LOGIN鳥のさえずりが聞こえ、黎慈は眠たい目を擦りながら起き上がった。
スマホを確認すると、午前七時半。
月曜日の朝だ。
制服に着替え、ロビーへ降りると、亮がすでに朝食を食べていた。
「おはよう」
「おー、おはよう黎慈。今日から学校だぜ?月曜日が一番きついわ」
黎慈は辺りを見回し、衣百合の姿がないことに気づいた。
「あれ? 亮、衣百合は?」
「俺が起きた時にはいなかったな」
「てか、最近お前ら二人仲良いよな。どう、いい感じ?」
「ただの友達としての付き合いだよ。朝食はどこに置いてある?」
「キッチンに置いてあるよ」
亮はため息を吐いた。
「しっかし、衣百合も大変だな。こんな鈍感な奴だとは……」
黎慈はキッチンへ行き、皿をロビーへ運ぼうとしたところで、皿の下に手紙が挟まっているのに気づいた。
『先に学
黎慈がグラウンドに戻ると、端の方で部長の桜乃泰芽が他の部員たちと談笑している姿が見えた。近づいていくと、泰芽が大きな声で手を振ってきた。「おーい、きてきて~」他の部活からも注目が集まるほどの声量だった。少し気恥ずかしくなった黎慈は、足早に駆け寄った。「声でかいですよ」「ははっ」黎慈は周りを見回した。「休憩中ですか?」「そう。でも、今日はもう終わりだけどね」「あれ?意外と早いんですね」空はまだ明るく、野球部やサッカー部は練習を続けていた。「まあ、そんなマジでやる雰囲気じゃないしね」「……そう言うもんですか」泰芽は空を見上げながら続けた。「みんな予定あるらしいしね」「まぁ、かくいう俺もそうだけど……」「お?彼女さんですか?」黎慈がからかい気味に聞いた。泰芽は声を高らかに笑った。「んな訳。バイトだよ」スマホに目をやり、泰芽が明るく言った。「じゃあ、最後のメニューいくぞ~。黎慈もせっかくだしやってくか!」「ぜひ、お願いします」泰芽の掛け声で部員たちが気だるそうに立ち上がった。最後に200メートルを三本走り込み、黎慈は汗を拭きながら寮への帰路についた。寮に着くと、玄関のガラス越しに衣百合がソファーに座っているのが見えた。中に入ると、衣百合がすぐに気づいた。「おかえり。今まで部活だった?」「ただいま。そうだよ」黎慈はバックを勢いよく下ろし、衣百合の対面に座った。二人の間に数秒の沈黙が流れた。「……ところでさ」「うん?」衣百合が目の色を変えて言ってきた。「どう思う?あの子の存在」「?どう思うって…」「普通ではないよな」「やっぱそうだよね~~」衣百合は体を後ろに倒した。「名前も知らないし、面識もない」「少なくとも普通の女の子には見えなかったな」「そりゃあそうだよね…」「でも、それ以外のところが少し気がかりなんだよね」黎慈はため息をついた。「流石に考えすぎ。休息取った方がいいよ?」「それは黎慈くんもでしょ」「目の下の隈、すごいよ?」「え?」黎慈は慌ててスマホのカメラを起動し、自分の顔を確認した。確かに、目の下に濃い隈ができていた。「なんで誰も言ってくれないんだよ……」「流石にみんな気遣うでしょ」黎慈は立ち上がり、着替えるために荷物を持って部屋へ向かった。「とりあえず、着替えて
