Share

第1359話

Author: 夜月 アヤメ
フロントのスタッフが、カウンターの電話から千景の部屋に何度も電話をかけてくれたが、結局つながらなかった。

「申し訳ありません、お客様。電話がつながりません。たぶんお部屋にいらっしゃらないんだと思います」

若子は焦りを隠せない。「冴島さん、いったいどこにいるの......?」

「監視カメラの映像を見せてもらえませんか?どこに行ったか知りたいんです!」

「申し訳ありませんが、防犯カメラはお見せできません。もし本当にご友人が行方不明なら、警察にご相談ください。警察から要請があれば映像をお見せできます」

「......」

若子は一瞬、本気で警察を呼ぼうかと思った。けれど―千景の事情を考えると、それもためらってしまう。

ふらふらとホテルの出口まで歩き、何度も何度も千景に電話をかける。

六回目のコールをしたところで、ついに力尽きて地面に崩れ落ち、その場で泣き出してしまった。

「冴島さん、どこに行ったの?ちゃんと待っててくれるって言ったのに......なんで約束守ってくれないの?......嘘つき、もう信じない......」

声にならないほど泣きじゃくる若子を、行き交う人たちは不思議そうに見ていたが、その理由を知る者はいなかった。

そのとき、頭上から声がした。

「若子」

若子が顔を上げると、そこには千景が立っていた。

「若子!」千景はすぐにしゃがみこみ、若子をやさしく抱き上げる。「どうしたの、なんでこんなところで座ってるの?誰かに何かされた?教えて、俺が絶対に許さないから!」

キョロキョロと周囲を見渡して、本気で「犯人」を探そうとする千景。

若子は、驚きと喜びが一度に押し寄せてきた。けれど、同時にすごく腹も立っていた。

「いるよ、確かにいる。すごくひどくされたんだから―もう少しで死にそうだったんだから!」

「誰だ、そんなやつ絶対許さない。すぐに名前を教えてくれ、俺が仕返ししてやる!」

若子は拳を握って、彼の肩を思い切り叩いた。「その『ひどいこと』をしたのは、あなただよ!」

千景は一瞬ポカンとしたが、すぐに理解して苦笑した。

若子がホテルの前で泣いていた理由も、やっと気づいた。

「ごめん、ちょっと外に出てただけなんだ」

実は―昼にカフェで誰かに見られている気がして、警戒して追いかけてしまった。そのままかなり遠くまで走って、ようやく捕まえ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Comments (8)
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
1346話で愛がなくなったわけじゃない 若子が修に気持ちあるのに いろいろすれ違いあっても 愛が残ってるのに 何度読んでも ヴィンセント選ぶ理由わからない
goodnovel comment avatar
シマエナガlove
そろそろ暗殺者がくるころ ノラの言う通りになるはず ヴィンセント早く永遠に消えて 若子は男いないとダメ人間 頼る人いなくなり 修にすり寄るのだけは拒否 修と子供捨ててヴィンセント選んだから 絶対消えろ 若子が後悔しながら 最終的には狂ってしまえ ほんとマジでヴィンセントも若子も気持ち悪
goodnovel comment avatar
hayelow488
若子と千景のイチャイチャがウザすぎます。 修のことを思うと不快でしかないです。 西也の時もそうだったけどいきなり結婚とか、若子がバカすぎて見てられないです。 作者さん、一体、何回、読者を怒らせる気でしょう(笑)。 修は若子一筋で、若子でないとダメなんだと、散々見せつけおいて、千景とくっつけるなんて酷なことしますね。 これから修も幸せになってほしいです。 もしくは、後々に、若子が千景を選んだことの報いを受けるかもしれませんね。
VIEW ALL COMMENTS

