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第1207話

Author: 夜月 アヤメ
「このブレスレット、多分......君のだ」千景の表情が少しだけ険しくなる。

「手に入れたあの人物が、わざと送ってきたんだと思う」

そのとき、若子のスマホが再び鳴り響いた。

画面には見知らぬ番号が表示されていたが、彼女にはもう誰からか察しがついていた。

通話を繋ぎ、すぐにスピーカーに切り替える。

「ブレスレット、気に入りましたか?あなたに届けておきましたよ」

その声を聞いた瞬間、若子の血の気が引いた―まさか、子どもに接触していたというの?

怒りが一気にこみ上げてきて、若子は怒鳴りつけた。

「警告するわ。もしうちの子に指一本でも触れたら、絶対に許さない!」

「そんなに興奮しないでくださいよ。もし本当に何かしたのなら、今ごろもう会えてませんよ?返しただけです、あなたの大事なものを」

「......じゃあ、何が目的なの?あなたは何をしたいの?」

「なぜそんなに怯えているのですか?本気であなたを傷つけたいなら、とっくに命なんてありませんよ」

若子は歯を食いしばる。「なっ......!」

「ちょっと用事ができたので、また連絡しますね」男は淡々とそう言い残し、通話を切った。

「ちょっと、待って!......もしもし!?」若子はすぐに折り返し電話をかけたが、表示されたのは『存在しない番号』だった。

相手が誰であれ―ただ者ではない。用意周到で、恐ろしいほど冷静だった。

「若子、落ち着け。感情的になったら、あいつの思うツボだ。あいつは君を動揺させるためにわざとやってる」

千景が冷静な声で言いながら、彼女の手をそっと握った。

「でも......どうして?私、あんな人知らない。けど、あの人は私のことを全部知ってる。私の行動も、気持ちさえも......」

「大丈夫、俺がいる。君はひとりじゃない」

若子はその手を見つめた。自分の手を包み込むように握っている、大きくてあたたかい手を―ただ黙って見つめていた。

......

その頃、侑子と安奈は、眠れぬ夜を過ごしていた。

何も喉を通らず、ただスマホを握りしめて―例の作者の新しい投稿を、震える手で読み進めていた。

作家の更新は驚くほど早かった。

そして―その内容は、まさに侑子と安奈のやったことを、あまりにもリアルに、赤裸々に暴き出していた。

スマホを置いた侑子は、こっそりと横目で安奈の様子をうかが
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Comments (2)
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barairose88
本当に頼りになる千景! ノラに抗うにしても…とても心強い! ただ千景がどんなに若子を見守り、寄り添っても… 彼はヴィンセントです。 殺したり、撃ったりする、危険な人です。 最近の若子の依存度が心配ですが、きっと弁えていますよね…。 いよいよ杏奈と侑子のカウンドダウンが始まりましたね。  若子と2人のやり取りには思わず口角がUP! そして修、今度こそ絶対に間違えないように期待しています!
goodnovel comment avatar
hayelow488
おばあちゃん殺人事件は解決に向かっていると信じたい。結局、空振りなんてことがないように。 ノラは若子を動揺させて何がしたいのか分からない。 修と千景と若子のドキドキ三角関係が見たいな。 事件とか陰謀とか飽きた。
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