空き教室に着くと、衣百合の他に小柄な女子生徒が座っていた。一年生くらいだろうか。黎慈が入っていくと、衣百合がすぐに声をかけてきた。「お! 結構早かったね」「さっさと抜けてきたからね」「で、話ってのは?」「あと、そちらの方は?」衣百合は立ち上がり、小柄な女子を紹介した。「この子は一年生の子」「名前はちょっと伏せるんだけど、何やら『夢』について知っているらしくてね」「それで、私に放課後連絡くれたんだ」女子生徒が緊張した様子で頭を下げた。「は、初めまして、黎慈さん」「先ほど、衣百合さんから説明はもらいました。転校生の方なんですよね?」「ちゃんと説明してもらえたみたいだね」「そうだよ、今年からこの街に来た枝先黎慈です」黎慈は軽く会釈をして、用意されていた椅子に座った。衣百合も座り、真剣な表情になった。「じゃあ、早速本題に」女子生徒が少し震える声で話し始めた。「昨日、夢を見たんです」「今、目の前にいる黎慈さんと衣百合さんが出てくる夢を」「……!」黎慈が息を呑むと、衣百合が落ち着いた声で一般論を挟んだ。「そう、一般的に夢には自分が会ったことがある」「見たことがある人が出てくると言われている」「私は生徒会とかで見るかもしれないけど、黎慈くんは違うよね」一度も見たことない人が夢に出てくるのは変な話だ。『もしかしたら一度会っているのかも…?』と思って黎慈は記憶を巡らした。だが、見た記憶はない。「でも、実際に俺を見たのは今、この時間が初めて」女子生徒は目を伏せた。「ほ、本当になんでもないかもしれないんですけど……その夢の内容が肝心で……」一同が息を呑む中、女子生徒は震える声で続けた。「衣百合さんが……死んで……」その子の目が潤んでいる。衣百合は優しくその子の背中をさすった。「どういう内容だったか、言える?」「はい……」女子生徒は深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。「なんだか大きい広場のような所にいたんです。まるで公園のような……空はなんだか異様で、赤黒く、月よりも数十倍ある何かが浮かんでいました。周りには形容しがたい化け物が溢れかえっていて……その化け物に衣百合さんが体を真っ二つに……そこに黎慈さんもいて……」体が小刻みに震えていた。衣百合は背中をさすりながら穏やかに言った。「言ってくれて
黎慈は少し早めに目を覚ました。寝巻きのままロビーへ降りていくと、衣百合が朝食の準備をしていた。階段を下りる音に気づいた衣百合が、こちらに手を振ってきた。「おはよう」「今日は起きてくるの早いね?大丈夫?」黎慈はまだ睡魔の残る目を擦りながら頷いた。「何か手伝えること、ある?」「大丈夫だよ。ロビーに座ってて」言われるがまま、黎慈はロビーの机に向かった。ほどなくして亮が部屋から降りてきて、向かいの席に座った。「おはよう」「……おはよう」亮はまだ寝足りない顔で、座ったままうつらうつらとしていた。しばらくすると、衣百合が朝食を運んできた。寝ている亮の頭を軽く叩く。「ほら、子供じゃないんだから。あ、身長は子供かも?」「え、キレそう」三人は朝から小さく笑い合った。学校に着くと、すぐに朝のホームルームが始まった。「え~、今日は放課後に部活動編成があるから、部活に所属してるやつはちゃんと行けよ」担任はそう言い、部活動ごとの集合教室が書かれた紙を黒板に貼った。黎慈は陸上部の件を詳しく聞くため、昼休みに衣百合の教室へ向かった。教室の前まで来ると、衣百合は友達らしき女子生徒と昼食を食べているところだった。邪魔になるのを懸念して少し迷っていると、衣百合がこちらに気づき、わざわざ出てきた。「黎慈くん、どうしたの?」「いや~、今日の部活動編成、どうしようかなって」「あー、なるほどね。ちょっと待ってて」衣百合は友達に断りを入れ、昼食を持ってきた。「ここじゃ話しづらいでしょ?あの空き教室で食べよ?」「じゃあ、先に行ってて。教室から持ってくる」「うん、わかった」黎慈は自分の教室から弁当を持って空き教室へ向かった。そこにはすでに衣百合が机と椅子を用意してくれていた。対面に座り、「いただきます」と弁当を開ける。「で、部活の件を私に相談したいと」黎慈は口に物を入れながら頷いた。「なるほどね。まあ、結構緩めの部活だし。入ってもいいと思うけどね」「そんな感じの部活なの?一回しか見学行ってないからあんまり分かってないんだけど」「めっちゃフランクだよ? とりあえず入ってみるのはいいと思うよ?」「そうなんだ。とりあえず入ってみようかな」「うん。部長と話したと思うんだけど、良い人だから」衣百合は弁当箱を仕舞いながら続けた。「ところで、そ