Latest chapter

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1359話

    フロントのスタッフが、カウンターの電話から千景の部屋に何度も電話をかけてくれたが、結局つながらなかった。「申し訳ありません、お客様。電話がつながりません。たぶんお部屋にいらっしゃらないんだと思います」若子は焦りを隠せない。「冴島さん、いったいどこにいるの......?」「監視カメラの映像を見せてもらえませんか?どこに行ったか知りたいんです!」「申し訳ありませんが、防犯カメラはお見せできません。もし本当にご友人が行方不明なら、警察にご相談ください。警察から要請があれば映像をお見せできます」「......」若子は一瞬、本気で警察を呼ぼうかと思った。けれど―千景の事情を考えると、それもためらってしまう。ふらふらとホテルの出口まで歩き、何度も何度も千景に電話をかける。六回目のコールをしたところで、ついに力尽きて地面に崩れ落ち、その場で泣き出してしまった。「冴島さん、どこに行ったの?ちゃんと待っててくれるって言ったのに......なんで約束守ってくれないの?......嘘つき、もう信じない......」声にならないほど泣きじゃくる若子を、行き交う人たちは不思議そうに見ていたが、その理由を知る者はいなかった。そのとき、頭上から声がした。「若子」若子が顔を上げると、そこには千景が立っていた。「若子!」千景はすぐにしゃがみこみ、若子をやさしく抱き上げる。「どうしたの、なんでこんなところで座ってるの?誰かに何かされた?教えて、俺が絶対に許さないから!」キョロキョロと周囲を見渡して、本気で「犯人」を探そうとする千景。若子は、驚きと喜びが一度に押し寄せてきた。けれど、同時にすごく腹も立っていた。「いるよ、確かにいる。すごくひどくされたんだから―もう少しで死にそうだったんだから!」「誰だ、そんなやつ絶対許さない。すぐに名前を教えてくれ、俺が仕返ししてやる!」若子は拳を握って、彼の肩を思い切り叩いた。「その『ひどいこと』をしたのは、あなただよ!」千景は一瞬ポカンとしたが、すぐに理解して苦笑した。若子がホテルの前で泣いていた理由も、やっと気づいた。「ごめん、ちょっと外に出てただけなんだ」実は―昼にカフェで誰かに見られている気がして、警戒して追いかけてしまった。そのままかなり遠くまで走って、ようやく捕まえ

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1358話

    普段の上司は、決して優しいタイプじゃない。遅刻や早退なんてしたら、すぐに怒鳴られるし、無断欠勤なんてもってのほか。そんな上司が今日は妙にやさしくて、若子は戸惑ってしまう。「松本さん、そんなに身構えなくていいよ。みんなが気楽に働ける職場にしたいんだ。それに、最近の君の働きぶりも本当に素晴らしいと思う。君は貴重な人材だよ」社交辞令だけじゃなく、本心も混じっているようだった。若子が書いた金融記事はどれも完成度が高く、分析も的確で、しかも予測まで当たっていた。上司も本当に感心しているのだろう。「何かあったら、またいつでも相談しに来て。遠慮はいらないから」「はい、わかりました。ありがとうございます」上司がオフィスに戻っていくと、若子はまだ腑に落ちない気持ちでぼんやりしていた。そのとき、隣の席の同僚が小声で話しかけてくる。「ねえ、昨日ヘリで迎えに来たのって誰?すごいよね」若子は思わず苦笑い。「別に、誰でもないよ......」昨日、バレないようにこっそりバルコニーに出て、なるべく人に見られないように乗り込んだはずだった。でも、まさかバレていたなんて。「へぇ、意外と控えめじゃん。家、相当金持ちなんでしょ?普通は無理だって、街中でヘリコプターなんて」B国では空の規制がとても厳しい。特別な許可がなければ、街中でヘリコプターを自由に飛ばすことなんてできない。普通の金持ちじゃ絶対に無理。だから、そんなことをできる人は、普通じゃ考えられないほどの権力かコネを持っている。「いや、私はただ働きに来てるだけだよ、みんなと同じだよ」「最初はそう思ってたけど......ヘリ見てからは、やっぱり違うなって思ったよ」この数週間、若子は本当に謙虚で、誰よりも普通の人だと思われていた。でも、直にヘリで迎えが来たとなれば―みんな、実はお嬢様が平民体験に来ているだけなんじゃないか、なんて噂が広まってしまっていた。若子はちょっと気まずくなってしまった。だって、あのヘリは彼女のものじゃない。元夫のもので、その財力も権力も、自分には全く関係ない。......そのころ、千景はホテルのカフェでコーヒーとお菓子を頼み、窓際の席で外の人の流れを眺めていた。今の彼は、とても穏やかな気持ちだった。まるで夢

