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第1386話

Author: 夜月 アヤメ
西也は部下に若子を引き渡し、そのまま銃口を千景に向けた。

「やめて!」

若子は涙ながらに叫ぶ。「西也、お願い、やめて。何でもするから、千景を殺さないで。お願い、どうか、お願いだから殺さないで!」

千景はすでに血まみれで、命の火が消えかけている。地面に広がった鮮血は、レッドカーペットよりも鮮やかで、花びらすらも赤く染められていた。その光景は、あまりにも無残で悲しかった。

「本当か?」

西也はゆっくり若子の前に歩み寄り、いきなり首を絞め上げ、そのまま唇を奪う。

若子は必死に抵抗し、口を開けて噛みつこうとする。

「千景を殺さない代わりに、何でもできるって言ったよな?おとなしくしろ!」

西也の唇は、次に若子の首筋を這う。

若子は二人の男に強く押さえつけられ、抵抗することもできず、西也に無理やり辱められていく。

たとえどんなに屈辱的でも、千景さえ助かるなら、それでいい―若子はそう思いながら、ただ耐えた。

だけど、その一縷の希望も、すぐに打ち砕かれる。

パン、パン、パン!

西也は何のためらいもなく、千景の頭に三発、銃弾を撃ち込んだ。

若子が抵抗しながらもキスされているその隣で、西也は千景に向けて引き金を引き続けた。

わざと、若子にすべてを見せつけるように―

千景の頭が撃ち抜かれる瞬間まで。

若子の目の前で、西也は引き金を引き、千景の頭を貫いた。

若子の目は虚ろになり、心も、世界も、完全に止まった。

さっきまであんなに明るかった瞳は、いまや血塗られた景色に永遠に覆われてしまった。

何が起きたのか、理解できなかった。

信じたくなかった。

目の前で見たことが現実だなんて、どうしても受け入れられなかった。

千景が絶命したその瞬間、若子の心もまた死んだ。

いや、違う―これは夢だ、悪夢だ。

心臓が激しく痛む。

必死で目を覚まそうとしたけど、いくら頑張っても現実は変わらない。

目を開けても、残酷な現実だけが広がっている。

ついさっきまで、お互いに永遠の愛を誓ったばかりなのに―

さっきまで手を取り合い、笑顔で歩いたばかりなのに―

今はもう、愛する人が血だまりの中で倒れている。

そして、自分は他の男に無理やり辱められている。

「いや......千景、千景!ああああああああ!」

若子は絶望の叫びを上げた。

「ハハハハハ!」

西也
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