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第4話

Author: ベリーラディッシュ
スーパーの袋を提げた小夜花が、悪びれもなく入ってきた。

その手には、我が家の合鍵が握られている。

リビングにいる私を見ると、小夜花は明らかに動きを止めた。

その目には驚きの色が浮かんでおり、私がここにいるとは微塵も思っていなかったようだ。

水輝の顔がサッと強張り、後ろめたそうに私をチラリと見たあと、慌てて言い訳を並べ立て始めた。

「昨日は俺が結音の車を借っぱなしにしてたからさ!車を返すついでに、結音には家でちょっと待っててもらってたんだ」

小夜花は私に柔らかな笑みを向けると、いかにも「この家の女主人」といった態度で口を開いた。

「昨日は水輝にあなたの車で病院まで送ってもらって、本当に助かったわ。お礼を言わなきゃって思ってたのよ。

一晩中看病してもらったから、お礼に得意料理を作ってあげようと思って来たの。ちょうどよかったわ、結音も一緒に食べていかない?」

水輝の苦しい言い訳と、優しげな口調の裏に優越感を滲ませる小夜花の態度が、神経をひどく逆撫でする。

私が眉をひそめて口を開こうとした瞬間、水輝が慌てたように私に向けて目配せをした。

それと同時に、着信音が室内に響いた。小夜花のスマホからだ。画面には同級生の名前が表示されている。

電話に出ると、相手のやたらと大きな声が漏れ聞こえてきた。冷やかしと興奮に満ちている。

「俺、昨日の同窓会行けなかったのに、お前ら二人してとんでもないサプライズかましてくれたじゃん!

今や小夜花も仕事バリバリこなしてるし、水輝と肩並べるレベルだろ? 学生時代よりさらにお似合いのカップルじゃん!

長年の想いがとうとう実ったんだ、これからは末長くお幸せにな!」

小夜花は笑って否定しながらも、あろうことかスピーカー通話に切り替えた。

私の心は急速に冷え込み、顔から血の気が引いていくのが自分でもわかった。

水輝は慌てて声を上げ、話題を逸らしにかかる。

「お前、単に昨日の俺の奢り飯を食いっぱぐれたのを根に持ってるだけだろ。今度個人的に奢ってやるから」

そうやって電話口で軽口を叩きながら、手元のスマホでは私を宥めるためのメッセージを打っていた。

【結音、変に勘繰るなよ。あいつはまだ体調が戻ってないから、本当の事情を説明するタイミングがなかっただけだ】

【もう少し待ってくれ。俺たちが結婚式を挙げれば、みんなの誤解も全部解けるから】

私は無表情のまま、短く返信した。

【どうだか】

直後、水輝から立て続けにメッセージが送られてきた。「聞き分けのいい子でいてくれ」「我慢してくれ」「癇癪を起こすな」。そして「今まで約束したことは全部必ず叶えるから」と。

私は冷めた目で画面を見つめ、一切の未練もなくトーク画面を閉じた。もう一文字たりとも読む気になれない。

無視されたことに焦ったのか、水輝が私に近づこうと二歩ほど足を踏み出した。

すると、キッチンに立つ小夜花が笑いながら茶々を入れる。

「ダメよ水輝。私も結音も同じお客さんなんだから、あの子だけ特別扱いはなし。それよりお塩どこ? ちょっと手伝って」

その声を聞いた瞬間、水輝は頭で考えるよりも先に体が反応し、そそくさとキッチンの小夜花の元へ向かってしまった。

しばらくして、小夜花が私を手招きした。

「結音、できたわよ。私の手料理、味見してみて」

そして彼女は振り向き、私の車のキーを差し出してきた。

「はい、車のキー。あなたのおかげで本当に助かったわ。貸してくれてありがとうね」

私は無言でキーを受け取った。テーブルに並べられた手料理を見ると、ただただ吐き気がこみ上げてくる。

「結音、もう暗くなるし、食べ終わったら早くお家に帰ったほうがいいわよ」

小夜花の言葉に、水輝の体がピクッと強張った。だがすぐに、彼女に話を合わせるように私に探りを入れてくる。

「帰り、気をつけてな。家まで遠いんだろ?」

その言葉の端々から、私に早くこの場から消えてほしいという焦りが透けて見えた。

目の前でまるで新婚夫婦のように息の合った二人を見つめながら、私は心の中で自嘲する。

自分の家なのに、本当の妻である私の居場所なんて、ここにはもう微塵も残されていないのだ。

私は車のキーを握りしめ、淡々とした声で告げた。

「私、他に用事があるから食べていかないわ。二人でゆっくり楽しんで」

彼らの白々しい引き留めの言葉など聞く耳を持たず、私はそのまま真っ直ぐ玄関へ向かい、家を出た。

SNSのタイムラインには、まだ同級生たちの書き込みが溢れていた。

そのうちの一人が、【お前らが結婚する時は、絶対に一番に教えろよな!】と冷やかしのコメントを入れている。

それに対して、先ほど水輝のアカウントから返信があった。

【当たり前だろ。真っ先にお前に報告してやるよ】

私はためらうことなく、そのコメントに『いいね』を押した。

車のエンジンをかけて立ち去ろうとした瞬間、水輝が急に車のそばへやってきた。少し慌てたような声を出している。

「結音、違うんだ。今のコメントは小夜花が勝手に俺のスマホを使って返しただけで、俺の意思じゃない。

怒らないでくれよ。指輪だってちゃんと選び終わってるんだ。この馬鹿騒ぎが完全に落ち着いたら、俺たち……」

「もういいわ」

私は冷たい声で言葉を遮った。

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