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第1079話

Author: 夜月 アヤメ
―もし村崎家に、西也と村崎家が血の繋がりがないと知られたら。

そのときは......村崎家は一切の情けをかけず、容赦なく切り捨てにくるだろう。

今のところ、紀子はこのことを黙っている。

それなら―今はまだ、隠しておいた方がいい。

成之が低い声で問いかけた。

「......お前と伊藤さん、今さら何があるっていうんだ。まさか『まだ愛してる』なんて言う気じゃないだろうな?」

「つまり......お前は、俺と光莉の関係に首を突っ込む気なのか?」

成之の口調が一段と冷たくなる。

「遠藤高峯、俺の我慢にも限界がある。これが最初で最後の警告だ。次に彼女を煩わせたら―今度は穏やかに済ませる気はない。今のお前の地位?そんなもん、元通りの『無一文』にしてやる。それどころか、牢屋の中に逆戻りだ」

張り詰めた空気の中で、高峯は拳を固く握りしめる。

その眉間には怒りの炎が灯っていた。

「......あいつには旦那がいるって、知ってるよな?まさかお前、人妻に興味でもあるのか?」

「ここに残って、俺と彼女の関係を詮索していくか、それとも―とっとと会社に戻って、自分の尻ぬぐいを始めるか」

成之の声は、どこまでも冷静だった。

「......さすがは成之さん。そっちの趣味があるとは思いませんでしたよ。本当に感心しますね」

吐き捨てるように言い残し、高峯は怒りをぶつけるようにして背を向けた。

バタン―

重いドアが閉まる音。

成之はその音にも動じず、静かにスマホを取り出し、ひとつの番号へ電話をかけた。

「......ここ数日、あいつを見張っておいてくれ。ちゃんと大人しくしてるか、確認したい」

......

カフェの店内。

若子と西也が向かい合って座っていた。

テーブルの上に、若子は一通の書類を差し出す。

「西也、これにサインして。そしたら、一緒に役所行って、ちゃんと手続きしよう」

目の前に置かれた離婚届を見つめながら、西也の胸が張り裂けそうになった。

今日、若子から会いたいと連絡がきて、正直、彼はすごく嬉しかった。けれど、会って早々に手渡されたのは―離婚届だった。

彼女は、本気で離婚するつもりだった。

「若子......頼む、離婚しないって選択肢はないのか?もう二度と、藤沢とは会わない。誓うよ、これからは絶対に―」

「西也」

若子がその言葉を遮っ
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Comments (4)
goodnovel comment avatar
ayako
もうこう言われたらサインするしか無いですよね西也は。光莉関係はどうでも良いので省きますが、今回全く出て来なかった修は今一体何をしているのか…。お願いだから侑子に癒しを求めてたりしないでよ…。もうそうだったら修にはもうチャンスはないですね。あぁ、次回の更新がコワイ…。。
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hayelow488
私だけかもしれませんが、今、一番の関心事は、修と侑子が上手く別れられるかという事です。 今日の更新で、 「高峰、案外ショボいなあ。」 「千景、何しようとしてるの?」 「西也、離婚したら昔の西也に戻らないかなぁ」 とは思いますが、どうしても修のことが気になってしまいます。 きっと、彼が信用ならないので、2人の決着がつかないと安心して読めないからです。 だから、早く別れてほしい。。。
goodnovel comment avatar
barairose88
若子、男前です! 今までとは違い、情に流されず、ビシリと西也に離婚を突きつけましたね。 修に対しても、そんなに怒ることですか、とも思いましたが… 嘘をつかない…その誠実さが今の若子の価値観なのでしょう。 修への拒絶は、大好きなおばあさんの孫として立場を侑子に奪われた痛み… そしてそれを容認している修への抑えきれない失望…その思いが根底にあったのかもしれません。 次は修のターンでしょうか… 修!千景の出現で傷つき、侑子に救いを求めるようなことなど絶対に無きよう、きっちり別れて!
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