放課後になると、衣百合が教室に迎えに来た。堂々と教室に入ってきた彼女は、迷わず黎慈の席の前まで歩いてきた。「ほら、行くよ!」黎慈は席を立ち、衣百合とともに教室を出た。下駄箱で靴を履き替えた後、黎慈はふと聞いた。「で、どこに行く予定なの?」「まあまあ、とりあえず気にしないでついて来てよ」「きっと楽しめると思うからさ」黎慈は言われるがまま、衣百合と他愛のない話をしながら目的地へ向かった。数分歩くと、衣百合がおしゃれなカフェの前で足を止めた。「もしかして、ここ?」「そうだよ!おしゃれなカフェでしょ?」衣百合が店内に入っていくのを見て、黎慈も後を追った。「いらっしゃいませ~。お二人様ですか?」「あれ、衣百合じゃん!久しぶりだね!」「うん、久しぶり。ごめんね、あんまり来れなくて」「いいよいいよ。気にしてないから」衣百合と楽しそうに談笑していた女性店員が、黎慈の方を見た。「あれ? 衣百合、もしかして……?」「違うから!ただの友達!」黎慈は軽く会釈をした。「初めまして」「衣百合さんのお友達をさせてもらってます、枝先黎慈です」「お二人はどういうご関係で?」衣百合は優しく笑う。「ただの友人だよ」「奥の席にご案内しますね」暖簾をくぐると、落ち着いた雰囲気の個室のような空間が広がっていた。四人掛けのテーブルに、黎慈と衣百合は向かい合って座った。「では、ごゆっくり~」女性店員が去った後、衣百合が少し照れくさそうに言った。「久しぶりの休みだったからさ、ちょっとここに顔を出そうかなって」「ごめんね? 付き合ってもらって」「気にしてな
鳥のさえずりが聞こえ、黎慈は眠たい目を擦りながら起き上がった。スマホを確認すると、午前七時半。月曜日の朝だ。制服に着替え、ロビーへ降りると、亮がすでに朝食を食べていた。「おはよう」「おー、おはよう黎慈。今日から学校だぜ?月曜日が一番きついわ」黎慈は辺りを見回し、衣百合の姿がないことに気づいた。「あれ? 亮、衣百合は?」「俺が起きた時にはいなかったな」「てか、最近お前ら二人仲良いよな。どう、いい感じ?」「ただの友達としての付き合いだよ。朝食はどこに置いてある?」「キッチンに置いてあるよ」亮はため息を吐いた。「しっかし、衣百合も大変だな。こんな鈍感な奴だとは……」黎慈はキッチンへ行き、皿をロビーへ運ぼうとしたところで、皿の下に手紙が挟まっているのに気づいた。『先に学校に行ってます』『黎慈くんも早めにきてね。夢について、結果を聞きたいから』黎慈は急いで朝食を済ませ、亮より先に寮を出た。学校に着くと、空き教室にはすでに景佑と衣百合が待っていた。「待たせたな、二人とも」「遅いぞ」黎慈は教室の隅から椅子を引き、衣百合の前に座った。そして、夢の世界で起きた出来事を詳しく話し始めた。「あの扉の中には、誰かの記憶が入っていたんだ」「どんな内容の記憶だったんだ?」教室内で女子生徒にいじめのようなことを言われていた事。男子生徒にもいじめられていたこと。親にも嫌味を言われていたこと。見たことをできるだけ鮮明に話した。景佑と衣百合が驚きの表情を隠せない。黎慈は淡々と続けた。「あの出来事が、本当に夢の主人の記憶だとしたら…