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1357話

    若子は拳を握って、軽く千景の胸を叩いた。ちょっと恥ずかしくて、少し怒ったような声で言う。「もう、やめてよ。そんなこと言わないで。わざとからかってるでしょ?」こんなに遠くまで来て、思い切って告白したのに、まさか「結婚したいのは国籍のため?」なんて、冗談でも言われたら本当に腹が立つ。でも、千景も本気で怒らせるつもりはなく、わざとからかったのだ。そんな若子の反応を見て、つい愛おしそうに頬をつまむ。それからそっと、彼女の後頭部に手を添えて、額をそっと重ねる。声は低くて、どこまでも優しい。「いきなり空港まで来て、しかも結婚したいなんて言われてさ......正直、どうしたらいいかわからないよ」こんなふうに誰かを愛したのは、彼にとって初めてだった。どうやって気持ちを伝えたらいいのかさえ、今はうまくできない。「冴島さん、アメリカに家族とか友達、残してる人いる?」千景は首を振った。「......誰もいない」今、彼にとって大切な人は一人しかいない。家族も、友達も、愛する人も―全部、若子だけ。「だったら、ここに残ってよ。もうアメリカには戻らないで。あなたなら、ここでもちゃんと生きていける。働かなくてもいいよ。私が養うから。家も車も私が買う。だから、毎日家で待ってて、帰ったら抱きしめて、一緒にいて」千景は、その言葉に思わず吹き出す。「俺のこと、ヒモ男にする気なのか?」「全然かまわないよ」若子は冗談半分、本気半分。ただ彼がそばにいてくれるなら、自分が外で働いて、彼には家で待っていてほしい―それが本音だった。「バカだな。俺が君に養われるわけないだろ」千景は優しく彼女の頭を撫でる。「それに、これまでだってしっかり貯金してきたし。君に頼るなんて格好悪いだろ。藤沢に知られたら笑われるよ」「もし修が笑ったら、私がぶん殴ってやる!」修の名前が出ると、千景の顔から笑みが消えた。「ところで、若子......俺のこと探しにきたって、藤沢は知ってるのか?」若子も少しだけ真面目な顔で首を振る。「ううん、知らない。今、仕事中なのに抜け出してきちゃった。帰ったら絶対怒られる......」千景はもう一度、若子をぎゅっと抱きしめて、「ごめんな。わざわざ仕事抜けてまで来させてしまった」「だって、冴島さんが電話

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1356話

    千景の胸の奥から、熱い衝動が溢れ出した。思わず若子をぐっと引き寄せて、強く抱きしめる。若子も震える手で彼の腰にしがみついた。「若子、本当に自分が何を言ってるかわかってるのか?」千景の声は、少し厳しいほどの真剣さだった。それが一時の感情じゃなく、本当の気持ちかどうか―はっきり知りたかった。「冴島さん、私......あなたのことが好き。行かないで。お願い、私のそばにいてほしい」言おうとしても言えなかった言葉が、一度口をついて出てしまうと、もう止められなかった。いつから彼を好きになったのかは分からない。初めて会ったときに守ってくれたからかもしれない。彼の辛い過去を知って、同情したときかもしれない。あるいは、日々積み重ねてきた優しさや温かさ、無償の愛に触れたからかもしれない。冷たく見えるその奥に、誰よりも純粋な優しさがある―気がつけば、もう目が離せなくなっていた。もしこのまま彼に会えなくなるなんて考えたら、気が狂いそうだった。だから、全部を捨てて、ここまで走ってきた。千景はそっと若子を放して、両手でその頬を包み込む。「そんなふうに言われたら、もう絶対に手を離せない......本当に後悔しない?」彼はずっと、若子のことを思っていた。彼女の生活を壊したくなくて、危険な世界に巻き込みたくなくて、だから距離をとろうと決めていた。でも、若子が「好き」と言葉にした今、もう嘘はつけない。拒む理由なんて、もはやどこにもなかった。むしろ、自分がどれほど彼女を愛しているか―それを止めることができなかった。「だったら、もう絶対に離さないって約束して......ずっと、そばにいて」若子の声は泣き声に変わっていたけど、そこには喜びと幸せの涙が混じっていた。「若子、俺が生きている限り、絶対に君を離さない。ずっと守る......この先、何があっても、俺は絶対に後悔しない」千景はそっと目を閉じ、情熱的に若子の唇を奪った。ずっと夢に見てきた、大切な人とのキスだった。若子もまた、千景をしっかりと抱きしめ、心からのキスを返す。二人は何度も唇を重ねて、離れがたく抱き合った。頭上には何機もの飛行機が飛び交っていたけど、その騒音さえ二人の世界には届かなかった。やがて息もできないくらいになって、若子は

