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第2話

Author: サカエ
浩輔は喉仏を大きく上下させると、スマホを奪い取ろうとした。けれど、私は身をよじって避けた。

「柚は酔っていたんだ」

彼は口を開けば言い訳ばかりだったが、声はひどくかすれていた。

「これはただのゲームだ」

私は浩輔の真っ青な顔を見て、スマホをしまった。

「そう?

じゃあ、あなたと婚約するって言ってたのも、ゲームなの?」

それを言われると浩輔は息を呑み、ソファに崩れるように座った。

「柚が……お前に言ったのか?」

「ううん」私は首を横に振った。「お母さんが言ってた」

ここで言う「お母さん」とは、私の義理の母で、柚の実の母親の直美のことだ。

それを聞いて浩輔の顔が、さらに青ざめていった。

彼はそれが何を意味しているのかを分かっていた。

つまり彼らの関係は、もうとっくに秘密ではなくなっていたということで、ただ私にだけ黙っていたのだが、周囲の人間は誰もが二人の関係を黙認していたってことだ。

「葵、話を聞いてくれ」

そう言って、浩輔は私の手を握り、優しく撫でた。それは久しぶりに感じる、彼の温もりだった。

「俺と柚は、ただ……」

浩輔は「ただ」と言ったきり、言葉を続けられずにいた。

どんな言い訳も、今となっては虚しく響くだけだと分かっていたからだ。

だから、私はその手を振り払った。

付き合い始めた頃、浩輔はどこへ行くにも私と手を繋いでくれた。「一生、お前と手をつないでいくよ」って言ってくれたのに。

でも結婚した後の三年間、浩輔から手を繋いでくれたことは一度もなかった。むしろ私が浩輔の手に触れようとすると、いつもうっとうしがられていたのだった。

「浩輔、もう言い訳しなくていいから。

ただ、これからどうするつもりなのか、それだけ聞かせて」

私を選ぶのか、それとも柚を選ぶのか。

すると、浩輔は黙り込んでしまった。

その様子に私はなんだか、笑えてきた。あんなに愛を誓い合ったのに、結婚してから三年間も連れ添ってきたのに、それでも、柚の方が彼にとって大事だったんだな。

一方で浩輔は俯いていて、表情は読み取れなかった。

でも、固く握りしめられた拳と、その手の甲に浮き出た血管が彼の思いを物語っているようだった。

そして、長い沈黙の後。

顔を上げた浩輔の瞳には、煮詰まった疲労感と決意の色が浮かんでいた。

「葵、俺たち……少し、離れよう。

少し、頭を冷やしたいんだ」

浩輔はそう言うと立ち上がり、ジャケットを手に取って出て行こうとした。

私は浩輔を止めなかった。

浩輔が言う「頭を冷やす」が、柚と今後の対策を練るための言い訳だってことは分かっていたから。

今の状況からして、まるで彼ら二人が夫婦で、逆に私の方が邪魔者みたいだ。

翌日、親戚での集まりがあった。

父と直美が、新年を祝うために料亭の個室を予約していたのだった。

私が着いた時には、もうみんな揃っていた。

浩輔をのぞいては。

それを見て、父は眉をひそめて言った。「浩輔は?まだ来ないのか?」

すると直美が笑って取り繕おうとして言った。「浩輔はお医者さんだから、忙しいのよ。きっと急患でも入ったんでしょ」

直美はそう言いながら、親しげに私の手を握った。

「葵、浩輔のことを責めちゃだめよ。男の人は仕事が一番なんだから」

私は直美の手を振りほどき、静かに言った。

「忙しいから来てないんじゃない。多分もう来るつもりがないんじゃないかな」

しかし、私がそう言った途端、個室のドアが開けられた。

浩輔と柚が一緒に入ってきた。

柚は浩輔の後ろにいたが、部屋に入ると彼女は浩輔の隣に立って、彼の腕に自分の腕を絡ませて、私に向かって挑発的に眉を上げた。

片や浩輔も柚を振り払うことなく、むしろ体をもっと近寄せて、私に勝ち誇ったような目線を向けたのだった。

その様子に父は顔色を真っ青にして、勢いよく立ち上がった。

「浩輔!一体どういうつもりだ!」

すると、柚が慌てて前に出て、父の片腕を掴んだ。

「私たちのことは、自分たちで解決させてよ」

そして、浩輔も息を深く吸い込んで、一歩前に出て柚の腰を引き寄せると、私に目線を向けた。

「お父さん、申し訳ない。

俺は葵と離婚しようと思って」
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