目を開けると、先日離脱した場所に立っていた。景佑もすでにそこにいて、すぐに作戦の最終確認に入った。「いいか景佑。お前は最初に扉の近くまで行って、化け物をできるだけ引き連れてくれ」「その間に俺が扉に入る」「大丈夫、ちゃんと覚えてる」「あくまで俺は陽動だな。無理に全部倒さなくていい」「そうだ。扉の中の記憶を見たら、公園の中央の休憩所で合流しよう」黎慈は公園の中心にある小さな建物の方を指差した。景佑は頷き、二人は扉が見える位置まで慎重に近づいた。景佑が先陣を切って走り出す。彼は振り返り、黎慈に向かって軽く手を振った。「お前らの相手は俺だ!追ってこい!」大量の化け物が一斉に景佑を追いかけ、公園の外へと流れていく。黎慈はタイミングを見計らい、残った数匹の化け物に備えながら扉へ急いだ。残った化け物たちが黎慈に気づき、迫ってくる。黎慈はブラムを起動させた。彼の力は、対象に触れた部分を爆発させる能力――力を込めれば込めるほど爆発範囲が広がる。化け物が直線上に重なった瞬間、黎慈は力を発動した。爆発が連鎖し、化け物たちが次々と灰のように崩れ落ちた。「やっぱり……この力、思った以上に汎用性があるぞ」戦闘を終えた黎慈は、禍々しい赤い光を放つ扉の前に立った。中から、くぐもった声が聞こえてくる。『俺は……俺は!』黎慈は深く息を吸い、扉を開けて中へ踏み込んだ。──そこは見慣れた教室だった。「お前、キモいよ? w」数人の女子高校生が、面と向かって嘲笑う。黎慈は何か言おうとしたが、声が出ない。まるで他人の体の中に閉じ込められたような感覚で、身動きすら取れなかった。女子たちは
「ようこそお越しくださいました」黎慈はゆっくりと瞼を開けた。目の前に、いつもの少女が立っている。「お連れ様の場所にお連れしましょうか?」「ああ、頼む」少女は何かを小さく唱え始めた。数秒後、視界が一気に明るくなった。目を開けると、景佑が複数の化け物に囲まれ、苦戦している最中だった。黎慈は即座にブラムを起動させ、助太刀に入る。二人の連携で化け物を一掃すると、景佑が息を
夕食を食べ終えると、景佑は「じゃあな」と軽く手を挙げて寮を後にした。入れ替わるように亮が帰ってきて、ロビーで顔を合わせた。黎慈はふと思い出し、亮に声をかけた。「そういえば、駅で一緒にいた女の子は誰?」「ああ、ただの友達だよ。見てたなら声かけろよな~」「流石に気まずい」亮は笑いながら自分の部屋へ上がっていった。亮の姿が消えると、隣に座っていた衣百合が小さく息を吐いた。少し涙ぐんだ目で黎慈の方へ寄りかかってくる
黎慈は一度公園を離れるためにバスに乗り、市内で一番栄えている光里山駅へと向かった。「お客様へお願いです。車内は大変揺れますので、完全に停止するまで立ち上がらないようにお願いします」車内アナウンスが流れた。どこか懐かしさを感じさせる音質だ。「次は、光里山駅前、光里山駅前。お降りの際は、お忘れ物のないようご注意ください」黎慈は降りて、駅前を少し歩いてみることにした。この駅は県内で新幹線が停まる数少ない大きな駅で、東京から来た時
扉をくぐると視界が一気に明るくなった。そこは昨日現実へ帰還したのと同じ場所だった。黎慈(れいじ)と景佑(けいすけ)は目配せを交わした。ふと空を見ると、少し遠くに明らかに異彩を放っている空気がある。そこまで離れてはいないはずだ。おそらく、あれが夢の核とやらなのだろう。二人はそれを目指して歩き始めた。黎慈(れいじ)が後衛で周りを見渡す。景佑(けいすけ)が前衛で前方の安全を確認する。少し歩いた頃だ