四月七日 夕方。「ガタンガタン」電車の揺れが、窓ガラスに映る曇り空を震わせていた。「次は、冨永山町~。お出口は左側です」車掌の声が響いた瞬間、妙な懐かしさが胸に広がった。東京とはまるで違う、のどかな山間の町。家庭の事情で越してくることになったこの場所に、黎慈(れいじ)は淡い期待と、言いようのない不安を抱いていた。そのとき――聞き覚えがあるようでない声が、脳裏に響いた。視界が一瞬暗転し、青白い空間に立っていた。椅子に腰かけた黎慈(れいじ)の前に、見知らぬ女性が静かに微笑んでいた。「また、お会いしましたね」女性の声は穏やかだったが、黎慈は言葉を失っていた。状況が飲み込めない。「あなたがこの町に来るということは、それ相応の覚悟があるのでしょう」「ただ……」「引き返すなら今です。ここで決断なさい」なんのことだか全くわからない。そんな顔をしていたが、女性は淡々と続ける。「記憶を消してこの町から去るか、それとも……ここで出会う仲間たちとの、かけがえのない記憶を取り戻すか」数秒の沈黙の後、黎慈《れいじ》はゆっくりと答えた。「……俺には、ここ以外に行けるところがない。後者を選ぶよ」女性はそっと胸を撫で下ろし、安堵したように微笑んだ。「記憶が無くなっていても、そのままですね。あなたの決意、承りました」声が空間に溶けると同時に、視界が元に戻った。黎慈《れいじ》は電車の中にいた。何か大切なことを決めたような、ぼんやりとした実感だけが残っていた。数分後、電車は冨永山駅に到着した。ホームに降り立つと、ボブカットの髪に黒タイツ、学生服姿の女子生徒が一人、誰かを探すように立っていた。彼女は私を見つけると、慌てた様子で駆け寄ってきた。「突然で悪いんだけど……もしかしてキミが転校生?」黎慈が頷くと、彼女はほっとした笑顔を浮かべた。「よかった~! 人違いだったらどうしようかと思ったよ」「私、羽川《はねかわ》衣百合《いゆり》! キミの名前は?」「枝先《えださき》黎慈《れいじ》。二年生です」「え、二年生!? 私、先生からあんまり詳しく聞いてなくて…」「…そっか、年下か」「じゃあ私が先輩だね! ……って、冗談だよ」衣百合は軽く笑って手を差し出した。「早速悪いんだけど、これから学生寮まで案内するよ。ついてきて!」駅から出ると、肌寒い
최신 업데이트 : 2026-06-10 더 보기