Se connecter扉をくぐると視界が一気に明るくなった。
そこは昨日現実へ帰還したのと同じ場所だった。
黎慈(れいじ)と景佑(けいすけ)は目配せを交わした。
ふと空を見ると、少し遠くに明らかに異彩を放っている空気がある。
そこまで離れてはいないはずだ。
おそらく、あれが夢の核とやらなのだろう。
二人はそれを目指して歩き始めた。
黎慈(れいじ)が後衛で周りを見渡す。
景佑(けいすけ)が前衛で前方の安全を確認する。
少し歩いた頃だろうか。
突然、先に進んでいる景佑(けいすけ)が何かに気づいた様子で黎慈(れいじ)を呼んだ。
指差す先には、この世界の風景とは明らかに異なる巨大な建造物があった。
遠くからでもその威容がわかるほど大きく、まるでRPGに登場する魔王城のような禍々しいシルエットをしている。
「あれが……夢の核か」
二人は
空き教室に着くと、衣百合の他に小柄な女子生徒が座っていた。一年生くらいだろうか。黎慈が入っていくと、衣百合がすぐに声をかけてきた。「お! 結構早かったね」「さっさと抜けてきたからね」「で、話ってのは?」「あと、そちらの方は?」衣百合は立ち上がり、小柄な女子を紹介した。「この子は一年生の子」「名前はちょっと伏せるんだけど、何やら『夢』について知っているらしくてね」「それで、私に放課後連絡くれたんだ」女子生徒が緊張した様子で頭を下げた。「は、初めまして、黎慈さん」「先ほど、衣百合さんから説明はもらいました。転校生の方なんですよね?」「ちゃんと説明してもらえたみたいだね」「そうだよ、今年からこの街に来た枝先黎慈です」黎慈は軽く会釈をして、用意されていた椅子に座った。衣百合も座り、真剣な表情になった。「じゃあ、早速本題に」女子生徒が少し震える声で話し始めた。「昨日、夢を見たんです」「今、目の前にいる黎慈さんと衣百合さんが出てくる夢を」「……!」黎慈が息を呑むと、衣百合が落ち着いた声で一般論を挟んだ。「そう、一般的に夢には自分が会ったことがある」「見たことがある人が出てくると言われている」「私は生徒会とかで見るかもしれないけど、黎慈くんは違うよね」一度も見たことない人が夢に出てくるのは変な話だ。『もしかしたら一度会っているのかも…?』と思って黎慈は記憶を巡らした。だが、見た記憶はない。「でも、実際に俺を見たのは今、この時間が初めて」女子生徒は目を伏せた。「ほ、本当になんでもないかもしれないんですけど……その夢の内容が肝心で……」一同が息を呑む中、女子生徒は震える声で続けた。「衣百合さんが……死んで……」その子の目が潤んでいる。衣百合は優しくその子の背中をさすった。「どういう内容だったか、言える?」「はい……」女子生徒は深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。「なんだか大きい広場のような所にいたんです。まるで公園のような……空はなんだか異様で、赤黒く、月よりも数十倍ある何かが浮かんでいました。周りには形容しがたい化け物が溢れかえっていて……その化け物に衣百合さんが体を真っ二つに……そこに黎慈さんもいて……」体が小刻みに震えていた。衣百合は背中をさすりながら穏やかに言った。「言ってくれて
黎慈は少し早めに目を覚ました。寝巻きのままロビーへ降りていくと、衣百合が朝食の準備をしていた。階段を下りる音に気づいた衣百合が、こちらに手を振ってきた。「おはよう」「今日は起きてくるの早いね?大丈夫?」黎慈はまだ睡魔の残る目を擦りながら頷いた。「何か手伝えること、ある?」「大丈夫だよ。ロビーに座ってて」言われるがまま、黎慈はロビーの机に向かった。ほどなくして亮が部屋から降りてきて、向かいの席に座った。「おはよう」「……おはよう」亮はまだ寝足りない顔で、座ったままうつらうつらとしていた。しばらくすると、衣百合が朝食を運んできた。寝ている亮の頭を軽く叩く。「ほら、子供じゃないんだから。あ、身長は子供かも?」「え、キレそう」三人は朝から小さく笑い合った。学校に着くと、すぐに朝のホームルームが始まった。「え~、今日は放課後に部活動編成があるから、部活に所属してるやつはちゃんと行けよ」担任はそう言い、部活動ごとの集合教室が書かれた紙を黒板に貼った。黎慈は陸上部の件を詳しく聞くため、昼休みに衣百合の教室へ向かった。教室の前まで来ると、衣百合は友達らしき女子生徒と昼食を食べているところだった。邪魔になるのを懸念して少し迷っていると、衣百合がこちらに気づき、わざわざ出てきた。「黎慈くん、どうしたの?」「いや~、今日の部活動編成、どうしようかなって」「あー、なるほどね。