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第1208話

Author: 夜月 アヤメ
侑子は自分の部屋に戻ると、まず扉に鍵をかけた。

ベッドに腰を下ろし、スマホを取り出して何度も確認しながら画面を操作する。

すべてを確認し終えた後、彼女は修の番号に電話をかけた。

「こんな時間に......何か用か?」

電話越しの修の声は、少し警戒したような冷たさを含んでいた。

「修、お願いがあるの。迎えに来てくれない?どうしても、直接話さなきゃいけないことがあるの」

「話なら電話で聞く。わざわざ会う必要あるか?」

「だめなの。これは本当に大事な話なの......どうしても、直接じゃなきゃ。お願い、来て......おばあさんのことなの」

修は短く黙り込んだ。

その数秒後―

「......わかった。今すぐ向かう」

一時間もしないうちに、修の車は侑子の住むマンションの下に到着した。

侑子はすでに着替えを済ませていて、彼からの着信を受けてすぐ、闇の中を抜けるように家を出た。

駆け足でマンションの下まで降りていくと、車の前で修が無言で立っていた。

彼女が近づくと、修は冷ややかな目で問いかけた。

「こんな夜中に、何の用だ?」

「とにかく......車に乗って、ここを離れましょ」侑子は助手席のドアを開けて乗り込んだ。

修は眉をひそめながらも、特に何も言わずに運転席に乗り込む。

「で、何なんだ?何がそんなに重要なんだ?」

「修、少しだけ走らせて。話すには、ここじゃないほうがいいの」

修は無言のままエンジンをかけ、車を走らせた。

およそ十数分後、侑子が静かに言った。

「......この辺りで停めて。もう大丈夫」

修はちらりと彼女の横顔を見た。真剣そのもので、何か重大なことが起きたとでも言いたげな表情だった。

「それで、話って何だ?おばあさんのことだって言ってたな」

「修......ごめんなさい......本当に、ごめんなさい......」

突然、侑子の目から涙が溢れ出す。

「何があったんだ?」

「......私......私、誰が......おばあさんを殺したのか、知ってたの......」

修の目が鋭くなった。

「誰だ......?早く言え」

侑子は震える手でスマホを取り出し、録音アプリを開いた。

そして―あの夜、安奈と交わしたやり取りを、再生した。

修は録音を聞き終えると、顔色が固まり、まるで全身が硬直したかのように
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