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1355話

    翌日、若子は仕事中も上の空だった。パソコンの画面に並ぶ数字を見つめても、何も頭に入ってこない。気がつけば、午前中がぼんやりと過ぎていた。昨夜、若子は千景にメッセージを送って、今日のフライトの時間を尋ねた。千景は「北区空港、午後二時半発」とだけ返してきた。もう、時刻は一時を過ぎている。急に心がざわつき始めた。本当はもう決めていた―見送りには行かないと。別れなんて受け入れられないから、会わずに済ませるつもりだった。でも、気持ちが抑えきれなくなった。だめだ、このままじゃ嫌だ。行かせたくない。若子はパソコンをパタンと閉じ、慌てて席を立った。車に飛び乗り、空港まで一直線。道中、千景に何度も電話をかけた。でも、どれもつながらない。空港は広くて、人も多い。どこを探せばいいのかわからないまま、フライト時間を頼りに人混みの中を歩き回る。それでも千景の姿は見つからなかった。電話をかけ続け、メッセージも何度も送る。【冴島さん、電話出てよ。お願いだから行かないで。今、空港にいるの】【話したいことがいっぱいある。お願い、一度だけ返事して。頼むから】けれど、どれも返事はなかった。午後二時半。若子は空港のひんやりとした階段に座り、空を見上げる。雲の間をゆっくりと上がっていく飛行機を見つめながら、涙が頬をつたう。千景、あの飛行機に乗ってしまったのかな。こんなふうに、行ってしまうの?せめて、電話の一本でも、メッセージの一つでも返してほしかった。若子は涙をぬぐい、悔しさと寂しさがこみ上げて、もう一度メッセージを送った。【これからも連絡しようって言ってたのに、まだ飛行機に乗る前から電話も出てくれないし、返信もくれないなんて。冴島さんのバカ、もう嫌い、もう絶対に許さないから!】メッセージを送り終えると、若子は膝を抱えて泣き出した。そのとき、カラカラとスーツケースのキャスターが転がる音が近づいてきたけど、若子は気にしなかった。すると、隣に誰かが腰かける。「ねえ、お嬢さん、こんなところで泣いててどうしたの?」聞き覚えのある声に、若子はハッと顔を上げた。そこには見慣れた顔―千景が座っていた。「冴島さん、うそ......行かなかったの?」「会いたいって言ってたんだろ?おかげで飛行

  • 夫の元カノが帰国!妊娠隠して離婚を決意した私   第1354話

    若子の鼻の奥がツンと痛んで、涙が止まらなくなった。「冴島さん、私だって、どうしたらいいかわからない。すごく怖いの。未来がどうなるのか、何も見えないんだ......」その言葉を聞いた瞬間、千景の心は鋭く刺されたように痛んだ。「君の言う通りだ。俺だって怖いし、これからどうなるのか、正直分からない。でも、もうこれでいいんじゃないか。君は藤沢と一緒にいればいい。二人は十年以上の歴史があって、君は彼のことをずっと好きだったし、二人の間には子どももいる。俺なんて、ただの部外者さ。どうやったって敵わないよ」「冴島さん、そんなこと言わないで......」運命の人に出会えたら、一分間でも十分に恋に落ちることができる。逆に、合わない人となら、どれだけ一緒にいても、心はどんどん離れていく。「じゃあ、俺は何て言えばいいんだ?」千景は言葉を絞り出す。「君と藤沢の長い歴史を考えたら、君の心の中に彼のための場所が全く残っていないなんて、本当に思えるのか?」「......」若子はうつむいて、「私......」「若子、君が否定したとしても、藤沢は君の心の中に永遠に居場所がある。傍から見ていれば、よく分かるよ」もしかしたら、部外者だからこそ見えるのかもしれない。昨日の夜、修が若子を連れて出かけたとき、千景はこっそり後をつけた。二人のやり取りを見てしまった―二人がキスするところまで。彼らはかつて、世界で一番近しい存在だった。離婚しても、長い年月と子どもという絆がある。千景は、ますます自分がこの関係に入り込む資格なんてないと感じていた。「若子、もう航空券を買った。明日の午後の便だ」「え......?」若子は驚いて千景を見つめる。「もう航空券買ったの?」「うん。本当は明日の朝伝えるつもりだったけど、今話しても同じだろう」これ以上引き延ばせば、ますます離れたくなくなるだけだ。「冴島さん......」若子の心は焦りでいっぱいになった。でも、何と言えばいいかわからなかった。引き止めたい気持ちはあるのに、うまく言葉にならない。仮に引き止めても、どうなるというのだろう。「これでいいんだ。俺はただ帰国するだけ。そんなに悲しまなくていいさ。また会えるよ。これからも連絡しよう」千景の、少し荒れた手が、優しく若子の頬の涙を拭った。「泣

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status