ちょっと待ってて」衣百合は友達に断りを入れ、昼食を持ってきた。「ここじゃ話しづらいでしょ?あの空き教室で食べよ?」「じゃあ、先に行ってて。教室から持ってくる」「うん、わかった」黎慈は自分の教室から弁当を持って空き教室へ向かった。そこにはすでに衣百合が机と椅子を用意してくれていた。対面に座り、「いただきます」と弁当を開ける。「で、部活の件を私に相談したいと」黎慈は口に物を入れながら頷いた。「なるほどね。まあ、結構緩めの部活だし。入ってもいいと思うけどね」「そんな感じの部活なの?一回しか見学行ってないからあんまり分かってないんだけど」「めっちゃフランクだよ? とりあえず入ってみるのはいいと思うよ?」「そうなんだ。とりあえず入ってみようかな」「うん。部長と話したと思うんだけど、良い人だから」衣百合は弁当箱を仕舞いながら続けた。「ところで、そ
放課後になると、衣百合が教室に迎えに来た。堂々と教室に入ってきた彼女は、迷わず黎慈の席の前まで歩いてきた。「ほら、行くよ!」黎慈は席を立ち、衣百合とともに教室を出た。下駄箱で靴を履き替えた後、黎慈はふと聞いた。「で、どこに行く予定なの?」「まあまあ、とりあえず気にしないでついて来てよ」「きっと楽しめると思うからさ」黎慈は言われるがまま、衣百合と他愛のない話をしながら目的地へ向かった。数分歩くと、衣百合がおしゃれなカフェの前で足を止めた。「もしかして、ここ?」「そうだよ!おしゃれなカフェでしょ?」衣百合が店内に入っていくのを見て、黎慈も後を追った。「いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」「あれ、衣百合じゃん!久しぶりだね!」「うん、久しぶり。ごめんね、あんまり来れなくて」「いいよいいよ。気にしてないから」衣百合と楽しそうに談笑していた女性店員が、黎慈の方を見た。「あれ? 衣百合、もしかして……?」「違うから!ただの友達!」黎慈は軽く会釈をした。「初めまして」「衣百合さんのお友達をさせてもらってます、枝先黎慈です」「お二人はどういうご関係で?」衣百合は優しく笑う。「ただの友人だよ」「奥の席にご案内しますね」暖簾をくぐると、落ち着いた雰囲気の個室のような空間が広がっていた。四人掛けのテーブルに、黎慈と衣百合は向かい合って座った。「では、ごゆっくり~」女性店員が去った後、衣百合が少し照れくさそうに言った。「久しぶりの休みだったからさ、ちょっとここに顔を出そうかなって」「ごめんね? 付き合ってもらって」「気にしてな
鳥のさえずりが聞こえ、黎慈は眠たい目を擦りながら起き上がった。スマホを確認すると、午前七時半。月曜日の朝だ。制服に着替え、ロビーへ降りると、亮がすでに朝食を食べていた。「おはよう」「おー、おはよう黎慈。今日から学校だぜ?月曜日が一番きついわ」黎慈は辺りを見回し、衣百合の姿がないことに気づいた。「あれ? 亮、衣百合は?」「俺が起きた時にはいなかったな」「てか、最近お前ら二人仲良いよな。どう、いい感じ?」「ただの友達としての付き合いだよ。朝食はどこに置いてある?」「キッチンに置いてあるよ」亮はため息を吐いた。「しっかし、衣百合も大変だな。こんな鈍感な奴だとは……」黎慈はキッチンへ行き、皿をロビーへ運ぼうとしたところで、皿の下に手紙が挟まっているのに気づいた。『先に学校に行ってます』『黎慈くんも早めにきてね。夢について、結果を聞きたいから』黎慈は急いで朝食を済ませ、亮より先に寮を出た。学校に着くと、空き教室にはすでに景佑と衣百合が待っていた。「待たせたな、二人とも」「遅いぞ」黎慈は教室の隅から椅子を引き、衣百合の前に座った。そして、夢の世界で起きた出来事を詳しく話し始めた。「あの扉の中には、誰かの記憶が入っていたんだ」「どんな内容の記憶だったんだ?」教室内で女子生徒にいじめのようなことを言われていた事。男子生徒にもいじめられていたこと。親にも嫌味を言われていたこと。見たことをできるだけ鮮明に話した。景佑と衣百合が驚きの表情を隠せない。黎慈は淡々と続けた。「あの出来事が、本当に夢の主人の記憶だとしたら…
