。

雅文はついに感情を爆発させ、担当医の襟を掴んだ。

「どうして朝香の熱が下がらないんだ?本当にちゃんと治療してるのか?

もし朝香に何かあったら、お前、医者やめろ!」

担当医は冷や汗をかきながら、「雨に濡れすぎたため熱が引きにくいです」と説明した。

「言い訳はもういい!」

雅文はイラつきながらスマホを取り出し、アシスタントに連絡を入れた。

「市内で一番の医大教授、今すぐ連れてこい!」

言い終わる前に、朝香がゆっくりと目を開いた。

それを見て、雅文は慌てて駆け寄った。

「朝香!大丈夫か?少しは良くなった?本当に怖かったんだ……」

彼の目には、隠しきれないほどの心配と恐怖が浮かんでいた。それは、本当に彼女を愛している証拠だった。

彼が朝香のためにどれほど愛しているか、想像もできないほどだった。もし朝香に何かあったら、彼は一体どうなってしまうのだろう。

でも、こんなにも愛している彼が、その愛を二つに分けて、その一つを奈々に与えているのではないか?

奈々の前でも、彼は同じように心配して、同じように焦って、失うのが怖かったのではないか?

「大丈夫だよ」

「そんな強がりを言うな!」

雅文はしっかりと朝香を見つめ、彼女の頭を優しく撫でた。その愛おしむ表情は、まるで付き合い始めたばかりの頃と同じようだった。

「これからは、どこにいても一人で帰らないで。どんな時でも必ず電話して、俺が迎えに行くから!君を失うなんて、絶対に耐えられない」

朝香はじっと彼を見つめた後、静かに答えた。

「うん」
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