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第1372話

Author: 夜月 アヤメ
また数日が過ぎた。その間、若子の気持ちもだいぶ落ち着いてきて、少しずつ子どもと離れて暮らすことに慣れ始めていた。

夜になると、やっぱりビデオ通話で暁の顔を見たくなるけど、最近は毎日じゃなくて、少しずつ二日に一度、三日に一度―そんなふうに自分を慣らしていこうと決めていた。

週末の土曜日、若子は朝早く目を覚ました。

千景はまだ熟睡中。

彼を起こさないようにそっと起き出して、身支度を済ませる。

若子が静かに動いているおかげで、千景も心から安心できるらしく、彼女がベッドを離れても気づかずに寝ていた。

でも、服を着るときにちょっとした物音を立ててしまい、千景が目を覚ます。

「若子、今日は仕事休みだろ?そんなに早く起きてどうしたの?こっちに戻ってもうちょっと寝なよ」

「今日は暁に会いに行こうと思って」

千景は寝ぼけまなこで起き上がる。「今から行くの?」

「うん、もうそんなに早くないし、会いに行きたいから」

暁に会うとなると、若子は本当に嬉しそうだ。

そんな彼女を見て、千景も理解しているけど、ほんの少しだけ寂しさも感じる。

「一人で行く?」

どうして一緒に来てって言ってくれないんだろう、そんな気持ちもちらりと胸をよぎる。

若子はベッドのそばに座り、「あなたがまだ寝てたから、もうちょっと休ませてあげたくて。一緒に行く?」と優しく声をかける。

千景は彼女の手を握り、「いや、俺は行かない方がいいと思う。今日は君がゆっくり子どもと過ごしたほうがいい。もし藤沢も家にいたら、いろいろ話す時間もできるし」

自分が一緒に行っても、今の三人だとなんとなく居心地が悪い。

若子と二人きりなら問題ない。でも、子どもと修が加わると、どうしても空気が変わってしまうからだ。

若子は彼の顔をそっと撫でて、ほっぺにキスを落とす。

「ありがとう。じゃあ、私一人で行ってくるね。できるだけ早く帰るから」

千景は静かにうなずき、「大丈夫。ちゃんと家で待ってるよ」

若子は準備を整えて家を出る。

千景はそのままベッドに寝転び、ぼんやりと天井を見つめた。

本当に自分たちは、夫婦としてこの先ずっとやっていけるのだろうか―ふと、そんな考えがよぎる。

......

若子が家に着いたのは朝早い時間だった。

修は朝ごはんを食べながら、子どもを腕に抱いてミルクをあげていた。

「暁」

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