目を開けると、先日離脱した場所に立っていた。景佑もすでにそこにいて、すぐに作戦の最終確認に入った。「いいか景佑。お前は最初に扉の近くまで行って、化け物をできるだけ引き連れてくれ」「その間に俺が扉に入る」「大丈夫、ちゃんと覚えてる」「あくまで俺は陽動だな。無理に全部倒さなくていい」「そうだ。扉の中の記憶を見たら、公園の中央の休憩所で合流しよう」黎慈は公園の中心にある小さな建物の方を指差した。景佑は頷き、二人は扉が見える位置まで慎重に近づいた。景佑が先陣を切って走り出す。彼は振り返り、黎慈に向かって軽く手を振った。「お前らの相手は俺だ!追ってこい!」大量の化け物が一斉に景佑を追いかけ、公園の外へと流れていく。黎慈はタイミングを見計らい、残った数匹の化け物に備えながら扉へ急いだ。残った化け物たちが黎慈に気づき、迫ってくる。黎慈はブラムを起動させた。彼の力は、対象に触れた部分を爆発させる能力――力を込めれば込めるほど爆発範囲が広がる。化け物が直線上に重なった瞬間、黎慈は力を発動した。爆発が連鎖し、化け物たちが次々と灰のように崩れ落ちた。「やっぱり……この力、思った以上に汎用性があるぞ」戦闘を終えた黎慈は、禍々しい赤い光を放つ扉の前に立った。中から、くぐもった声が聞こえてくる。『俺は……俺は!』黎慈は深く息を吸い、扉を開けて中へ踏み込んだ。──そこは見慣れた教室だった。「お前、キモいよ? w」数人の女子高校生が、面と向かって嘲笑う。黎慈は何か言おうとしたが、声が出ない。まるで他人の体の中に閉じ込められたような感覚で、身動きすら取れなかった。女子たちは
「ようこそお越しくださいました」黎慈はゆっくりと瞼を開けた。目の前に、いつもの少女が立っている。「お連れ様の場所にお連れしましょうか?」「ああ、頼む」少女は何かを小さく唱え始めた。数秒後、視界が一気に明るくなった。目を開けると、景佑が複数の化け物に囲まれ、苦戦している最中だった。黎慈は即座にブラムを起動させ、助太刀に入る。二人の連携で化け物を一掃すると、景佑が息を弾ませながら笑った。「やっと来たな、黎慈」「悪い、遅くなった」「じゃあ、早速向かうか。謎の扉の場所に」景佑が先頭に立ち、二人は公園を目指して走り始めた。道中、何度か化け物と遭遇したが、特に苦戦することもなく目的地に到着した。公園の広場に、赤く光る扉がはっきりと見えた。その周囲には、異常な数の化け物がうごめいている。「あれが例の扉だ」「確かに……化け物が多すぎるな」景佑が黎慈を見た。「判断は黎慈に任せる」黎慈は少し考え、首を振った。「俺も扉の存在をしっかり認知できた」「一度現実に戻って、衣百合を交えて作戦を立てるべきだ」景佑は素直に頷き、二人はその場を後にした。黎慈が目を覚ましたのは午前九時だった。ロビーへ降りると、衣百合がすでに朝食を食べ始めていた。机には三人分の食事が用意されている。「いただきます」黎慈が向かいの席に座って食べ始めると、衣百合が明るく声をかけてきた。「なんか夢の中での進捗はあった? 行ったんでしょ?」「景佑を交えて話すことになってるから、その時に話そう」「わかっ
夕食を食べ終えると、景佑は「じゃあな」と軽く手を挙げて寮を後にした。入れ替わるように亮が帰ってきて、ロビーで顔を合わせた。黎慈はふと思い出し、亮に声をかけた。「そういえば、駅で一緒にいた女の子は誰?」「ああ、ただの友達だよ。見てたなら声かけろよな~」「流石に気まずい」亮は笑いながら自分の部屋へ上がっていった。亮の姿が消えると、隣に座っていた衣百合が小さく息を吐いた。少し涙ぐんだ目で黎慈の方へ寄りかかってくる
黎慈は一度公園を離れるためにバスに乗り、市内で一番栄えている光里山駅へと向かった。「お客様へお願いです。車内は大変揺れますので、完全に停止するまで立ち上がらないようにお願いします」車内アナウンスが流れた。どこか懐かしさを感じさせる音質だ。「次は、光里山駅前、光里山駅前。お降りの際は、お忘れ物のないようご注意ください」黎慈は降りて、駅前を少し歩いてみることにした。この駅は県内で新幹線が停まる数少ない大きな駅で、東京から来た時
寮に着いたのは午後四時半を少し過ぎた頃だった。ロビーにはすでに亮(りょう)がいて、三人はすぐに寮解体の話を始めた。彼もすでに担任から聞いていたらしく、難しい顔をしていた。三人は机に肘を置き、一様に険しい表情を浮かべる。「正直、俺もいい案が出てこない……」「でも、救える可能性が少しでもあるなら、考えてみる価値はあるんじゃないか?」衣百合(いゆり)が頷き、黎慈(れいじ)も同意した。「ああ、まだ時間はある。少しでもその可能性を探
黎慈(れいじ)は夢の中で覚醒した力の余韻が、まだ体に残っている気がした。体が気怠い気がするが、無理やり頭と体を起こす。昨日の出来事を共有するためにも、いつもより早く寮を出た。衣百合(いゆり)も亮(りょう)もまだ眠っている早朝だった。学校に着くと、教室も廊下も無人だった。静まり返った朝の廊下を歩きながら、黎慈(れいじ)は昨夜の混沌とした夢の世界を思い出していた。体に流れ込んだ熱い奔流、あの声、そして化け物を殴り飛ばした時の衝撃。